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約束  作者: りっこ
第1章 始まり
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女は強い?

あの後真っ直ぐ家に帰らずに病院へ寄った。(母がどうしてもと聞かなかったから…)


結局検査結果に異常はなく母と会計を済ませるため待合室へ行った。暇になった私は玉木に改めて感謝のメールをしようと思い、母から車のキーを受け取り一足先に病院の外へ出た。


メールを打ちながら駐車場に向かう。あーやっぱ外は寒い。いつのまにか日が落ちていて辺りは既に夜。


家の車を見つけて鍵を開け、助手席のドアを開けようとした。

しかし背後に視線を感じ、振り向いた…そのまま固まってしまった。


どうして忘れてたんだろう。今朝見たナニかがまた私の目の前にいる。今でははっきりとした輪郭を持って。


闇の中浮き上がる私と同じ年くらいの少年…。それがこの世のものじゃないとすぐにわかった。


冬なのに薄着だし見たことがない服装、極め付けは少年の体の向こうに見える他の車。…体が透けてる。


「なん、で…」


怖い。

体が固まって指一本も動かせない。おばけ…なの?


[約束、守ってくれる…?]


ソレは優しく語り掛けてきた。

この感覚…指導室で聞こえた声と同じかんじ…?



強張った筋肉が少しだけ緩んだ。声が出るかもしれない。



「なんの、こと?」



とても擦れた声は、それでも少年には届いたようで、彼は微笑んだ。


[もうすぐ…時が満ちる。じきに思い出すよ。…そういう約束だから。]


そのまますーっと薄くなって、やがて完全に消えた。


…なんでだろう。最初は状況に恐怖を覚えたけど、彼自身はそれほど怖くなかった…気がする。

時が満ちる…て何?約束?私、何か忘れてるの?


ブー…ブー…ブー…


手に伝わる振動で我に返る。ともちんからメールだ。


『おつー。無事罰則は終えたのかね?』


なんだかんだ言って心配してくれてたのね。うぅ、有難い。

すぐに電話する。2回目のコール音で出てくれた。


『茜ー?どーだったー?』


「ともちーん!!もうわけわかんないこと起きて…わけわかんないの!!今病院でさ」


『え、病院?なんで?』


「いや、念のためにってお母さんが言うから一応来たんだけどね。結局異常なし。」


『は?なんで病院行くことになってんの?』


「あっそっか、ごめん説明すんね。」


私はまたもや口に出したくもない出来事をいちから伝えた。伝え終わる頃には携帯ごしに悲鳴が…そうよね、キショいよね…。


『マジありえん!!あいつほんとキチガイ!!めっちゃサブイボ!!!無事でよかった〜!!!!』


「ね〜…悪夢だよ…あ、いや、それもかなりインパクトあるんだけど、それより気になることがあって…」


喉の奥から絞りだしたような悲鳴が耳に響く。叫び過ぎて喉痛めたのかな…うぅ、ごめん。


『まだあんの!?どんな1日だよ!?あんた祟られてんじゃない!?』


…ごもっとも。

今朝といいついさっきのことといい…やっぱおばけ?


一連のことを話終えた。


『…えー、見間違い、もしくはやっぱ精神的ダメージ強かったんじゃ…』


「違うって!だって声も聞こえたしさー」


「茜?」


会計が終わり母が戻ってきた。鍵を渡し空いてる手でごめんのポーズを作る。母は鍵を受け取ると運転席へと乗り込み、エンジンをかけた。


「ごめんともちん。詳しくは明日話すよ」


『え、あんた明日学校来るつもりなの?』


「うん、そりゃ行くでしょーよ。なんで?」


『こんなことあったのにすげーな。大丈夫なの?』


「あーうん、特になんもないし。んじゃ、また明日ね。」


急いで助手席に乗る。暖房をつけたばっかりだからまだ車内は外と変わらない気温だ。


「車で電話すればよかったのに。」


手足をさする私を呆れたように見ると、車を発進させる。


「いやぁ…やっぱちょっと怖くて…」


聞こえないように呟くと同時にまたもや携帯が震えた。今度はお父さんから着信。


『あ、茜か!?おか、お母さんからメール入ってたけど大丈夫なのか!?』


「ちょ、お父さんに連絡してたの!?」


前方から目を逸らさない母に非難の色をとても濃くした目で睨む。(こっち見ないのわかってるけどそうせずにいられなかった。)


「だって娘の一大事でしょ?ほんとは会社に電話して早退してもらおうと思ったんだけど…」


そうならなくてほんとによかったー。なんか恥ずかしい…とか言えるのは全てが未遂だったからだろうな。


「大丈夫だから。結局何事もなかったし、念の為病院で検査したけどなんも異常なかったよ。あ、今どこ?」


『そ、そうか…まだ会社だよ。今から出るとこで』


「ラッキー!!じゃあさ帰りにMONのケーキ買ってきて!」


「あ、お母さんのも!栗系で…ってMONの隣ピザとかのお店だったわよね?あそこテイクアウトやってるかしら?ちょっと今日はもうご飯作るのさぼっちゃおう。」


「いいね、ピザ!やってるよ〜!薄い生地がいいなぁ。じゃあケーキはオペラと栗系ので、ピザは薄い生地であとはお父さんセレクトでよろしく!」


私たちの勢いに圧倒された父は数秒黙った後、気が付いたように注文内容を復唱して電話を切った。


家に着くまでに玉木にメールをした。

『いいってことよ。つーか学校来るんだ…お前すごいわ。』

て返ってきた。玉木もともちんも…あれ、普通は次の日学校休むもの?でも結局何もなかったし、ハナゲイダーに会うこともないし…ま、いっか。他人は他人、私は私だ。


家に着いてまったりしていると父がいい匂いと共に帰ってきた。


3人で食卓を囲んでいると、父が遠慮がちに今日の出来事を聞いてきた。

聞く方も気まずいんだろうなーと思いながらざっくばらんに話す。父の顔から血の気が引いた。

「訴えてやる!!」

とテーブルに拳を打ち付ける父をなんとか宥める。

「茜がそう言うんなら…」

渋々とだけど最終的には引き下がってくれた。


その後は母と中心に世間話をして笑いながら食事を楽しんだ。

多分母は検査結果に異常なかったことと、私の態度が普段と変わらないことで落ち着きを取り戻していたんだと思う。内心はわからないけどとりあえずそう見えた。


そしてお待ちかねのケーキを美味しい紅茶と一緒にいただいていると父が母に学校のことを切り出した。


「何の話?」


1番上に乗っていた栗を頬張り(ベタにモンブラン買ってきた父)キョトンとした顔で問う母。私にもなんの話だかわからず母子で同じ顔になる。


「いや、だからこのままこの学校に通うの辛いだろうし、転校手続きとか必要だろ?」


せっかくのオペラを丸呑みしてしまった!!ほんとならもっと味わって食べるのに!!


「転校しないよ!?明日からも普通に学校行くし!!!」


「でも…」


「いやいやいや、大丈夫だって!何もなかったし…てかこんなことで友達と離れたくないもん」


「そうよ、お父さん。茜なら大丈夫よ。噂とかあっても気にするような子じゃないし…お友達は大事よ?」


若干最後に含みがあった気がしてちらっと母を見る。案の定、私は温かく見守ってるから…みたいな顔で微笑んでいた。

父はそんな母に気付きもせずに

「いや、しかし」

と頭を捻っている。


「じゃあさ無理っ転校したい!!て思ってからでいいじゃん。(ないと思うけど)その時はお父さん頼るし。ねっ!」


結局折れた父は

「せめて明日は休んだら?」

と言ってくれたけど、それも却下。必要性ないし。

「茜が大丈夫ならいいと思う〜」

という母の一言でこの話は終了。


(…女は強い。)

という父の心の嘆きには気付かないまま、いつもと変わらず(いや、お気に入りのケーキのおかげでいつもより満足してた)この日もぐっすり眠った…明日からの生活に変化があるとも知らずに。


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