その人物
「…あの時の?」
公園で感じた恐怖が忘れられない。早く人のいる場所へ行きたい。(人が気持ち悪いと言ったり恋しくなったり…大変だよ、もー…)
…そう、早く移動したいんだけど…ここがどこだかわからない。闇雲に歩いてきたから、か、帰り方わからない…。
「あ、携帯…!!」
文明の利器の存在を思い出し、ポケットを弄る。…そうだ、バッグの中にいれたんだった…。途方に暮れながらも、ここにずっといるわけにもいかず(なにせ怖いもんだから)とりあえず歩き出す。道に出れば誰かしらいるだろうから駅までの行き方を聞こう。
「…白田!!」
…これは天の助け?聞き慣れた声に緊張しっぱなしだった筋肉が弛む。
後ろから聞こえた玉木の声に振り向くことができず、その場にへたりこんだ。…今更ながら、さっきの出来事がかなり怖かったんだと実感した。膝が笑って立てない。玉木の存在でこんなにも安心するなんて…いつからこんなに人を頼るようになっていたんだろう。
座り込んだ私に慌てて手を貸してくれる玉木。この手が当たり前になってきつつある自分に苛立ちを感じた。
こんなんじゃだめだ
「ごめ、大丈夫。ちょっと道に迷って途方に暮れてただけ。」
両足を叱咤し、なんとか立つ。スカートの汚れを払い、玉木に笑ってみせる。差し出された手は、守るべきもの。いつまでもこの手に縋ってばかりもいられない。…私が守るんだ。
もし、さっきの人(人なのかなんなのか…)が私の敵であるならば、今回はかなりやばいと思う。今度こそ誰かひどい怪我を…考えたくないけど、それだけじゃ終わらない気すらする。
一人でやらなきゃ。きっと皆知れば協力してくれるから…。誰にも知られてしまわないうちに、解決しなきゃ。
「お前…本当に大丈夫か??顔色おかしいし…。」
…ありがとう。玉木。
「うーん、ちょっと風邪気味かなー。ま、大丈夫大丈夫!ほら、皆待ってるだろうし、帰ろ?」
訝しげに私を見る玉木をよそに、空元気を貫き通す。どうする?長期戦になればなるほど、皆私の隠し事に気づいてしまう可能性が高い。(そもそも隠し事苦手なんだもん)
あれやこれやと考え込んでるうちに気づけばマック。…さほど遠くまで歩いてたわけじゃなかったんだ…。
店内へ入ると皆集合していた。私達が店を後にしてから広い席が空いたみたい。
「茜、大丈夫??」
ともちんを始め、皆心配してくれる。笑って誤魔化し、イスに座る。
「皆揃ったことだし、改めて龍太入学おめでとー!!」
…多少無理があったかなーというテンションで乾杯を誘ったが、皆一応それに乗っかってくれた。それから他愛もない話で笑っていると、龍太がひとつの疑問を口にした。
「ねーねー、明日からの部活ってどんなことするの??」
…はい、顔を見合わせ皆フリーズ。確かに活動内容気になるよね。えーっと…今までは気が向いたときに部室行って食っちゃべって…解散してたよな…。そもそも発足してまだ1ヶ月くらいしか活動してないし。
沈黙の時間が流れた。たまりかねた部長が咳払いをひとつして
「…はい、とりあえず明日の活動は今後の活動内容を決めるってことで。」
ということで今日は解散となった。
家に着いてからも、恐怖は私の体に纏わりついて離れない。恐怖もそうだけど…何より不安が胸を締め付ける。初めて、眠れない夜を過ごすことになった。
翌日、いつものように何事もなく過ごす。そして放課後…。
ともちん、玉木、雅史と一緒に部室へ行くため、廊下へ出た…その時、またあの冷たい視線を感じた。でも、公園の時ほど向けられた敵意は強くない。
「ごめんっトイレ行くから先に行ってて!!」
突然走り出す私を誰も止めることができなかった。
どこから…私を見てるんだろう??
視線は未だ私に突き刺さっている。だけどその先の場所が特定できない。
『ユウマ、聞こえてるんでしょ?』
何度も話しかけるが、彼はだんまりを決め込んでいる。その態度に腹が立つ。彼が応えてくれなければ、私はその力を使うことができない。このままじゃやられるのを待つだけになってしまう。
そんな焦りを感じながらあてもなく走り回っていると、ふいに嫌な気配が消えた。立ち止まり、乱れた息を整える。…落ち着いて意識を集中させるも、今やそんな気配は微塵も感じられない。
「…なんだっつーの!!」
得体の知れないものに遊ばれてるようでムカムカする。
はぁーーーーっ
深く息を吐いて部室へと歩き出した。こちらが感情的になっちゃだめだ。ただでさえ頭悪いのに、のせられてしまうだけ。こんな時冷静な頭があればなー…ともちんと雅史の顔が浮かんだ。いかんいかん、しゃんとしよう。
部室のドアを開ける。皆既に揃っているようで、和気あいあいとしていた。私も混ざろうと近くへ寄る。…ん?なんか、人多くない?ひーふーみー…6人いる。あれ、龍太いれて6人だからいいのか?ん?私ここにいるしな。ならあっちにいるのって5人のはずじゃ…
とかなんとか考えていると、誰かが私を振り返った。その顔は見たことない…え、ううん、私、知ってる…?記憶をたぐり寄せる。どこかで見た。それも最近…あっ!!
「…あの時の?」
そう、私が課題で居残りをしているときに、グランドの真ん中にいた人だ。なんでここにいるんだろう?
私の声に他の皆も振り向く。
「遅いぞ、白田。」
「茜ちゃん、僕が考えた活動内容みてみてー!」
「だめだ、見せるな!!白田なら賛成しかねん!」
「あーもーまともなのないの!?」
「俺のは?男が女の子のためにスイーツ作ってもてなす…」
「却下」「それいいかも(楽そう)」
雅史とともちんが睨み合う。皆それぞれに言い合ってる。そんな中、無表情のまま、私を見るその人…なんで皆の中に入ってるの?
「あの…誰?」
視線を外さないまま、単純な疑問を口にする。その一言にキョトン顔の皆。
「…茜、ほんとに大丈夫?」
一気に深刻な空気に包まれる。え、なんかやらかしたっけ、私?
「…俺らのこと、わかる?」
悠斗が冗談混じりに問う。え、なに、この空気。
「わかるよ!!失礼な!!」
「じゃあ…こいつは?」
そう言って無表情に佇む彼を指さす。
「…わかんないから聞いてるんじゃん。誰?」
皆の視線が交差した後、私に注がれる。その目は『何言ってんの?』と、私が変だと言っているようなもので…。
ちょっと待ってよ…どうなってんの??