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約束  作者: りっこ
第4章 名をもって
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まさかの食欲不振…

「…誰……?」




釈然としないまま、とりあえず龍太の歓迎会をしようということになり、場所を移した。いつもの駅前マック。入学式ということもあり、生徒で溢れかえっている。そんな中、もちろん6人一度に座れるような席は空いてなくて、ひとまず少人数で分かれて座ることにした。


ぐーとぱーで分かれましょ。


私、龍太、玉木。ともちん、悠斗、雅史。一回目で見事に分かれた。ともちんと悠斗のことが気にかかるものの、以前言われたともちんの言葉がある。…なるようになるのをただ黙って待とう。


龍太に席をとってもらい、玉木と2人レジに並ぶ。見上げる先にはおいしそうなメニューの数々。てりたまかぁ~…うーん…これとこれ…??ん??おかしいぞ…。


「コーラのM。以上でお願いします。」


私の注文内容を後ろで聞いていた玉木が息を呑んだのがわかった。


「ちょ、白田??マジ??そんだけ??体調悪い??」


…まあね。いつもの私を知っている人にとってはそうでしょうよ。…がしかし、そこまで驚くこともないじゃん?


「ダイエット中だもん。」


飲み物のみを受け取った私は女子っぽいセリフを残し、龍太の待つ席へと歩き出す。私に気を取られていた玉木に、店員が注文を催促する声が聞こえる。…この激混みの中、迷惑な奴め。


「茜ちゃん…具合悪いの?」


…龍太にも同じことを言われてしまった。なんで私の普段の食欲知って…そっか、ともちんお見合い合宿(?)の時に知られたんだった。


「いや、そういうわけじゃないんだけど…なんとなく?」


…自分でも思う。どうしたんだろう?なんか胸の辺りがざわざわする…。うーん、説明しづらいな、言葉を当てはめて一番しっくりきそうなのは…落ち着かない…とかかな。


遅れて玉木が2人分のセットをトレーに乗せて帰ってきた。美味しそう。…美味しそうなんだけど、食欲に結びつかない。ん?どうした私。


「じゃ、とりあえず乾杯。龍太入学おめでとー!!」


3人マックドリンクで乾杯する。…龍太ってばボンボンの割になじんでるなー。偏見だとは思うがお金持ちってこういうファーストフード食べない気がしていた。


…しかしなぁ…目の前には美味しそうなバーガー、ポテト、ナゲット…いつもなら軽く食べてしまえるのに、なんなんだろ。全く食べたいと思わない。…むしろ気持ち悪い?


「どうした?」


自分の不調に知らず知らずのうちに深刻な顔をしていたみたい。(つまりは眉間に皺寄ってた。)玉木が心配そうに私を見ていた。龍太も口にマヨネーズつけっぱなしのまま…ほんとわんこみたい。いかんいかん、今は私のことより気になることがある。


「いや、ほら、6人目の部員だったり、龍太の案内人だったりさ、謎の人物が気になってさ。」


口から出た取り繕いの言葉…だけど本当にそう。確かに気になるんだよね。一体誰なんだろう…。


「うーん…6人目の部員についてはたっつんに確かめればわかることだしそんなでもないけど、案内人(定着?)についてはほんと気味悪いよな。」


「僕悠斗に言われるまで気づかなかったけど…どうしていろいろわかったんだろうね?」


「ほんと…なんか、気持ち悪い。」


玉木と龍太が2人して首を捻っている中、私は後悔していた。…口に出したことでほんとに気持ち悪くなってきた。なんだ?体調悪いのか?


「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくる。人酔いしたっぽい。」


それらしい言い訳をして席を立つ。玉木がついてきてくれようとしたけどそれを制した。すぐ戻ってくるから大丈夫。そう言い残して店を出る。人が多い駅前を避けるように、今まで通ったことがないような路地を進む。なんだ、ほんとに人酔いっぽいな。そんな繊細じゃなかったはずなんだけど。人がいないところに行きたい。人が…人が、気持ち悪い。


一瞬、幽霊関係かなとも思った。バレンタイン以降、そういった騒動はまるでなかったし、だから今がそれかな…と。だけどだったらユウマが何かしら動くはずだ。でも全く私に対して働きかけてこない。…ってことはやっぱりただの人酔いか…。


どこをどう歩いたのかわからない。けれど私は確実に人気のない方へと進んでいた。やがて小さな公園に辿り着いた。ペンキの剥がれかけたベンチに座り、長く深い息を数度繰り返す。…やっと息苦しさから開放された。


なんだろう…やっぱり病気かな?食欲なくなるとか今までそうそうなかった。それに人酔いも…多分初めてだ。


自分の体なのに自分のものじゃない気がして、思わず身震いする。…その身震いも一瞬で終わらず、ずっと続く。小刻みに全身が震える。なんだ、これ…公園の雰囲気が変わった…?


今は4月。まだ寒いと感じることはあるものの、今私が感じている寒さは異常だ。極寒の中、服も着ずに立っているような…全身痛いと感じるような寒さ…それなのに額には汗が滲む。さすがにこれはおかしい。ユウマ、なんとか言ってよ。これって絶対おばけ関係じゃないの!?


いくら心の中でユウマに呼びかけても返答はない。同じことだとは思いながらも、声に出して彼を呼ばずにはいられない。そしてその名前を言葉にしかけた時―――――――




…誰かの視線を感じた。それは冷たい…ううん、違うな。どこか寂しげな…。




確かめたい。これが誰なのか。なぜ私をそんな瞳で見つめるのか。


頭ではそう思っていても、体は言うことを聞かない。命令に背く私の瞳は頑なに視線を地面から逸らそうとしない。拳を力いっぱい握り締める。怖い、怖い、怖い…。何度も怖い目に遭っている。それでもこんな冷たい恐怖は感じたことがなかった。…それが幸いした。爪が皮膚に食い込んだその痛みでやっと私の意志と体が直結した。


ゆっくりと視線を上げていく。どこに心臓があるかわからない。体のそこら中からドクドクと音が聞こえる。恐怖が体中を跳ね回る。でも、どんなに体が拒んでも、どんなに怖くても…きっと確かめなくちゃいけない。――――――――私は顔を上げた――――――――。




「……うそぉ………」



…そこには既に人の姿はなかった。そして今まであった震えも、気持ち悪さもなくなっていた。


「誰…だったんだろう…?」


きっと私は確かめなきゃいけなかった。知らなきゃいけなかったんだ…。

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