現実の中の非現実?
「だーるーいー」
はい、ただいまの時刻、午後6時半。普通帰宅部なら友達と遊び行ったり、家でゴロゴロしたり(私はもちろん後者)してる時間だよ。
それなのに…うっかり春休みの課題終わらせるの忘れてただけで居残りとかさー…もう、とりあえず面倒くさい状況だよ。
「自分のせいだっつの。」
目の前には私の課題を手伝う玉木の姿が…。うーん、ほんといい奴だよねー。
「すいませーん…てかいいよ?別に手伝ってくれなくても…」
「何言ってんだよ、これ終わらないと皆のとこ行けないだろ。」
「皆?何、今日なんかあったっけ?」
玉木が大げさにため息をついてみせた。
「おまえ、興味ないことでもせめて頭の隅に置いておくとかゆー努力をしろ!!」
「えーだってー…」
先生みたいなことを言う玉木に唇を尖らせ抗議しようとする。…それさえ遮り、今日がなんの日なのか教えてくれた。(喋らせろ、ちくしょーめ)
「だから部活の勧誘どうするかって話をするんだろ?」
「勧誘?勧誘すんの!?」
「当たり前だろ。悠斗が抜けたら俺ら4人になって廃部になるじゃん。」
そうかー…気心知れてる仲でグダグダやるかんじが気に入ってるのになー…新入生ねー…
などとそっちに気を取られていると頭に鈍い痛みが走った。
「ったぁ~!!何もノートわざわざ丸めて殴るこたぁないでしょう!?」
「おまえの課題待ちなのに意識飛ばすからだ、ばか。」
くぅー…正論だ。言い返せない。
渋々と意味のわからない数式とのにらめっこに戻る。…だーめだ。わからん。
数式にまるで関心がない私は、手の下で朱色に染まるノートへと意識が飛んだ。
こないだまでこの時間は真っ暗だったのに、随分日が長くなったな。
ふとグラウンドに目を落とした。日暮れの太陽の色を吸い込んだ砂がなんとも言えない色合いを作り出していた。昼でも夜でもない。その中間。
なんとなく目を離せずにいると、視界の隅で何かが動いた。整備されたグラウンド、その周辺には部活動生のためにネットが張られている。そのネットの外側に等間隔に数本の銀杏が植えてある。その木の下。誰かいる。
その人物はこちらに気づくこともなく、ネットを越えゆっくりとグラウンドの中心へと歩いていく。
大体中心にきたかというところでピタッと足を止めた。そして一瞬ーーーーそう、一瞬。目が合った。
「おい、こら!!」
玉木の大声に一気に現実に引き戻された。
「た、玉木、ごめん、でもほら、あそこに人が…」
そう言ってグラウンドを指すんだけれど…先ほどの人物はすでにそこにはいなかった。
別にまだ残ってる生徒ほかにもいるだろうし、変なことをやってたわけでもない。…それでもなぜか気になる。なんとなく…現実離れしたその光景が忘れられなかった。