チョコの味
「え!?悠斗のことがすっオブブブブブブッ!?」
昨日、三人にハグをした後、雅史と悠斗の能力について少し聞いてみた。
雅史は風を操ることができるみたい。悠斗とともちんが屋上から落ちた時、下から上へ風を巻き起こらせ、落下速度を緩和したことで2人はほぼ無傷だったらしい。初めてなのにものすごいエネルギーを使ってしまったため、へばったんだって。
悠斗は物から想いを読み取れる。そして自分に憑依させることができるみたい。
「雅史が物理的なことが得意なら、俺は精神面が得意みたいだな。人の気持ちも読み取れるし、その気持ちに働きかけることもできるから。」
校門の前にいた2人、あの2人の心を読み、いい方へ転がるように精神に直接働きかけたらしい。…ん?つまり…
「私の心も読めるってこと!?」
他2人も悠斗に詰め寄る。だって…そんな、心を覗かれるなんて嫌だ!!
「落ち着けって。ちゃんと読まないようにしてるよ。あの2人には迷惑かけられたからね。今回は特別。…いい能力だと思うけど。今後霊とのコンタクトある時とか、戦わなくていいならそれに越した事はないっしょ?」
「う…確かに。でも、お前、絶対人の読むなよ?」
「プライバシーの侵害反対。」
「…2人とも、やましいことがそんなにあるの…?」
男2人のあまりの剣幕に若干引いてしまう。
「ちがっ…」(2人声揃えております。)
「じゃあ読んでもいんだな?」
「うっ…」
というかんじで、とりあえず2人の能力がどんなものかわかった。その日はそれで解散することになって、ともちんにもその旨を伝えるためメールしたんだけど…返ってこなかった。病院行ったし、具合悪いのかと思って電話もしてみたけど、それにも反応はなくて、次の日を迎えたわけで…。
教室へ行くと既にともちんは鎮座していた。(自分の席じゃなくて田中君の席…。)
「ともちーん!?おはよ!?大丈夫!?」
ともちん…あんまり眠れなかったのかな…?目が赤いし…なんか、やつれてる?
「昨日、ごめん、電話とメール…。ちょっと1人で考えたくて…。」
「全然いいよ!体大丈夫なの?」
「体より…茜に聞いてほしいことが…。」
何かとても深刻な話なんだろう。青ざめたともちんを見ていると、昨日解決したと思っていたことが単なる思い違いだったのかと心配になってくる。
「皆さーん、おはようございます。HRを始めますね。」
もっちーが始業のチャイムと共に教室へ入ってきた。…相変わらずぽやんとしてるなー。…HR始まったのにともちんは席を移ろうとしない。田中くん、今日休み?と思って周囲を見渡すと、…哀れ、ともちんの席に所在なげに座っていた。
「…ということで、1限は自習です。あまり騒がないでねー?」
…どういうことなのか全く聞いてなかったけど、タイムリーだね。ともちんの話を聞ける。
教室内はいつも通りざわついている。こんなところで深刻な話もどうかなーと思ってともちんを見たけど、特別移動する気配はない。…ここでいいのかな?と思っていると、ぽつりぽつりと話し出した。
「昨日、体乗っ取られている時も、私意識はあって、自分が何やってるかとか、全部覚えてるんだー…。それで…勘違いであってほしいと散々思ったんだけど、夜通し考えたんだけど…私、悠斗のこと、好きかもしれない…。」
「………………………えーーーーーーーっ!?」
…で、文頭の叫びに戻ります。うっかり大声で騒ぎ出す私の口を両手で塞いだともちん。…さっきの告白が本当なんだと、ともちんの表情でわかってしまった。顔面と言わず、全身真っ赤に染まっている。
「ちょ、もうっシーッッッ!!」
「…モゴッモゴモゴモゴゴ。(ごめんなさいって言ってます)」
私が落ち着いたのを確認すると、手を離してくれた。…えーっと…2人に何があったんだ?
「…なんでまた…悠斗なの…?」
「私もそれで悩んだんだってば…。よりにもよって…あんなチャラ男…。」
「で、でもさ、両思いじゃん?問題ないっしょ?」
「…絶対嫌。私の気持ちバレるなんて考えたくもない。」
「え…だって好きなんでしょ?じゃあバレてもいいんじゃ…」
「だめなの!!」
…ともちん、声大きいです。全員こっちに注目してしまいましたが。
「…何見てんのよ?」
…それはとても小さな一言。でも、効果抜群。昨日のこともあって触らぬ神に祟りなしとでもいうところだろう。
「好きかもって思うけど、言うつもりはないけど、茜には聞いてほしかった。…これってやっぱりだめなのかな?」
「…だめじゃないけど…なんで言わないの?普通好きな人の彼女になりたいとか思うんじゃないの?(と言っても自分にはわかりませんが)」
「…あいつ、チャラいから。…怖い。いや、真剣に想ってくれてるのは、昨日の一件でわかったんだけど、…だから私も好きかなって思ったし…。でも、完全に信じれたって言ったら…それも違うんだよね。…見極めたいんだと思う。私、軽い気持ちで付き合うとか無理だし、悠斗のも自分のも…ちゃんと見極めてからじゃないと、今のままではどっちにしろうまくいかないだろうから。」
…惚れ惚れする。ともちん、今めっちゃ綺麗…。いや、前から綺麗だったけど。恋をすると女の子は綺麗になるって聞いたことあるけど、…まさにそれだな。ともちんの美貌と今の気持ちを正直に話してくれた嬉しさとで、顔が綻ぶ。
「そっか…。うん、じゃあとりあえずは今のままでいんだね?」
「…うん。だったら話さない方がスムーズかとも思ったけど、やっぱり聞いて欲しかったから…。ごめん。」
「何言ってんの!話してくれて嬉しいよ!!」
2人顔を見合わせて小さく笑う。うーん、いいな、このかんじ。恋かー…私にはまだ縁遠いな。
「あ、そうだ。」
ともちんはそう言っておもむろに席を立った。自分の席へ戻り、カバンから何かを取り出し、すぐに戻ってきた。
「昨日はバタバタしててとてもそれどころじゃなかったから。1日遅れたけど、これ、バレンタインのチョコ。」
待ってましたーーー!!!じゃあ私も…って、あれ?チョコ昨日持ってきてたよね?あれ、どこやったっけ??
「ごめん…ともちん。昨日の騒ぎでどっかやっちゃったみたい…。」
ともちんのチョコを受け取り、2人でおいしく頂きました。そして放課後、今日も部室へ行く。(片付けが相変わらず中途半端だから。)
「うわっ!!誰だー?昨日エアコン切り忘れたの。」
玉木が部室へ入るとモアッと暖かい風が廊下に流れてきた。昨日は皆いっぱいいっぱいでうっかり忘れてしまったんだね。うん、もう仕方なくない?大変だったんだしね。
そうして部室の中へ入る…と、テーブルの上に見慣れた紙袋が…。
「あーーーーっっっ!!!」
「な、なんだよ?」
「チョコ…ここに忘れてたんだ…しかもこんなわかりやすいところに…。」
案の定、中身は暖房のせいででろんでろん…でも、せっかく皆の分作ったし…そう思い、皆を振り返る。
「…協力してくれるって言ったよね?」
…皆で食べたトリュフの味、忘れないよ。
第3章、完。