新たな力
「好きだ。」
悠斗は目覚めたばかりのともちんに宣言通りに告白した。
その言葉はとてもシンプルで、またもや私の中の悠斗像は変わったんだ。
「十百香が好きだ。返事はいらない。…まだ、ね。」
周りに私たちもいるのに、そんなの関係なしにまっすぐにともちんを、ともちんだけを見つめて…。
当然のことながら突然の告白に私以外の人はフリーズ。知ってた私でさえも、今かよ!?て思ったもん。仕方ないよね。
「…俺たち、出てようか?」
気を利かせた玉木は出口を指差し、呆気にとられている私たちを促す。
「いいよ。とりあえずはもう終わったから。」
「…お前、大物だな。」
たっつんが苦笑まじりに呟いた。私たち3人は居心地の悪さに身じろぎをする…しかない。
「どこか痛いところはないか?」
たっつんの問診にともちんは首を横に振る。どこも異常はないらしい。…よかった。
「念の為病院行くか。鷹司、お前もだ。」
「俺は後で行くから、先に十百香連れてってよ。」
たっつんは浅く頷き、なんとなく体がだるそうなともちんに手を貸す。…半日幽霊に体を乗っ取られてたんだもんね。かなり消耗しているみたい。
「お前らも、今日はもう帰れよ。なんだかんだでもう下校時間だ。」
…そう、あっという間に夕方になっていた。ほとんどの生徒が学校を後にした校舎。今は夕暮れに染まっている。…本当に今日は大変な1日になったもんだ。でも、皆が無事でよかった。2人が屋上から落ちたとき、どうしていいかわからなかった。自分が危険な目に遭うよりも、かなり怖かった。全身の血が一気に冷たくなって、目の前が真っ暗になる。…あんな経験はもうしたくない。強くならなきゃいけない。
ポン
頭の上に誰かの手が置かれた。
「とりあえず、よかったな。」
緊張が緩む。あー…誰かに危険が及ぶのはいやだけど、こんな時1人じゃなくてよかった。だからこそ、守らなくちゃいけないよね。
玉木に笑い返す。
グゥ……
…うん、仕方ないよね。だって今日お昼抜きだもん。
「…俺のところまで聞こえたが。」
ともちんが今まで寝ていたベッドの隣で休んでいた雅史。…そこまで聞こえたのか、このおなかめ…。あー、だめだ。意識するとめちゃくちゃおなか減ってきた。
「私たちも帰ろうか?何か食べて帰ろうよー。」
もう無理だよ、自覚したらさらにおなかぺこぺこだよ。
「俺はまだここにいるよ。」
悠斗は窓の外をじっと見つめている。何があるんだろう?と思って目線を追いかけてみるけど…校門しか見えませんが。
「もうすぐだと思うし。」
何がもうすぐなんだろう?それを聞こうと口を開きかけた時、玉木の「あっ」という声につられ、また校門に目を移した。…そこには2つの人影があった。
「…うん、大丈夫だろ。よし、じゃ帰ろっか。」
「え?何?あの人たち、知り合い?」
つーか何が大丈夫なんだ?ここから2人がなにやら話し込んでいるのはわかる。もちろん聞こえる範囲にいないし、話してるのが生徒じゃない男女(私服を着ているのがわかる)ってことぐらいしかわからないんだけど。
「あの人たちだよ。今日の元凶。」
元凶…って、は!?紗衣香さんと会長!?いや、だって、2人はもう亡くなってるんでしょ?
言葉を発さなくても私の表情からその疑問を読み取ってくれた悠斗。正直、すぐに話せないくらいに驚いていたのでありがたい。
「うん、2人とも死んでなかったんだよ。紗衣香さんの強い想いがドレスに残って、それが暴走しただけみたいでさ。まあ、よかったよかった。うまくまとまって。…ね。」
…えーーーーー!?そんなんあり!?開いた口が塞がらない。今日の苦労はなんだったんだ!?
「…お前、なんでそんなこと知ってんの??」
玉木が悠斗に問う。…確かに。どうして2人が生きてるってわかったんだ?それに、今日ここに来ることも…。なんで?
「待てよ。話さなきゃいけないのはお前らの方だ。」
雅史が口を挟む。…え、どういうこと?
「…俺らが屋上から落ちて平気だったのは、雅史のおかげだよ。雅史の力に、俺の力…。なんでこんなことができるようになったのか…それを聞かなきゃいけないのは俺らだろ?」
…そうだよね。また巻き込んじゃったんだ…ごめん。巻き込んだからには今までのこと、これからのこと、ちゃんと話さなきゃいけない。
私は日の落ちていく保健室で、ひとつひとつ言葉にしていった。