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約束  作者: りっこ
第3章 食い倒れ部発足
41/111

悠斗の決意

「ともちん!!悠斗!!」




ドッドッドッドッドッ…


心臓が壊れそう…。未だかつてないほど、激しく収縮を繰り返す心臓…。全身が心臓になってしまったかのように、大きく嫌な音が響く。


フェンスにすぐ駆け寄ることができず、その場に腰を抜かしてしまう。確かめるのが怖い…。


私の肩を支える玉木の手も震えている。…どうしよう。ともちんが…悠斗が…。


「2人は大丈夫だ。」


やけに冷静な声に雅史を振り返る。この高さから落ちて大丈夫なわけないじゃん…と思う反面、彼のその言葉にすがりつきたい一心だった。


「…雅史?」


ところがそこには全く予想していなかった雅史の姿があった。


「お前…どうしたの?」


さっきまで普通だったのに、今はフルマラソンを走りきった直後のように憔悴しきった雅史が、肩で息をしている。


「こっちが…聞きたい…。でも…大丈夫だ。2人とも生きてる。」


なぜかそう確信している雅史。…信じていいの?


無意識に玉木の服を力いっぱい握り締めていた。その手はじっとりと汗ばんでいる。


『大丈夫だよ、茜。雅史の力で2人は無事だから。』


パニックになりそうな私とは裏腹に、頭の中に響く声はとても落ち着いていて、そのおかげでちょっとは冷静さを取り戻せた…と思う。そう、まずは状況を確かめないと。本当に無事なのか…どうなのか。


強ばった全身は動く度にギシギシと音がなりそう。重い体を引きずるようにして、恐る恐るフェンスの下をのぞき込む。下はレンガ。障害物になりそうな木は生えていない。…ともちん、悠斗…。


「…すごい…。」


一緒に下を見た玉木が息を呑んだ。…それもそのはず。私たちの頭の中では、最悪の光景が広がっていた。けど、こちらに気づいた悠斗がいつものようにへらへらと手を振っている。ともちん…は意識を失っているみたいだけど(もし何かあったんなら悠斗が冷静でいられるはずがない。)特に外傷はなさそう。


「…よかったぁ~…。」


「…お前ら、信じろよ…。」


へなへなへな…とまたしても腰を抜かす。雅史のこと信じなかったわけじゃないけど…だって、でも、ありえないじゃんか。…あ?って思うってことは信じてなかったのか。…まあいいじゃん、とりあえず2人無事だったんだし。ほんとによかった…。何があったのかわからないけど、今はひとまず2人の無事を喜ぼう。


と思ったんだけど…寒い。今になってやっと屋外の寒さに気づく。ブレザーも着ないでこんなところに長居したら風邪ひいちゃう。


「2人の無事確認できたけど、一応保健室に連れて行こう!」


その一言で屋上に残された3人が一斉に動き出す。…はずだった。


「ちょ、どうしたの?」


「…っ知るか!!」


「マジで?」


雅史は一人で立てないようだった。玉木が肩を貸すとようやく立…ってるのか?玉木に引きずられる形で階段を降りていく。まず雅史を保健室へ連れて行ったほうがよさそうだ。でも、あの2人外で待たせるのも…寒いよね?かと言って私が2人を運べるわけないし…。何か着るものを持って行って、玉木を待とうかな。


玉木に雅史を託し、教室へと足を運ぶ。階段を降りて廊下を走っていく。…なんだろう、違和感が…。


はっ!!そうか!ピンク色の空気がなくなってるんだ!!


今回の事件の原因を取り除いたから、チョコの効果も切れたんだ…。逆ハーレム現象はどこにも見当たらない。よかった!!これでまた平和な毎日を送れる…。


教室でともちんのブレザーと玉木のブレザーを拝借して、2人が落ちた現場へと走る。待っててね!!


いちいち靴に履き替えるのが面倒で、上履きのまま飛び出す。2人はどんな状況だったんだろ?雅史の力って…一体何が起こったの?


2人のこと以外を考えられる…その余裕が嬉しい。無事だったからできることだよね。そんなことを考えていると、思わず頬が緩んでしまう。あーよかった。


「悠斗!」


さっきと変わらぬ場所・姿勢でいる2人を見つける。嬉しくって仕方ない。とびきりの笑顔で近づいた。…近づくまでわからなかった。


「…悠斗?」


私の存在に全く気がつかなかった悠斗。…その頬は涙で光っていた。なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする。気づいていないならこのまま引き返した方がいいかも…。


「…はは、やばい、これ、止まらない。」


私の方を向いた悠斗…。次から次へと溢れる涙。気まずい…けど、気づかれたんなら、もういいよね?ともちん寒そうだし、ブレザーを手渡す。悠斗は受け取ったブレザーでともちんを包んで、ぎゅっと抱きしめた。自分の分のブレザーも、ともちんに。その間も、涙は流れ続けた。…男の子がこんなに泣くの、初めて見たよ。


「俺の中にさ、あのノートの人の気持ち、ぶわぁーって入ってきたんだ。そしたらもうなんか…切なくなっちゃって…気づいたら体貸してた。」


やっぱりあの時の悠斗は会長だったのか。雰囲気めっちゃ違ったもんね。


1人納得している間も、悠斗は放心状態。突然他人の心が自分の中に入ってきたんだもんね。すぐにいつもの悠斗…ってわけにはいかないか。


「……やりきれないよな。お互い好きだったのに…少しのすれ違いで別れ別れになって…ちゃんと伝えてればこんなことになってなかったのに…。」


ポツポツと…独り言のように言葉をつないでいく。黙ってそれを聞くことにした。きっと心が混乱してるんだろうから。


「…向き合うことを怖がってちゃ、だめだよな。大事な人なら、怖さも増すけど、それでも、伝えられるうちに伝えとかないと…後悔すると思う。…うん、俺はする。十百香を失うかもって思った時、本当に怖かった。いつのまに…こんなに惚れてたんだろうな…。」


…悠斗、本気だったの?私、半分ネタだと思ってたよ…。なんか、ごめん…。


後ろめたさでいっぱいの私を正面から見据えた悠斗は、吹っ切れたように私に向かって宣言した。


「十百香が気づいたら、俺、ちゃんと告うわ。」


「………えーーーー!?告うって…告白ですか!?ちょ、まだ、は、早くない!?」


悠斗を思い止まらせようと説得しかけた時に、玉木がやってきてしまった。それでも私はまだ今の話をするつもりだったけれど、悠斗は何事もなかったかのようにいつもの悠斗に戻っていた。


「ごめん、十百香お願いしていい?俺は1人で大丈夫だからさ。」


ともちんをお姫様抱っこで抱える玉木に向かって「十百香は俺のだから変な気起こすなよ?」とか軽口(いや、本気…?)叩いている悠斗に、これ以上何も言えなかった。…どうなっても知らないからね…。

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