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約束  作者: りっこ
第3章 食い倒れ部発足
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届いた想い

「…大好きだったから…。憎まれ口たたくような仲のままでも…側にいてくれるなら、何だってよかった。私…相模が裏切ってたっていう事実が悲しいんじゃない。彼女がいても…別によかった。私のことを少しでも想ってくれているのなら…2番目でもいいって…そう思ってたの。…でも相模は私のことなんて何とも思ってなかった。…彼女いるのに、私にキスしたんだよ?ちょっとは私のこと好きなのかもって…思うじゃん。だからきっとあの時来てくれるって信じてた。そこでちゃんと告おうと思ってた。…。」


紗衣香さんは今まで誰にも言えなかっただろう本当の気持ちを、ゆっくりと話してくれた。ところどころ嗚咽になって聞こえにくかったけど、彼女の言葉のひとつひとつが私の胸をぎゅうっと掴むようで…苦しくなった。


誰かを好きになるということは、楽しいことばかりじゃない。時にとても心が痛んでしまう。心が悲鳴をあげてしまう。あの時もそう思った…あの人が流した涙は、私までもとても悲しい想いにさせた。私が殺してあげたら彼はきっと楽になる…幼い私がそう感じてしまうほどに…。……?あれ、なんだ?彼ってなんだ?今一瞬、映像が浮かんで…っ!?頭が痛い!!


両手で頭を抱えてうずくまる。急激にとんでもなく痛みだした頭…とても立っていられない。思わず会長のノートを落としてしまった。…そうだ、このノートを紗衣香さんに届けなくちゃ…。


「おい、大丈夫か?」


懸命に右手をノートへと伸ばす私に、玉木が手を貸してくれた。まだ頭は痛いけど、立てないほどじゃない。全体重のほとんどを玉木に預けながら、それでもノートを片手に立ち上がった。


「紗衣香さん…私、会長はあなたのこと、好きだったんだと思います…。」


支えてもらいながらフェンスへ近づく。この行動に警戒した紗衣香さんは、じりじりとあとずさる。だめ、それ以上行ったら落ちちゃう…!!


「これが証拠です!!なんとも思ってない人の名前を、会長みたいな優等生がこんなにいっぱいらくがきしますか!?」


見えるようにノートを開く。…でも彼女からは見えないだろうな。まだ2メートルくらい離れてるもん。


「お前、そこから動くなよ?俺が証明しに行ってやる。」


ふらつく足で紗衣香さんの元へ行こうとする私に、悠斗は大股で近づき(あっという間)ノートをそっと取り上げた。…悠斗の手がノートに触れたその瞬間、風が私たちを包んだ…気がした。ノートを手にした悠斗は紗衣香さんを振り返り、躊躇いも見せずにフェンスの向こう側に降り立ち、彼女と対面する。


「じっくり見ろよ。」


ノートを紗衣香さんに渡し、自分は悠々とフェンスに寄りかかる。…いつもの悠斗より、なんか、なんというか大人びているように見える…。この人って、なんか頼りになる…そう思えた。(悠斗に対してそんな気持ちを持つなんて…びっくりした。)


彼女は震える手でノートを開き、ゆっくりとページをめくっていく。1ページ、6ページ…全て読み終わる頃、彼女の目からはいくつも大きな涙が溢れていた。よかった…たっつん、このノート無駄にならなかったよ。1冊のノートが紗衣香さんの想いを浄化してくれたんだ。


「これ、何…?なんで…」


「好きだったんだ。じゃなきゃ、こんなキモいことしない。」


悠斗の言葉に、紗衣香さんは顔をあげる。涙でぐしゃぐしゃになったその顔は、それでもとても綺麗だった。


「相模…信じていいの?少しは私のこと、好きだった…?」


悠斗を見上げる紗衣香さんは、まるでそこにいるのが本当の会長であるかのように、彼の言葉を切望しているように見える。一方、悠斗の表情はここからじゃ見えない。でも彼の背中からは、いつもの悠斗の雰囲気とは違う、うーん、なんて言ったらいんだろう…いつもの悠斗が赤なら、今は濃い青みたいな…そんな雰囲気を感じる。


なんて考えこんでいると、悠斗がゆっくり体の向きを変え、紗衣香さんを真正面に捉えた。


「だからお前はアホだって言ったんだ。いい加減わかれよ。…少し、じゃない。」


紗衣香さんの涙を拭い、優しい瞳で彼女を見つめる悠斗。


「…好きだ、紗衣香。」


そう言って紗衣香さんを抱きしめた。紗衣香さんはゆっくり、悠斗の背中に手を伸ばす。それが幻じゃないことがわかると、悠斗同様、ぎゅっと彼を抱きしめた。


…また。胸がぎゅうと締め付けられる。切ない、愛しい、痛い…この感覚はなんだろう?


「危ないっ!!」


雅史の叫び声で我に返る。あ!?


2人は抱き合ったまま、意識を手放した。魂が抜けるってこういうことなのかも。一瞬で全身の力が抜けたみたい。2人はあっという間に…私たちの視界から消えていった。



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