身の安全
「離してよ!!やめてってば!!何なのよ!?」
…びっくりした。
悠斗は下僕を押しのけ、持っていた上着をともちんの頭にかけると、そこにいる全員が呆気にとられ何も言葉を発せないでいるうちに、さっさとともちんを教室の外へ連れ出した。(ともちんだけはわめき散らしていた。)
咄嗟に動けなかった私たちは、我に返ってからすぐにバタバタと2人の後を追ったけど、結局見失ってしまった。
「はぁ…きっつ…どこ行ったの〜?」
普段率先して運動をしない私は早々にわき腹に鈍い痛みを感じていた。辺りを見回しても…桃色に染まる人々しか見えない。もう!!悠斗の奴め!!綺麗な酸素がない場所で走らせるなよ!!
「落ち着け。悠斗が行く場所ならひとつしかないだろ。」
ケロリとした顔で淡々と話す雅史。
「どこだよ?」
対する玉木も…涼しい顔をしている。もしや息切れしてるの私だけ?
「考えてみろ。俺と悠斗は昨日この学校に来たばかりだ。」
息を整えつつ玉木と一緒に雅史の次の言葉を待つ。やや沈黙があって「だからそういうことだ。」とだけインテリメガネは言う。…が、意味がわからない。
クエスチョンマークが浮かんだまま顔を見合わせている私たちにシビレをきらした雅史はやっとこさ説明しだした。
「俺達は転校したてでまだ校内を全て把握しているわけじゃない。こんな異常な校内に残っている正常な場所なんてすぐに思いつかない。…一カ所を除いて。」
ん?どゆこと?一カ所はわかったってことか?
私はまだいまいち理解できてない。こんな風にいちいち濁さずにさ、結論だけバシッと言えないのかな。
とかなんとか不満を募らせている私をよそに、一人すっきりした顔の玉木。ついさっきまでは仲間だったのに…。
「なるほど!じゃあ早く戻ろう!」
「戻るってどこに?教室行ったってともちんもういないじゃん!」
「何言ってんだよ、部室に戻るんだよ。」
玉木の言葉に雅史が言った言葉をつなげていく。…そういうことか。なんでわからなかったんだろう?ピンときてもよさそうなものなのに。…自分でも自分がわからない私は、既にこちらに背を向けてしまっている玉木を追う形で駆け出した。そんな私に向けられた、心底呆れたような冷ややかなメガネ光線には敢えて気づかないことにする。
そうして私たちは、2人がいるであろう部室へと向かった。
部室まであと数メートルってとこで私は確信した。雅史の言った通りだ。
2人のやりとりが廊下にまで響いてる。内容まではわからないけど結構な言い争いになってるみたい。
慌ててドアノブを掴んだ私の手に制止の声がかかった。
「様子を見よう。」
玉木が声を抑えて中の様子を窺ってる。
「なんで?今行けば4対1だし、あの服脱がせられるよ。」
逸る気持ちのせいでうっかり大声になりそうなのを、必死で堪える。
「ここは悠斗に任せよう。」
「だからなんで!?チャンスじゃん!」
煮え切らない2人の態度に焦る。こうしてる間にも状況が不利になるかもしれないのに。
そんな私の気持ちはわかるんだろう。同じ表情を浮かべた(気まずそうな顔)2人はもごもごと言い訳を始めた。
「いや、春日女だし、…き、着替えの現場にいるのは遠慮したいなーと…。」
「そんなこと言ってる場合じゃないじゃん!」
「…もし服と春日を引き剥がした瞬間、春日が正気に戻ったら、俺達の身の安全の保証はどうなる?」
…それはもう大変恐ろしいことになるってのが、容易に想像できますね。
頑張れ、悠斗。