悠斗登場
「だめだって!!」
私たちの制止を無視して悠斗がともちんへ近づく。だめだ、さらにめんどくさいことになる…!!悠斗を止められない今、私たち3人はこれから起こるであろうことを覚悟して受け止めるしか成す術はない。
――――――――遡ること30分前。
ともちんの服を脱がせるぞ大作戦を立てた私たちは、元凶のいる教室へと足を運んだ。
私は緊張しながらともちんへ近づく。男2人は廊下から私の動向を見守っている。といっても雅史はともちんを直視しない。…ははぁ~ん。非科学的なことは信じないって言ってたのに…ちゃんと見れないくらいに怖いんだw
ニヤニヤしながら雅史を見ていると、玉木が咳払いをした。はっ!!そうだ、今作戦中だったんだ。慌ててお目当ての人物に目を向ける。うぅ…これ以上は下僕が邪魔で近づけない。でも…うん、とりあえずはともちんの視界には入れたみたい。
よし、あとは計画通りにやるだけ。私は息を大きく吸い込み、何度も練習した言葉をともちんに向かって発した。
「ト、トモチン、ナンカ寒ソウダネ?冬ナノニソンナ露出多イ服ダト風邪ヒイチャウヨ?私ノ貸スカラ着替エニ行コウヨ。」
よし、言い切った!!作戦通りだよ!!
小さくガッツポーズを作る私の気持ちとは裏腹に、廊下で待つ2人の温度はガクーっと下がっていた。
「…なんちゅう棒読み。ひどすぎる…。この作戦、終わったな。」
「あいつが作戦の要ってとこからして無理だったんだ。」
2人のやりとりなんて全く聞こえない私は、自信満々にともちんへ手を伸ばす。さあ、ともちん!!私と一緒に部室で着替えよう!!
自分の役目を半分以上終えたとるんるんな私。だけどともちんはそんな私の気分をいとも簡単に一蹴した。
「それには及ばなくってよ。田中?」
どこから現れたのか(ていうかいつのまに下僕の仲間入りしてたんだろう?…まさか最初からだったのかな?…気付かんかった。)田中くんがものすっごい高そうなファージャケットをともちんの肩にかける。
「…これで寒くないわ。お気遣いありがとう。」
にっこりと妖艶に微笑まれてしまった。…女の私でさえドキドキするよ。これがフェロモンってやつかー…縁遠いな。
まぁ、そんなこんなで作戦は見事失敗に終わり、すごすごと2人が待つ廊下へ退散する。
「ごめん、だめだった…。」
項垂れる私に返ってきた言葉は…
「まぁ、わかってたし、次を考えよう。」
「お前に託した時点で終わってた作戦だしな。」
…2人とも怒りはしないものの…ひどい言い様じゃない?納得いかずにぶーたれてる私をよそに、話はどんどん進んでいく。雅史は相変わらず乗り気じゃないけどね。
「やっぱり自分の意思では着替えないみたいだな。雅史、お前どう思う?」
「な、なんで俺に聞く?俺は信じてないんだからな。ゆ、ゆゆ、幽霊なんて馬鹿馬鹿しい!」
「何か思い残すことあったんだろうなー…それ叶えたら成仏してくれるんじゃね?」
「あー…そっか。別に脱がせなくても成仏させればそれでいいのか。…何すればいいんだろね。」
「…どう考えたって男関係だろう。振られて自殺したとか…だとしたら実にくだらんがな。」
「この世の男は全て私の物にしてやる!!…みたいな?」
「うわー…女の怨みは怖いわ。…だとしたらその願いは叶えられないよな?…じゃあ成仏もしてくれないんじゃね?」
「でもほら、他の女子にチョコ分けてあげてんじゃんか?全員自分の物にしたいならチョコなんて分けないよね?」
「…演劇部の中で自殺した生徒はいないか調べるぞ。」
「でも自殺とは限んないじゃん。もしかしたら事故で死んじゃった生徒かも…って雅史、普通に会話に加わってるけど…大丈夫なの?」
…今気づいた。割と平気そうに見えるんだけど。ついさっきまでびびってたくせに。
「…信じることにした。じゃなきゃこの不可解なことの説明がつかん。信じたからには俺はやるぞ。さっさと解決してすぐさま俺は俺の世界を取り戻すんだからな!」
うーん…キレた?ま、いっか。積極的になってくれたし。しかしすごいな。切替早すぎるでしょ。
とりあえず、演劇部の人間を調べてみよう。
そして私たちが動き出そうと方向転換すると、ちょうど階段を上がってきた悠斗に出くわした。…うっかり悠斗の存在忘れて話がどんどん進んでたな。
「おーっす。やー、寝坊しちゃって今学校来たんだけどさ、なになに?この騒ぎ。なんか楽しいことになってんね。」
「それが大変なんだよ…かくかくしかじかでね…」
状況説明をぱぱっとすると、案の定彼はおもしろがってともちんの様子を見に行くと言い出した。距離的に止める間もなく私たちの教室の中に入った悠斗。
「とーもかっ…………!?」
その異様な光景を前に、固まる悠斗。だよね、びっくりするよね…。
なんて呑気に悠斗を見ていたら、急に上着を脱ぎ、ものすごい勢いでともちんに近づく。
「だめだって!!」
予想だにしない出来事に一瞬制止が遅れてしまった。悠斗は既に私たちの手の届かないところまで足を進めてしまっている。もう間に合わない。
あー…また下僕が増える…しかもめんどくさいかんじの下僕になりそうだな…。