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約束  作者: りっこ
第3章 食い倒れ部発足
30/111

帰宅部返上

ともちんを追って保健室へ向かう。一瞬ゲイダー事件の時のともちんが浮かんだ。…龍塚先生へのあの態度を思い返す…わざわざ保健室へ行くかな?ともちんの性格上行かないだろうなーとは思ったけど、まずは当たってみよう。


「失礼しまーす…」


ガラガラ…


「ともちん!!」


予想と違い、ともちんはコーヒーカップを片手に龍塚先生と和んでいた。(保健室の片隅に談話室みたいな小ちゃいスペースがある。そのソファーにくつろいだ様子で座っていた。)そこに以前のギスギスした空気は見当たらない。


「大丈夫?」


未だに顔色の悪いともちんを気遣う。ほんと…これから毎日あれじゃあ…不登校になるんじゃないだろうか。


「…大丈夫じゃない…何あれ…もうほんと勘弁なんだけど…。」


ともちんの隣に座ると龍塚先生が私にもコーヒーを渡してくれた。お礼を言って受け取るが、…ブラック飲めない…。と思っていると、砂糖とミルクもくれた。ありがたい。


「今何かいい案ないか龍塚先生に相談してたとこ。」


「そうなの?ともちん龍塚先生のこと苦手だと思っ…いや、あの…。」


うっかり本人目の前に思ったことそのまま口に出してしまい…これじゃあ玉木にKYと言われるのも仕方がない。


ともちんはともちんで正直に話し出す。


「龍塚先生がっていうか大人がどうもね…。でも先生のことはこの間のことで苦手意識なくなったからね。」


「私何かしたっけか?」


「何も。私の気持ちの問題なんです。」


今じゃむしろ好感を抱いてるのがわかる。こないだって…何があったんだ?と、考えていると「そういやなんだかんだで話してなかった」と、冬休みに遡って説明してくれた。


「九条さんと1日デートの日、龍塚先生に会いに来てたの。そこで3人で話して、私の中で先生に対する嫌悪感(本人目の前にしてよく言う!!)が消えたってわけ。」


へー、そうだったんだ。何話したらそんなに態度変わるんだろう…て、え?九条さん、恋人のところへ行ったって言ってたよね…?えーーーーー!?


「九条さんの彼女って先生だったんですか!?」


びっくりして危うくコーヒー(カフェオレ化してる)をこぼすところだった。私の手の中でチャプチャプと波打っている。一度テーブルにカップを置いて、もう一度龍塚先生に詰め寄った。


「そうだが…そんなに驚くか?」


「いや、世間の狭さに驚いてます…。」


「私もびっくりしたわ。まさか彼女のとこに連れて行かれるとは思ってないし、それが知ってる人なんて…。ダブルで驚かされたわー。」


そりゃ驚きもするよね。本当に世間って狭い!!へぇ~…あんなに大事に想われてる人が先生だったなんて…うん、いいカップルだと思う。でも九条さんの両親に反対されてるんだっけ?大変なこといっぱいあるんだろうけど…うまくいってほしいな。…おっと、うっかり意識が逸れてしまった。今はともちんのことだ。


「…話戻るけど、このまま悠斗が暴走しっぱなしはどうにかしないといけないよね。むしろともちんが少しは相手してやった方がマシになる気もするんだけど…。」


「…冗談でしょ?それでまた付きまとわれたら…ゾっとするわ…。」


「いや、案外いいかもしれない。」


先生が腕くみしたまま言うと、ともちんは信じられないものを見るような…なんとも言えない目で先生を見つめた。


「春日は平穏な学校生活を送りたいんだよな?いちいち休み時間毎に来る鷹司が大迷惑。ようは他の生徒がいる間近づけさせなければいいんだろ?」


「他の生徒がいなくても近づかないでほしい…。」


「うーん、でもそういうことだよね?悠斗が教室に来なければ落ち着いて過ごせるもん。」


「う…まぁ…そうかもしれない…。」


観念して項垂れたともちん。これは妥協案だね。でもここでこんな話してても、悠斗が守るとは限らない。…いや、守るなんて今の彼を見てるとそんなの絶望的と感じられる。こんなこと頼んでも「俺の自由だしー」とか言って守ってくれなさそう…。厄介な人に惚れられたもんだなぁ…。


「…わかった。任せておけ。」


何がわかったんだ?先生は「放課後ここに集合」と言って私たちを追い出し、自分もどこかへ出かけて行った。ともちんと顔を見合わせる。…一体何をするんだろう?


その後も授業が終わると必ず悠斗がやってきた。玉木は極力近づかないようにしてるし、雅史も我関せずだし、相変わらず教室は落ち着かない…。やっと学校が終わる頃にはともちんのやつれようがハンパなかった。ゲッソリしてるし顔色悪いし…ぱっと見、重病人ってかんじ。放課後も急がなければ「一緒にかえろー♪」とか押しかけてきそうだったので、私たちは龍塚先生に言われた通り、保健室へとそそくさと向かった。


「どこ行くんだよ?」


靴箱の方へ行かない私たちを不審に思ったのか、玉木が後ろから声をかけてきた。龍塚先生に呼ばれてると言うと「ふーん、俺も行く」とまるで金魚のフン。玉木を頼りにしてたのに悠斗相手のヘタレな姿を見て期待はずれ。その内心がありありと表面に出ていたようで彼は言い訳をするが聞く耳持ちません。そうこうするうちに保健室についてしまった。


保健室に入るけど…誰もいない。しばらく待つことにして、ソファーで勝手にくつろぎ出す。10分程してドアが開く音がしてそちらへ目を向ける…と、ぎょっとした。


「…なんで…」


なんと龍塚先生が悠斗と雅史を連れ立って入ってきたのだ!!何を考えているんだろう?ともちんの天敵を連れてくるなんて…。


「玉木も来てたのか。ちょうどよかった。部長はお前で副部長が財前だ。」


ソファーに座る私たち三人は今の言葉の意味がわからず、ひたすらポカーン…とするしかない。何?何の話?


先生の後ろでは悠斗が「よろしくー」と満面の笑み、それと対照的に雅史はこの世の終わりのような顔でため息をついている。


「部長…って何?」


玉木が恐る恐る質問をする。と、先生は「単語の通りだが」と顔色ひとつ変えずに説明をしてくれた。


「このメンツで部活始めるんだよ。もう許可はおりてる。鷹司には放課後以外に春日に近づかないことを条件に入部を許可した。…何かまずかったか?」


開いた口が塞がらない私と玉木、そして今にも意識を手放そうとするともちんを見て初めて、龍塚先生は何かまずいことをやらかしたんだろうか、と雅史に目をやる。もちろん、彼はため息でそれに答えるだけだった…。


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