悠斗の暴走
「俺はあいつの保護者じゃない。」
HRにモッチーと普通に現れた(1名普通じゃなかったからね。)雅史。表情も無表情なら挨拶も「よろしく。」の一言でお世辞にも感じがいいとは言えない…それなのに、だ。…女子が色めき立っているではないか。…顔がいい奴は得だよなぁ。
…が、休み時間になっても直接話しかけに行くファイターはいない。なんでだろう。皆遠巻きに眺めている(頬赤らめつつ)だけだ。もっときゃいきゃい行くのかと思ったけど…女子の考えることはわからん。
私はというと、雅史がフリーなことをこれ幸いにと話をしに行く。今朝のことで文句を言わなければならない。ちゃんと手綱はにぎっといてもらわないとこっちが困る。そう言ったら、…これだ。
「保護者みたいなもんじゃんか。とにかく放置はやめてよ。こっち(ともちん)は大迷惑なんだから。」
ともちんを見やる。…さっきのショックからまだ立ち直れていないようで、珍しく机の上に突っ伏してる。(花束は早々にゴミ箱行き)これから毎日同じ校内に悠斗がいるのだから…きっとまだまだ大変になるんだろうな…、ともちん、がんば…。
「長年あいつといてわかったことは…俺には制御不能ということだ。手綱を握れるくらいなら最初から転校などしない。」
…それもそうだ。
「だとしても…これじゃともちんがまいっちゃうよ…。なんとかならないかなぁ…?」
「無理だ。諦めろ。」
バシっと言い捨てられた。うぅ…何事もなく平穏に過ごすにはどうしたらいいのか…。
「十百香~!!」
悩みの元凶の声が響いた。嘘でしょ!?また来たの!?ともちんの横には既に悠斗の姿。ともちん…一切スルーの姿勢。微動だにしない。ハラハラする…。
「何?寝ちゃってんの?せっかく会いに来たってのに…まぁ、寝顔もかわいいけどね。」
ゾワァ~…
誰か奴を止めてくれ――!!!
「はいはい、先輩、もう授業始まるんで出ましょうか!!」
ナイス玉木!!悠斗を後ろから羽交い締めにし、教室の外へと引っ張って行く。その調子でともちんを救って!!
「翔~…俺様にこんなことしていいと思ってんのかぁ?…言ってもいいんだぞ?お前が誰を好きなのか…。」
悠斗が何事か呟くと急に玉木の腕が緩み、素早く拘束から逃れた彼。玉木、何やってんの!?またともちんの側に行っちゃったじゃん。
非難の目を玉木に向けるが、かなり動揺していて私の視線には気付かない。…何言われたのさ?
あー…ともちんが寝てると思い込んでる悠斗は、満ち足りた顔で彼女の寝顔を見つめている。うぅ…悪寒が。きっと目を瞑っていても、その視線に気づいたんだろう。あろうことかともちんは白目をむいた。こ、怖い…。でもそんなことくらいじゃ引かない悠斗。「あはっかわい♪」と上機嫌…。あー…だめだ。私にはどうすることもできない。こんなに授業早く始まって欲しいと願ったことはない。
ガタッ
近くで人の動く気配。
「そこまでだ。いい加減教室戻れ。」
雅史が悠斗の襟首を掴み、廊下へ引きずり出した!!ナイス!!容赦なく投げ捨て、戸をピシャリと閉める…いや、でもこれくらいで引き下がらないでしょう。…と思って雅史が席へ戻ってきてからも戸から目を逸らさない。と、そこでチャイムが鳴った。ほぉ~…と胸をなでおろす。これから毎日これじゃともちん発狂しちゃうんじゃないだろうか…。
「ありがと。なんだかんだで助けてくれんじゃん?」
ムスっとして授業の準備をする雅史にお礼を述べる。相も変わらず無愛想な顔で
「…春日の顔があまりにも見るに耐えなかったからな。」
とボソっと言った。…確かにあれは怖かった…怖かったけど、…ぷぷ、素直じゃないな。雅史が実はいい奴ってこと、私はもう知ってるんだよ。
でも悠斗対策はしてかなきゃな。休み時間毎にこられたらともちんもだけど教室が落ち着かないよ。
それから5分程してから1限が始まる。始まってさらに5分後、ともちんがフラリ…と手を挙げた。
「…気分が悪いので…保健室行ってきます…。」
あまりの顔の白さに先生もすぐに許可を出した。そしてシズシズと教室を後にする…大丈夫かな?
「先生!!春日さんふらふらなんで私保健室まで連れて行って来ます!!自分、保健委員なんで。」
と、先生の発言を待たずにともちんを追いかけた。田中くんごめん、今だけ私が保健委員ってことで。