冬休みの終わり
「…面倒な二週間がやっと終わった…。」
特に問題なく残りの十日間は過ぎていった。クリスマスや大晦日にお正月。それぞれとても豪華なパーティー(主に食事がすごく豪華でした…また食べたい)で私は楽しい時間を過ごせたんだけど…ともちんはお疲れ気味。それもそのはず。四日目のデート以降、チャラ男にずっとつきまとわれていたのだ…。目に余るものがあったので、ともちんの堪忍袋の緒が切れる前にチャラ男を止めに行ったものの…「えー?でも俺十百香(なんと呼び捨て!!)のこと気にいちゃったからなー。何?茜(おい、こら、私もか!)も実は俺に気があるとか!?」………めんどくさっ!!こいつ、めんどくさいよともちん!!ってことで放っておくことにした。そのうちひどい目に遭うのは彼自身だからね。
案の定、ともちんがキレた。春日家と取引のある会社のご子息なので、今までは全力で断っていなかったのだが…チャラ男が近づくと「キモイ。目の届く範囲から消え去れ。」とか真顔で言ってのける。そんな言葉にも全くめげる様子のないチャラ男はその後もつきまとって、とうとう最終日までともちんの側を離れなかった。…すごい精神力だと思う。
精魂尽き果てたともちんとは裏腹に、チャラ男は今日も絶好調。
「もう冬休み終わりかよ~。十百香に会えなくなんじゃん。俺に会えなくて寂しい?」
とか言ってる…。ヒィ~…やめてくれ、鳥肌が…。
「また遊んでね!」
とこちらは龍太。チャラ男がともちんを独占状態だったので、私はその他の人々と大分仲良くなった。
「そうだねー。春休みとか皆で何かするのもいいかも。」
すっかりこのメンバーでの居心地がよくなった私は、普段なら言いそうにない提案までもする。そのくらい打ち解けたんだな。
「今度は自分一人で課題終わらせろよ。俺はもう面倒見たくない。」
メガネ男子こと雅史が毒を吐く。…そうなの、今回(まあいつも?)私、宿題ぎりぎりまで放って置いて…食事の席でもやってしまうくらい焦ってて…。
最初は冷たい眼で見られてただけだったんだけど、私のシャーペンの進み方の遅さを不審に思った雅史がノートをのぞき込んで…そこから悪夢が始まったのだ。
「なぜこうなる!?ここにしっかり公式書いてあるのになぜわざわざ違う式を使う!?」
「ここはどう考えても2だろう!?なぜ7-5が4になるんだ!!」
「………寝るな――――ッッッ!!!」
…このようにして雅史とはわずか三日で仲良く(?)なったのだ。皆いつ宿題終わらせてたんだろう。不思議でならない。
あっという間の二週間、明日からはまた学校での生活に戻る。今年は大変な一年になりそうだな。これからのことに思いを馳せる…うんざりしてしまう。あー…いらんこと考えて気分が落ちた…。出発まであと二時間。うん、十分に時間はあるな。
私は一人輪の中から外れた。どうしても最後に行っておきたい場所がある。…もちろんあそこ。
九条さんからあの話を聞いてから、さらにあそこが好きになった。想いの形。大切な思い出。なんかいいなぁ、こういうの。
なんて考えながら歩くと目の前には素敵な庭が広がっていた。この景色を忘れないでおこう。テラス席で日向ぼっこする。心も体もぬくぬくと温まる。すると、体からふっと力が抜けた。…気がしたのも一瞬で、不思議に思って前を向くとそこには彼がいた。…ユウマだ。相変わらず私に向けるものは優しいまなざし。
「…何さ?」
つい刺々しくなってしまうけど、彼のことそんなに嫌じゃない。彼によって起こる様々な出来事に関しては腹が立つけど、彼自身にはむしろ好感さえ抱いてる。それがちょっと嫌で、(友達巻き込んでるのに…そんな風に思いたくないもん)表面上は冷たくなってしまう。
『…いいね。どんな事情があったにせよ…幸せだったんだね。この場所は二人の幸せが詰まってる。』
…そんなこと言われなくたってわかるよ。こんな優しい場所、他に知らない。
「…ねえ、約束のことなんだけどさ…本当に思い出せるの?私、今なんにもわかんないよ?」
ユウマは困ったように笑う。…いつも笑ってんなー。
『それについては問題ないよ。絶対思い出すから。…茜が嫌でも、ね。』
…悲しそうだなって、なんとなく思った。ユウマの笑顔からは悲しみが滲み出てる…。約束って…もしかしたら悲しいものなのかも。それを思い出すのかー…いやだな。
「…1年で終わるんだよね?」
『うん。』
「そっか。…私、絶対約束守る。そしたら…ちゃんと友達を解放してよね。」
『うん。もちろん。茜が約束守ってくれた時には、全部元通りになるよ。茜の力も消えるから安心して。』
私の力もなくなるのか…。…ん?あれ?それって…ユウマが私の中からいなくなるってこと?
私がその答えを求めようとするときには既に消えていた。…まるでその答えを教えまいとするみたいだなって思った。
まあ、今聞いても約束自体なんなのかわかんないんだし、それを思い出してからでもいっか。まずはそれからだな。そう思い直す。何もかもそこからなんだから。
割と長い間ここにいる。そろそろ時間かも。もう一度店の中に入って、ここの空気を体いっぱいに感じる。…ともちんに頼んでまた来させてもらおう。それから外へ出て、屋敷の方へと歩きだす。…何かに呼ばれた気がして振り返ると、店の前で誰かが微笑んでいた。優しそうな女の人。とても幸せそうな人。…幸せそうなんじゃない。きっと幸せなんだ。
「ご馳走様でした!!また来ます!!」
そう言って頭を下げた私が顔を上げる頃には、その女の人は消えていた。彼女の料理を食べたわけじゃないけど、今のこの気持ちはきっと彼女にもらったものだから。誰かに優しくしたい…そんな気持ちにさせてくれる。…ありがとう。
今度こそ私は前を見て歩き出した。皆が待ってる。急がなきゃね。
第2章完。