説明を求む
「ありがとうございました!!」
目の前にいらっしゃる偉大なお方に全力でお礼を告げる。この方がいなかったら私たちは未だに海の上を漂っていただろう。
「苦しゅうない。よきにはからえ。」
そう…あの後途方にくれていた私たちの耳に救いの音が聞こえてきたのだ。
バリバリバリバリ…
徐々に爆音となって近づくそれ、…ともちんのヘリだった。そのヘリからロープが降ってきて、シュルルルル…と九条さんが船へ降りてきてくれる。(勝手に運動できない人だと思ってたのになんのその。華麗なる登場でした。)そのまま船を操縦してくれて、私たちは無事島へと帰りつくことができたのだ。
「なんであんなことになってたのよ。」
そして今、ともちんの部屋で事情聴取が行われている。私はしどろもどろ今までのことを話し出す。玉木は隣で完全に縮こまっている。
話を聞き終わると情状酌量の余地ありと判断され、お咎めなしだった。(よかった…)ただ今後無茶をすれば…わかってるわよね?と釘を刺される。(魔女のような目付き…あ、違う、メデューサの方が近い。)
「やっぱり私たちの力は強くなってるんだと思う。」
「俺が気配気付けなかったのは力がなくなったからじゃない…力に個性があるから…だよな?」
二人で頷き合う。うんうん、…うん?
「私は感知、玉木は防御にそれぞれ特化してるってとこね。そして茜に危険が迫ると私たちにはそれがわかる。玉木の瞬間移動だってそれでしょ。私も嫌な予感したからヘリを出したし。」
ほほう…ってことはなんだ?私はさしずめ攻撃タイプか?しかし瞬間移動ってすごいなー。どういう仕組みなんだろ。それに…なんで二人に私の危険がわかるようになってるんだ?
「でも白田は力にムラがあるよな。今回ちょっとやばかったし。」
「あ、私の力人間を相手にするとだめみたいだよ?龍太に対してなんの力も出せなかったもん。」
「え…でもゲイダーの時はばっちり攻撃してんじゃん。」
「あ…そっか…、なんでだろ。」
ともちんはソファーから立ち上がり、テーブルの上に置いてあった紙とペン(羽根ペン!!)を持ち出し、再び腰掛けた。サラサラ…と図のようなものを書いていく。
「まず、茜には霊が憑いてるでしょ?んで、私たちもその霊の影響で力が強くなってる。ゲイダーの時は茜を守れるような力が私たちにはなかった。でも今回は助けられるくらいにはパワーアップしていた…つまり。」
…つまり?
「茜の霊は人間相手に自分で手を出すのが嫌なんじゃない?ゲイダーの時は守れるような人が茜の周りにいなかったから仕方なく自分でやったけど…。」
…ぽかーん…
「え…なんで?」
構えてただけに肩透かしを食らう。嫌だとか…そういう問題?
「私にも理由はわからないけど…。人間相手にも力使えるのはゲイダーの件で立証済みでしょ?霊本体にはもちろん攻撃できる。でも今回人間に取り憑いてる間、茜の力は反応しなかった。玉木がいたから、そうする必要がなかった。…私たちは茜を守るために力を与えられたんじゃない?自分が力を使わなくていいように。」
ともちんの推理を聞いてて、段々腹が立ってきた。
「…自分は人間に手出したくないから、代わりにともちんと玉木に力を与えたってこと…?ゲイダーの時みたく自分で手を出すのが嫌だから…?」
何それ…なんかすっごい自己中じゃない?私を守る?何それ。そもそもあんたが私に取り憑いてるせいで危険な目に遭うんでしょ?それなのに友達巻き込んで自分の代わりに私を守れって??
「…出てきなよ。ちょっと話しよー。…ほんとはいつでも出て来れるんでしょ?」
マジでムカツク。ほんとに。
神経を集中させて自分の中の異なるものを弾き出そうと試みる。そして自分の意識の中に、何かを捉えたと思った瞬間、それは体の外へと霧散していった。
ともちんと玉木が見守っている。そんな中、私の目の前に体の透けた男が姿を表した。やっぱり。以前見たおばけと変わらない。彼がそうだったのだ。彼がずっと私の中にいたんだ。
怒りに溢れた眼で睨みつける。彼はそんな私に微笑んでいる。それがまた癪に障る。
「どういうこと?説明してくれてもいいよね?あんたのせいでどれだけ皆が危険な目に遭ってると思ってんの?」
責め口調になるのは仕方のないことだと思う。「約束だから」…その言葉だけで納得できるわけない。ましてや友達を巻き込んでいるのだから。
『…俺の力は、直接人間に手を出したらいけないんだ…。だから茜の近くにいた二人に力を分けた。』
淡々と言ってのける。だめ、冷静でいられない。
「だから!!なんで自分じゃ手出しできないのかって聞いてんの!!友達を巻き込むのはやめてよ!!そもそも約束なんて覚えてないし!!なんなの!?」
逆上しまくる私の手を、誰かが優しく包んでくれる。…ともちんが傍らで大丈夫、と言ってくれる。玉木も側についていてくれる。…いくらか落ち着くことができた。
私の霊はすまなそうに項垂れている。う…そんな仕草したって許さないんだからね!!やっていいことと悪いことがあるでしょ!!
『…約束については言えない。それは時が来れば必ず思い出す。人間に手を出せないのは…これも、言えない…ごめん。』
「それじゃ何もわからないじゃない。納得いかないわ。」
またもや感情が昂ったまま相手を責めようとした私を、ともちんが止めた。代わりに冷静に話してくれる。
『…ごめん。でも、長くは続かないよ。本当はあと4年は保つはずだったんだけど…俺の力、大分弱くなってるみたい。きっとあと1年で、全て終わる…。』
「1年って…十分長いよ!!」
咄嗟に出た私の言葉に幽霊は哀しげに微笑んだ。なんだか…胸が痛くなる…そんな微笑みだった。
『そっか…人には長い時間なんだね…。ごめんね…。でも1年は必ず抑えてみせるから…だからそれまでに…』
その先を言おうとしない幽霊。なんなのよ?そんなとこで止めないでよ。
「私の質問にYESかNOで答えて。」
ともちんが前へ進み出る。何かわかったのだろうか?…今の話の中に何か重要なことでもあったっけ?結局何も喋れない…だけどあと1年って期間を言っただけだよね?
「…4年保つはずだった何かが、1年しか保たなくなった…それはあんたが人間に直接害を与えたことに起因する。そして1年っていうのもあんたは短いって思ってる。…今までより遥かに強い何かがいるんじゃないの?今の私たちでは歯の立たないような…。そしてそれを今抑えこんでいる者こそ、…あんたね?あと1年でそいつを抑え込む力がなくなる。…どう?」
…何?なんて?展開急すぎて頭がついていかない。どういうこと?唯一すぐに理解できたのは、強い霊の存在。…だけしかよくわかならなかったんだけど。
霊は安心したように微笑んだ。
『茜の友達はかしこいね。きっと大丈夫…うん、大丈夫…』
スー…
霊の体が周りの景色に溶け込んでいく。このまま消えるの!?ちょっと待って!!まだ…
「ねぇ!!名前は!?それだけ教えてよ!」
『…ユウマ…』
最後に聞こえた声、それとほぼ同時に私の中に彼が戻ってきた。なんだろう…腹が立っていたのは本当だけど、心の底から憎めない。こんな目に合わせてる張本人なのに…。
「…気合いれなきゃね。」
「だな。…俺、もっと頑張るわ。つってもどうやったら強くなるとかわかんないけど…。」
二人ともやる気に充満ている。ありがたいなー…でも強い敵って…なんだろう?…さっきのともちんの話半分くらいしか理解出来てないんだけど…大丈夫かな?