何が違う?
バチバチバチっ!!!
いったーーーー…くない?今確かに電気と電気がぶつかったような…激しい衝撃音がした気がする。そーっと目を開ける。見えるはずの龍太がいない。それもそのはず。大きな壁が私の前に立ちふさがっていた。
「…お、前は…ほんとに、もうっ!!!」
凄まじい怒気を含んだ声と共に、その壁が青白く光った。
「くっ…」
龍太が後ずさる。信じられないような顔をしている。
「玉木!!今の…?」
「力、消えたわけじゃないみたいだな…。お前、覚えてろよ?後で説教だかんな。」
視線は龍太へ向けたまま、相変わらず私を庇ってくれている。どうやって船の上にきたのかとか、今のどうやったのかとか、聞きたいことは山ほどあるけど、今はとりあえず龍太をどうにかしなきゃいけない。
「まさか、お前だったとはね。」
仲のよかった二人が殺気をまとわりつかせながら、船上に立っている。龍太は不敵な笑みを浮かべた。
「まさか俺に『霊の存在って信じてる…?』て聞いてくるとは予想外だったよ。笑わせてもらったなー。お前の嘆きっぷりにも。」
「…余計なことくっちゃべってないでさっさとやろうぜ。」
「お前…俺に勝てると思ってるの?あははっほんとおもしろいね!!」
龍太の体から荒れ狂う風が巻き起こった。危うく海に放り投げだされるところだった。飛ばされたかけた私の肩をしっかり捕まえてくれた玉木。もう何度助けられたかわからない。その手は青白く光ったままで、私たちの周りに白い壁のようなものを作りだしていた。それのおかげだろう。先ほどまで感じていた強い風を感じなくなった。
「く…白田、俺の力…多分攻撃向きじゃねえ…。」
玉木は歯を食いしばりながら言葉を紡ぐ。どういうことだろう?
「俺が龍太の攻撃防いでる間にお前が攻撃してくれ!!」
…えー!?攻撃つっても私の力はうんともすんとも言わないよ!?なんで今までと違うんだろう?…何が以前と違う?多分それが関係してる。うん、それしかない!考えろ、考えるんだ…。
「白…田、早く…」
玉木の力がどんどん弱くなっていくのを感じる。このままじゃ防御の壁が崩れてしまう。龍太は勝利を確信しているのだろう。口元に余裕の笑みを浮かべている。
この間と違うこと。この間は私二回ともおばけを見れなかったんだよね?でも力はちゃんと反応した…。今回はおばけが見える。あ、なんかあとちょっとでわかるかも?
「弱い…弱いなーもう。もう飽きた。さっさと殺されてよ?」
白い壁にヒビが入る。
今回のおばけは龍太に取り憑いている…前と同じにするには…人間からおばけを出せばいいんだ!!…どうやって!?
「も…無理…」
玉木の限界がそこまできている。どうやってとか言ってる場合じゃない。やるしかないんだ。
目を瞑り力を一箇所に集中させる。全身の血がお腹辺りに向かっているようなかんじ。溜まった血を一気に沸きたてる!!
「出てけ――――――――!!」
渾身の力で龍太の中にいるおばけに気をぶつけた。
ズズッ…
龍太が二重にぶれる。やった!!多分やり方はあってる!!でも…まだ力が足りない。二重になった影の方が本体へ戻ろうと揺らめいている。だめ、このままじゃまた龍太の中に入ってしまう!!
冷や汗をかきはじめた時、急に楽になった。横から私の力と同じものが流れてきた。玉木だ。龍太からの攻撃がなくなった今、防御の壁を消して私に加勢してくれている。…加勢というより、私の力よりも強い気がする。
「お前は力温存しとけ。これなら俺にもできる。」
その言葉に甘えて自分の力を弱めていく。玉木一人だけで十分のようだ。龍太の影はどんどん引き剥がされていく。それと同時に私の中の力が湧いてくるのを感じた。影が完全に龍太から離れると、私の中の力も完全に目覚めたようだ。
「見える…。」
影は狐と人が混ざったようななんとも言えない形をしていた。妖怪とかにいそう。その目は信じられない、と語っている。まさか私たちに追い込まれるとは夢にも思っていなかったようだ。
人から離れた今なら、私の力が使える。これは確信だ。キツネ男に向かって全ての力を解放した。
バチバチバチ…!!
喉から絞り出た悲鳴が耳に響く。早く楽にしてあげないと…。なぜかそんなふうに思ってしまった。自分の気持ちに戸惑ったものの、力を緩めることなくキツネ男に向ける。
次第にキツネ男の姿が薄れていき、完全に消えた。
…終わった…?
船を盛大に揺らしていた高波は穏やかになり、雨も、そして風も止んだ。静かな海に戻った。ほーっと息を吐く。今回も危なかったな…。
緊張の糸が途切れ、その場にへたりこむ。それを玉木が支えてくれた。
「終わったね…。」
「終わったな…。」
二人して気が抜けたみたい。そりゃあれだけ力使えばそうか。…力、か。
「玉木、力なくなったんじゃなかったね。…残念。」
「なんで残念なんだよ?」
「力がなくなって、私と関わらなければ、危険に晒されることないじゃん。だから…残念。」
思ったままを口にした。本当にそう思う。そうなったら少し寂しいけど…それでもそうあってほしいと思ってるんだよ。
バシッ!!
「いっったぁ!!」
割と強く頭をはたかれた。いきなり何すんのさ!!と睨みつけ…ようとしたけど、玉木がすごく優しく笑っていたから…文句を言うのはやめた。
「俺は好きで巻き込まれてんだよ。そんな心配すんなって。つーかそれよりも、お前のその暴走癖やめろ。マジやめろ。わざわざ自分から危険に飛び込む馬鹿がどこにいるよ?」
あ、やばい、説教タイムキタコレ。なんとか話をかわさなければ…ん?そうだ!!それよりも今直面している問題について話合わなければいけない!!
「玉木玉木。」
「なんだよ?説教から逃げようったってそうはいかねえぞ。」
「違うって!!あれ見てよ。」
そう言って船の操縦席を指さす。
「…なんだよ?」
「あんた船の運転できる?」
玉木の顔から血の気が引く。(サー…という音が聞こえるかのように、そりゃもう見事に顔面蒼白になった。)
「私ら…どうやって陸に戻ろっか…?」