合わない2人
「楽しそうじゃん。」
柱の影から出てきたのは玉木。なぜか不機嫌そう。
「びっくりしたー。何よ、なんかあった?」
べっつにー。と言いながらも口は尖っている。…子供か。
「一応春日の見合い相手なんだからな。お前が惚れても意味ないんだから。」
顔を背けつつ言い放つ玉木。あ、そうそう、さっきの話をしなくちゃ。…ん?惚れる?
「…ってわけなんだ。てかさー、惚れるって何?」
九条さんがここに来た経緯を話す。そして疑問に思ったことをそのまま口に出す。惚れるって…私が九条さんに?そう見えんの?
「九条さんと一緒にいる時の白田、楽しそうじゃん?好きになったのかなーって…思って…」
「確かに楽しいけど…楽しいと好きなの?てかまだ会って2日目だよ?」
「好きになる時はなるよ。時間とか関係ない。」
やたら真剣に言われる。…好き…好き?
「えー…じゃあ好きなのかな?んー、そう言われたら…そうかも?」
「え…」
絶句する玉木に背を向け、ルンルン足で自分の部屋へ戻る。好きかどうかは置いといて、とりあえず楽しい時間を過ごせたことに笑みを浮かべた。
問題は…そう、残りの3人。ともちん今頃どこにいるんだろう…?無事なんだろうか。もしメガネ男子がおばけだったら…そう考えるとぞっとする。危ない目に遭ってないといい。そう願うことしかできない。
バタンっ!!
勢いよくドアが開かれる。
ついいろいろ考えながらうたた寝していた私は(ベッドに横になって考えるものではない。睡魔に負けるとわかっているのにそうしてしまった自分が情けない)その音にガバっと起き上がる。
「…は、腹立つー!!!」
そこには最高潮に興奮したともちんが立っていた。怒り狂っているけどどうやら無事のようで安心する。
ドスっと無遠慮にソファーに腰掛け強く握りしめた拳を振るわせている。何があったのだろう。
「あいつ…ことあるごとに人を馬鹿にしくさった態度とりやがって…貴様はそんなに偉いんかっつーの!!ただの頭でっかちのくせして!!頭よけれりゃそれでいいわけないじゃん!!勉強する前に人格形成に尽くせ!!出直してこい!!!あーっムカツク!!!」
うっぷんを晴らすともちんの前に、家から持ってきていたスナック菓子を広げると両手を使って食べ散らかし出した。おお…相当なストレスだったのだろう。これは落ち着くまで少し待った方がいいな。
1袋平らげるとふーっと息をつく。
「ありがと…ちょっと落ち着いた。」
「大丈夫?」
コクリと頷くともちん。相当溜まっていたようだ。
「どこ行ったの?」
「…乗馬。寒いっつーの!!それで会話の内容が大学のレポートみたいな話ばっかり。楽しくもなんともなかったわ!!私が意見しようものならそれを徹底的に潰しにかかるのよ!?議論は好きだけどあそこまで人の意見をないがしろにする奴とは話したくもないわ!!」
わー…私ならレポートみたいな話出た時点で眠くなるのに、ともちん言い返したんだ…すごいなー…。てかそれを乗馬中に言ってのけるのか?どんなだよ。
思い出してまた怒り再沸騰のともちん。それでも心を落ちつけようと深呼吸をしている。
「…でも違った。財前じゃない。ここから離れたら嫌な気配も消えたから…だから残るは3人に絞られた…。茜、大丈夫だった?」
メガネ男子じゃないってことは…やっぱりチャラ男!?私の勘が当たった!!
あ、そうだ、九条さんの話もしとこうかな。
「明日九条さんから直接話あると思うけどね…。」
とお昼のことを全部話す。あの小さなカフェのことはともちんも知っていたようで(まあ当然か)その話を知っているってことは結構おじいさんから信頼されている人ってことらしい。だけど…
「だからといって憑かれてないとは限らないわよ。」
と警戒したまんま。うーん…そうかなぁ??
でも私はチャラ男が怪しいと思う。一日デートはチャラ男が最後。多分今日と同じで九条さん、ワンコとデートの時は、嫌な気配を感じることはないと思う。その時点で残ったチャラ男がその嫌な気配の犯人ということになる。(この順番ナイスだね!)
ということを伝えるとともちんはあくまで誰にも警戒は解かない構えで臨むらしい。まあ、それに越した事はないけどね。
「あんたも。チャラ男以外もちゃんと警戒しとかないと…。」
と釘を刺される始末。…はーい。と返事はするものの、身構えるのって体力使うんだよね。早く正体がわかればいいのに。
そこで夕食の時間がやってきた。
メガネ男子は終始ムスっとしていた。ともちんが腹たっているように、彼もそうなのかもしれない。…最初の印象の通り、二人は合わないらしい。
問題なく食事終了。部屋に戻ろうとすると…
「あ、あの…」
遠慮がちに声をかけてくるから誰かと思うと…玉木じゃん。なんだろう?
「昼のことだけど…」
…ああ、私が九条さん好きって話か!そういやそんな話してたっけか。忘れてた。
「ああ、アドバイスありがとね。頑張る!」
何を頑張るのか自分でもわからなかったけど、一応言っておく。明後日でおばけ問題に決着がつくことが嬉しくてたまらない。そのことに浮かれていた。
「いや…えっと…頑張って…。」
それに引き換え、玉木は浮かない顔。そっか…急に力無くしたから元気ないんだな。でもこれは私にどうにかできる問題じゃないもんなー…。ごめん玉木、力になれなくて…。
いたたまれなくなってそそくさとその場を後にした。




