冬休みの予定
第2章 スタート。
最近、ぼー…っとしている。
文字通り、何をするでもなく、ただぼー…っと。
ゲイダー事件から1週間も経たないうちにあれだけのことが起きたんだから、きっとこれからはもっと大変になるって覚悟していた。
それから1ヶ月。何もない。私の力が強くなるでもなし、おばけ騒動に巻き込まれるわけでもなし。ただ毎日が過ぎていき、あっという間に冬休み直前ですよ。
覚悟してただけに拍子抜けした。
最初の1週間は用心に越したことはないと、三人ほとんど離れずに、どっからでもかかってこいやー!!のかまえだった。
それから徐々に緊張感がなくなっていき、今では事件の起こる前と大して変わらない生活に戻っていた。
何か起こってほしいわけじゃない。できることならこのまま穏やかな時間が過ぎてくれればそれでいい。けど…約束の問題が残っている。これが解決しなきゃいつまた危険な目に遭うのかわからない。だからこそ何かしら先に進めるような出来事が起こることを願っているのに…。
「ねぇ、終業式の後暇?」
いつのまにやらともちんが目の前にいた。…あれ、授業いつ終わったんだろう。今回のことで頭がいっぱいで授業に集中できないよ。(今までは集中してたのかってツッコミはなしの方向で)
「終業式…明後日か。うん、何もないよ。」
「じゃあさ、…ちょっと旅行しない?」
旅行かぁ…いい息抜きになるかも。
「親に行っていいか聞いてみるね。行き先はどこ?」
ともちんが視線をそらしながら言いたくなさそうに顔をしかめる。
「…一応沖縄?」
なぜに疑問系なんだろう。沖縄かぁ…寒くない場所なら喜んで!!あれ…ってことは泊まり?
「何泊の予定で?」
…綺麗な顔が歪んでますがな、お嬢さん。
ともちんはいきなり、普段よりも数倍速い動きで頭を下げた。予期せぬ出来事に思わず体を引くと、イスがバランスを崩して危うく転びそうになった。
「お願い!!茜!!一緒に来て!!」
「え?うん、行きたいけど…ともちん、とりあえず頭上げて?なんか、なかなか見ることのないともちんの頭頂部が怖いんだけど…。」
ゆっくりと九十度以上に折り曲がっていた体を伸ばしていく。うん、これ、何かあるね絶対。
ズモーーォォオン…という効果音が聞こえるようなすっごく嫌そうな顔でともちんが説明を始めてくれた。その話はとてもじゃないけど私なんかじゃ想像もつかないような内容で、話が終わった後もしばらく頭の中がぐちゃぐちゃで整理がつかなかった。
一つ一つ理解しようと努力する。
沖縄にはともちんの別荘があって(どんだけ金持ちなんだ)、冬休みいっぱいそこにいなくちゃいけない。そんでそこでともちんのお見合い相手数人と過ごさなきゃいけない。
単語単語は意味わかる。けど文章として考えると、…どんな世界に住んでるの、ともちん…。
「両親に決定事項だって突きつけられたの…。私は普通の生活を送りたくて高校だってここに入学したのに…。すぐに断ったの。そしたら…T学院(金持ち校)に転校させるって…。そんなの絶対嫌!!そんなんだったら別荘でもなんでも行って見合い相手全員突っぱねてやる!!今後私に関わりたくないと思わせてやる!!ね、茜、ついてきて!?私を助けると思って!!」
わーお…壮絶。私がともちんでもそんなとこに一人で行くのはいやだなぁ…。ついていきたいのは山々だけど…冬休み全部か…お父さんいいって言うかな?(お母さんはいいんじゃない?とか言ってくれそうだけど。)
「今日お父さん帰ってきて話してみるよ。」
完全に眼が吊り上がってしまっているともちんは体を前のめりにし、顔を寄せて来た。
「今日茜ん家にお邪魔していい!?」
おぉ…必死だなぁ…。
ともちんに気圧され、すぐにお母さんにともちんを連れて帰ることをメールする。今日はどうやらお父さんも夕食に間に合うように帰ってこれるみたいだ。
しかしお見合いって…16歳だよね、うちら。…ともちんから家の話ほとんど聞いたことなかったんだけど(こないだからおじいちゃんが権威者だってのはわかった)、すっごいお金持ちなんだな。てことはお見合いの相手もすっごいお金持ちなのか~…いいな、玉の輿。
なんてにやけていると「キッモ~」と誰かが妄想を中断させる。誰かって…決まっている。
「うっさいなー。いいじゃん、妄想くらい好きにさせてよ。」
「どんなやらしい妄想してたんだ。よだれ出てんぞ。」
慌てて口元に手をやる…が液体らしきものはない。ちくしょー、はめられた…。事件前よりかは断然一緒にいることが増えた玉木。前は友達いないの…とかわいそうな目で見ていたけど(本人知ったら怒るな)、玉木を知っていくと意外に友達多くてびっくりした。(私よりも多い。)今までは見えてなかっただけだったんだな。
「そういやさ、お前らクリスマス暇?今フリーな奴らでクリパやろうって話してんだけど。」
「おあいにくさま~!!冬休みは全部予定入ってるもんねー!!(まだ行けるかわかんないけど)」
玉木がぎょっとする。もちろん予定なんてないと思っていた私にまさかこんな理由で断られるとは思っていなかった…って顔に書いてある。(あー…断る時は面倒だからいいやー…って理由にならんことを言ってるしな。)
「どうした!?白田!?お前に何があった!?」
…それにしても失礼な。
「ともちんと旅行行くんだーいいでしょ。そしてそこで出会うイケメンと恋に落ちる(金持ちは皆イケメンとなぜか思っている)…くぅーいいね、いい冬休みだね!」
ただのイケメンなら別にどうでもいいんだけど、金持ちとなれば話は違う。
お金があれば働かなくていい分睡眠にあてれる。いい食事ができる。最高のグータラができる!!
あほな妄想に身を委ねていると、今まで心ここにあらずだったともちんがいきなり目をカッと見開いた。玉木に詰め寄る。あまりの豹変っぷりにたじろぐ玉木。
そして―――――
「あんたも来る?」
……………って、ぇぇぇええええええええええ!?




