屋上から落ちたら死ぬでしょ?
私服で学校入ったら怒られるよって言ったのに、二人とも話を聞いてくれない。仕方なく二人についていくことにした。(そうするしかない…)
試験前でもなんでもないため、部活の子たちは学校へ来ている。第一グランドでは今日も野球部が練習に励んでいる。私がゲイダーに襲われた指導室のすぐ裏手にあるのが第一グランド、道路を挟んで学校の前にあるのが第二グランド。サッカー部とハンド部は大体そっちで練習している。第一グランドでは野球部、陸上部が活動しているみたい。(帰宅部の私はそこらへん曖昧です)
一昨日の窓ガラス割れたのってやっぱり野球部じゃないのかな?ネットが張ってあるにしても裏手がグランドだし…。下手な人がついうっかり何球も…で、ばれないようにボールはすぐ回収したとか…。はっ!!野球部の誰かが私の危険を察知してボールで援護してくれたとか!!…なーんてね。結局なんだったんだろう?盛大に割れてたもんなー。
とかなんとか一人で妄想を繰り広げていると、目の前に背中が迫っていた。危うく玉木にぶつかるところだった。ただついて行ってた私、二人が立ち止まった場所は指導室だった。
窓はすぐに業者に来てもらい、修繕(てか交換?)してある。(迅速な対応…まあ、この寒い中吹き抜けの場所で仕事したくないだろう。)窓ガラスから指導室の中を窺う。誰もいない。しかし指導室には鍵がかかっている。
「ほら~、帰ろうってー。……?ともちん?何、それ?」
高級感溢れるファーのバッグの中からごっついカギたちが姿を現した。何個あんの??
その中のひとつを取り出し、指導室の鍵穴にはめる。ゴクリと喉を鳴らす私と玉木。そんなまさか、ね。
カチャリ…
「なん…で?」
「うちのおじいちゃん、ちょっとした権威者だから。」
その言葉で解決できる話ではない気がするんですが。てかおじいちゃん何者!?玉木に助けを求めるように目配せをするが、「聞いたら後悔する気がする…」と押し黙ってしまった。
恐る恐る中に入る。以前と変わったものと言えば…ゲイダーのデスクが片付いている…ことくらいかな?毎回毎回お世話になるほど悪いことはしてなかったからあんまり違いがわかんないや。
あんなに流れていたゲイダーの血も綺麗に拭きとられている。ほんとに何もなかったかのようだ。
…と思っていたのは私だけのようで。
またしても私を除く食欲不振の二人は青ざめている。なになに、もう!!
「俺、こないだは気づかなかった。やっぱり力強くなってんのかも。ここ、すごいやだ。」
「昨日とはまた感じが違うわね…。複数…ここにいた?」
「うん…一人じゃない。それにここにいないだけでどこかにまだいる…気がしねー?」
ちょっとちょっと…おばけそんなにいるの!?やだよー!?帰ろうよ!?
ともちんの服をちょいちょい引っ張る。でも全く相手にされない。玉木にも同じことをしてみる。こちらは少しリアクションしてくれたものの、(若干慌てただけ)すぐに手を振り払われた。何この扱い!!二人ともどうしちゃったの??私からしてみれば二人がおばけに操られてるみたいだよ~…って、悔し紛れに言ってみたけど…そうとも考えられるくない?
そろ~っと二人をちら見する。一度疑いだしたらもうだめかも。顔が青いのもおばけに取り憑かれてるからだとしか思えなくなってしまった。
ってことは?二人ともゲイダーみたいに私に危害を加える可能性も…?
サー………
血の気が引くってこういうこと?今なら二人に負けず劣らず、私も青ざめていることだろう。
{違う…}
頭の中で何かが否定する。でも…なんか不安で不安で仕方ないよ…!!
なぜだか恐怖でいっぱいになった私は、二人に気付かれないよう細心の注意を払いながら指導室のドアに手をかけた。
どうか見つかりませんように…!!
無事抜け出すことに成功した私はそのまま走り出す。怖い怖い怖い!!!こんなに恐怖を感じたことは今まであっただろうか?
携帯が鳴る。
きっとあの二人からだ。出ちゃ、だめ。逃げなきゃ!!
{戻れ…戻るんだ…}
いやだ!!戻ったら何されるかわかんない!!だってあの二人は取り憑かれている!!私にひどいことをしようとしている!!
特別どこに逃げようと考えたわけじゃない。それなのに足は勝手に動く。どうして学校の外に逃げないんだろう?自分の身体が自分のものじゃないみたい。一階、また一階と階段を駆け上がり、ついには屋上に逃げ込んでしまった。
全速力で駆けてきたせいで呼吸が苦しい。思い切り息を吸い込むと、冷たい空気が肺に突き刺さりチクリと傷んだ。
あ…れ?私、なんで逃げたんだろう?てか二人がもしおばけに取り憑かれているんだとしたら助けなきゃ!!逃げたらだめじゃん!!戻ろう!!
刺すように冷たい空気が、さっきまで恐怖に支配されていた心から一気に私を取り戻させてくれた。
携帯、連絡きてた!!バッグから取り出し着歴を確認するとやっぱりともちんから電話がきていた。かけなおそうとするとまた着信。今度は玉木だ。すぐに通話ボタンを押す。
…押す…押すつもり。押したい。なんで、押せない…?
身体が動かない。指だけじゃなくて、腕、足…身体の全てが動かない。携帯を持ったまま硬直する。荒い息に混じったバイブ音。それもいつしか止まってしまい、静寂が訪れる。
なに、これ…。
身体の自由が奪われた私は成す術がなく、ただ時間だけが過ぎていく。
…気持ち悪い…この感覚…前も経験したことがある気がする。どこでだっけ?
ズズ…
え?足が勝手に動く。引きずるようにして両足が前へ前へ進んでいく。まるで操られてるみたいに。嘘でしょ?ちょっと待ってよ!!そっちはフェンスだよ?待って待って!!今度は手までもその何かに協力し始めたよ!?私は屋上のフェンスを乗り越えようとしていた。
「ちょっと…待って、嘘でしょ??何これ、笑えないって…。フェンス、乗り越えちゃった…。」
私の足元には幅わずか20cmの足場、その下には建物5階分の風景が広がっている。これ、落ちても死なない?いやいや、死んじゃうね。確実死ぬでしょ。あれまー、こりゃ大変だね。
…ん?私、なんでちょっと余裕あるんだ?
ありえない状況に自分の意思では動かせない身体。これってピンチでしょう。なのに、ピンチをピンチと思わない自分がいた。いや、怖いのは怖いんだけど、…で?っていう…。えー!?私なんなの??自分で自分がわかんないよ!!
「茜!!」
「白田!?」
後ろからともちんと玉木の声。見つけてくれたらしい。二人とも切羽詰まっている様子が声から窺える。多分、当の本人よりも焦ってる。
「嘘だろ…あれが、霊…?」
「なんて、数な、の……うぅ…気持ち悪い…」
二人の様子からして私の近くには大量のおばけがいるらしい。昨日と同じ。私には見えないし感じない。
おばけによって自由を奪われた身体。それがゆらりと体勢を崩した。私を落とす気なんだ!!(いや、まあフェンス乗り越えさせた時点でそうなんだろうとは思ったけども。)
背後で悲鳴が聞こえる。私、落ちる。
屋上から?落ちたら?死ぬでしょ?…………ブチッ(何かが切れた)ふっざけんな!!
「だから!!あんたたちごときが私に勝てるわけないって言ってるじゃんか!!」
身体の奥が熱い。全身にかけめぐるナニか。それは一瞬の出来事。
私の身体からバチバチっと光が放出し、そこにいるであろう者たちに激突する。そいつらは私の目の前にいたようだ。低いのか高いのか…とても耳障りな悲鳴だけ聞こえる。しぶとい。私はありったけの力をそこに集中させた。
バチバチバチ………シュウ………
光が煙と共に消えていった。ほらね、私が負けるわけない。あんたたちなんかに。
スゥー……
あれれ、またこれ意識飛ばすかんじじゃない?…あ、思い出した。さっきの気持ち悪いかんじ、ゲイダーに襲われた時と同じ感覚だった。ってことはゲイダーはやっぱりさっきの奴ら(見えてないけど)に操られてたんだ。いやいや、ちょっと待て。問題はそこじゃない。今大事なのは私の意識が飛ぶって話。ここで意識手放したら大変なことになるんでないの?だって屋上…あ、やばい、前半余計なこと考えてたせいで意識なくなる前にどうすればいいかの対策考える前に…い、意識が………




