悲しく響く声
『…すまない…。………すまなかった!!』
『とおりゃんせとおりゃんせ』
あ、…このうたしってる。
『ここはどこのほそみちじゃ』
なんだっけ?がっこうでならったんだっけ?
『てんじんさまのほそみちじゃ』
がっこう…がっこうって…?
『ちっととおしてくだしゃんせ』
がっこう…学校!!
『ごようのないものとおしゃせぬ』
そうだ、私高校に通ってる!
『このこのななつのおいわいに』
私の持つ不思議な力が皆を巻き込んで…
『おふだをおさめにまいります』
皆…皆!そうだ、皆!私には守りたい人がいたはず。
『いきはよいよいかえりはこわい』
ずっと一緒にいたい人たち。
『こわいながらもとおりゃんせ』
こんなところでくすぶっていられないよ。私は
『とおりゃんせ』
守ると言ったら守り通すよ!!
闇に囚われた私は我を失った。そこでもがくことしかできずに、自分自身のことさえわからなくなった。
だけど思い出したよ。私のこと。私を支えてくれる人のこと。だからもう、こんな闇なんて怖くないんだよ。だって私は知ってる。私はここから抜け出せる。もしここから抜け出せる術がなかったとしても、私は皆のいる世界に帰れる。
だって、こっちからそっちに帰れなくても
そっちからこっちを助けてくれるから。
人任せだよ。それを期待する私に、救われる価値なんてないのかもしれない。ハナから他力本願な、こんな私は救われる対象にはなり得ないかも。
…でも、信じてる。信じられる仲間を知っている。こんな甘々な考えを持つ私を、いつだって支えてくれる人がいることを知っている。
「なんだろ…助かるんだって思ったら…」
助かるんだって思ったら、この闇さえも愛おしく感じられる。この闇が教えてくれた温かい想い。それを身を持って知れたこの闇に、感謝さえ抱く。
「闇は…闇であって…闇ではないのかもしれない…」
自分で言ってよくわからない。哲学的?いや、そんなに深く考えてのことじゃない。そもそもそんな頭はない。ただ…感じるんだ。
闇は必ずしも悪ではないんじゃないかって。
きつい、苦しい、そういうネガティブな想いがあっての闇なら、そう想う要因に希望があるんじゃないかって。
なぜ苦しいの?なぜ悲しいの?それは…
あなたが情を知っているからじゃないの?
…愛を知っているからじゃないの?
『…すまない…。………すまなかった!!』
突如聞こえた声。それはひどく悲しく響く。
その声と共に、数多の映像がチカチカチカチカと我先にと私の頭を刺激してくる。明滅する記憶の欠片。それが一気に私の中へと飛び込んでくる。
『すまない…すまない…』
懺悔の声がこだまする。この人は何をこんなに後悔しているんだろう。何に悲しんでいるんだろう?
私の目は前を映していない。私の目は…
過去を映し始めた。
…視えた。ユウマ。視えたよ。
あなたは、大事な人。そして
とても、悲しい過去を持つ人…
バシイッ…!!
「先輩っ!!」
「…遙?」
夢から覚めたよう。それもそのはず。寝ていて水をかけられたーっって言って起きるなんて、まるで漫画の世界。私は水ではなかったけど。体に黒い液体が纏わりついている。イカ墨のようなそれは私のいたるところを闇に染める。きっとこの黒が私を閉じ込めていたもの。私はそれを破って「今」に帰ってきたのだと思う。それと同時に、ユウマさえ忘れてしまった彼の過去を知った。
髪から黒い滴がポタポタと地面に落ちていく。黒に染まった土はまるで底なし沼。だけど私はもう知っている。闇は闇だけじゃない。そこに何かしら光はある。それは見えないけれど、確かにずっと、照らしてくれる。私は知った。私はもう知っている。闇と闇。そこから生まれたものを、闇でしかないそれを、それでも照らす光があるということを。