闇に聞こえる歌声
『………………………』
真っ暗。真っ暗。ここはどこだろう?体が重い。
私は黒の中にいる。左右上下。どこを見ても世界は真っ暗。
「…寒い。」
とにかく歩こう。パニックになったってしょうがない。きっとどこかに出口があるはず。
そう自分に言い聞かせながら、重い体を精一杯動かす。こんなところに長居なんかしてられない。
…だけど出口はどこだろう?入り口があるなら出口だってあるはずだ。どこを見たって暗闇が広がる中、私は何を頼りに歩けばいいんだろう…?考えてはいけない。そうわかっているのに、一度頭に浮かんだ言葉は二度と消えない。『出口なんかない。ここから抜け出すことなんてできない。』…ゾッとする。一生こんな闇の中に囚われるなんて考えられない。いっそのこと殺して欲しい。ここから抜け出せるならば、死さえ甘美なものだと思える。
僅か数分、闇に置き去りにされただけでそんな考えが頭の大半を占めた。
「…やだ…いやだ!誰か…!」
助けを呼んだって、何も返ってきはしない。私はこの暗闇の中、独りきりなのだから。
(怖い…怖いよ…。)
声にならない悲鳴が、喉をひゅうっと鳴らす。独りきり。たった独りきり。どうしたらいいかなんてわからない。恐怖が心を占めてしまった。私はもう…動けない…。
「…いやっ!!」
うずくまることしかできない。体が震える。自分で自分を抱きしめる。そうやることでしか、自分が存在しているのかさえわからない。
その感覚さえ、闇は奪っていく。抱き締めたはずの体の感触がなくなっていく。闇の中で肉体は消滅し、私の思考だけが闇の波に揺られているような感覚に陥る。
私は、…何?私は…ワタシって…?
『…………………』
「………」
どれくらいの間、そうしていたのだろう?思考能力さえ闇に奪われてどれくらいが経ったのだろう?
『………………………』
「……?」
何か聞こえる…。それはとても、優しい声。…歌?
微かに聞こえる歌声に耳を澄ませる。それはとても、懐かしい歌…。