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約束  作者: りっこ
終章 
103/111

再会。

『…待ってたよ。』








ここに来たのはいつぶりだろう?おばあちゃんの七回忌にはなんで行けなかったんだっけ?テストだったっけ…それすら、もう覚えていない。


おばあちゃんちを通り過ぎ、私は目的地へと足を踏み入れた。今は思い出に浸っている時じゃないもんね。


昔と同じように山の奥に行けば行くほど、綺麗な雪が積もっていた。何にも侵されることのない純粋な白。それが私を迎えてくれる。嫌な気配が近づく中で、唯一の救いである白。あの頃と何も変わらない白。気圧されそうになりながらも、一歩一歩着実に歩みを進めていく。


二本の大きな木が見えてきた。


…おかしいな。全て忘れてたのに、一度思い出してみればそれはとても鮮明で。記憶が現実と繋がる。過去、現代、未来…入り乱れているような、そんな錯覚を起こす。


やっとのことで入り口まで辿り着いた私は、その目印である大きな木の片方に体を預けた。ここを進めばもう後戻りはできない。何度も覚悟したはずなのに、体は震える。…震えてもいいんだ。今はそう思う。心を冷たくしようと思わなくていいんだ。私は私のままでユウマに立ち向かえばいい。おばあちゃんがそう、教えてくれたから。


深呼吸を一つして、私は足に力を入れた。そして二本の木をくぐる。


「っ!?」


足を踏み入れた瞬間、体が重くなる。底無し沼に沈みそうになった時みたいに、全身の自由が奪われた。重苦しい空気に呼吸すらままならない。これが今のユウマの気…?


負けるか…こんなところで!


私は目を閉じた。体の奥に意識を集中させる。暫くするとお腹より上の位置が熱くなる。蝋燭のように火が点ったかと思えば、それはどんどん輝きを増していった。どんどん火の勢いも輝きも増し、バチバチと音まで聞こえてくるようだった。


(…負けるか!!)


一点に集まった炎を、今度は一気に拡散させた。すると、私を覆っていた重い膜は完全に取り払われ、新鮮な空気が肺に入り込む。喉の奥がひゅう…と鳴った。


このくらいで立ち止まってちゃ話にならない。大丈夫。私はまだまだやれる。


自分を鼓舞しながら、軽くなった足を勢いよく動かす。ここからは雪も積もってないし、山道という程道が凸凹していない。歩きやすい平坦な道が続く。幼い私が通れるような道だ。今の私だったら、目的地までそう時間はかからない。それなのに膝が笑う。情けない…とはもう思わない。大好きだから、大好きだから仕方ないんだ。


ふと涙が零れそうになる。でもまだ泣いちゃだめ。まだ何も始まってないし、終わってもない。これからなんだから。全部、これから。


そう言い聞かせながらも、体を前へ前へと押し出すようにして歩いた。すると、一際開けた場所へ出る。


「…ここだ…。」


ユウマはいつもここにいた。ここで私を待っていてくれた。


たくさんの緑、ぽつんと赤い一つ。


ああ、やっぱり。


『…待ってたよ。』


私の知っている姿で、私の知っている声で、私の知っている人が

私の知らない笑顔で、私の知らない低い声で、私の知らない人になっていた。


ああ、やっぱり。


「約束…したからね。」





『とおりゃんせとおりゃんせ…

 ここはどこの細道じゃ…

 天神様の細道じゃ…

 ちっととおしてくだしゃんせ

 ご用のない者とおしゃせぬ

 このこの七つのお祝いに

 お札を納めにまいります

 行きはよいよい 帰りはこわい

 こわいながらもとおりゃんせ とおりゃんせ』


どうしてこの歌がずっと頭の中に流れるんだろう?

ユウマを前にした今もずっと流れ続けるこの旋律が、何故だか悲しく響いた。

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