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約束  作者: りっこ
終章 
102/111

バスの中で。

「あんたはあんたの思うまま、やったらいいさね。」








おばあちゃんの住む村。その最寄駅に電車が到着する。久しぶり。おばあちゃんが亡くなってから、なかなか来ることはなくなっていた。昔はしょっちゅう遊びに来ていたのに…。


ホームから出て、周りを見渡す。出勤や通学ラッシュ…と言っても、もともと人口が少ないせいか、私の知っているラッシュとは桁違い。それでも人々は流れるように電車に呑み込まれていく。それを見送る私。それが全て別世界のような気がしてならない。電車も、ラッシュも、人も…。私の日常は壊れてしまったんだな…。


電車を見送った後、バスを待つ。約束の場所へと続く、バスを。


電車を降りて待つこと20分。ようやく私を目的地へと誘うバスがやってくる。それに乗り込んだのは私の他には小さなおばあちゃん一人だけだった。


どんどん、どんどん、どんどん


増していく気配。何故だか心は落ち着いていた。暖かい日に雪が降った時は、雪が降り積もるはずの地面が温かいせいで雪は積もることなく消えていく。でも、地面がもともと冷たかったら?そもそも気温が低かったらどうなる?雪は何に邪魔されることなく降り積もっていく。私は、冷めているんだと思う。やるべきこと、その覚悟を決めた時から、雪は止むことなく降り続いている。私の心に…。


目的地へとバスは走る。


その一つ手前で、『止まります』の赤紫色のランプが点いた。駅から一緒に乗り込んだおばあちゃんが降りるらしい。降りる人を待つバスは、暫く停留所に留まる。おばあちゃんは後方に乗り込んだようで、バスが動きを止めてからもなかなか運転手の元へは来ない。まだかな…と思いつつも、体の自由がきかないであろう人を見るのは気が引けた。第三者の目はその本人に悪意がなくても、見られる当事者にとっては悪意ととれるような視線に変わってしまうから。だからバスの中から外を見ていた。白い世界を。真っ白に輝く世界を。


「あんたは、そのまんまでいいんよ。」


すぐ近くで声がした。視線を窓からその声の主に移す。

その人は私の座席のすぐ横に立って、私と同じように窓の外を見ていた。


白髪の髪を、後ろの低い位置でおだんごにしている。背中は少し曲がっているものの、身に着けているものがよそいき風でぴしゃりとしている。声もよく通っていた。


一瞬、理解できなかった。


「あんたはあんたの思うまま、やったらいいさね。」


にこにこ


びっくりした。


にこにこ


若いなって。


にこにこ


だって、私の最後の記憶のこの人は、ひどく年老いていた…


その老婆はゆっくりと運転席へ歩いていき、チャリチャリ…と運賃を支払った。そして段差を降り、バスを後にした。


「…おばあちゃん…。」


どうして声に出せなかったんだろう?どうしてすぐに反応できなかったんだろう?どうしてすぐに気付かなかったんだろう?


「おばあちゃん!!」


室内と室外で分けられてしまった。もう声は届かない。それでも…


私は窓にへばりついた。おばあちゃんは雪の降る中、バスの中にいる私を見上げてにこにこ笑う。


バスが発車し、どんどん小さくなるおばあちゃん。雪の中に消えるおばあちゃんを見送りながら、私はおばあちゃんの言った言葉を何度も思い返した。


私の思うまま…。


「…ありがとう。」


おばあちゃんが後押ししてくれた。私の思いはもう決まったよ。もう揺らがない。私は、私のまま…決着をつけるんだ。

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