第26ページ::振り合う刃
砂埃が立ち込める。そんな中、エインは少しだけ目を開けた。
体中が痛い。まるで全身蹴り殴られたような熱さ。勿論そんな奴がいたら魔法で吹き飛ばすのだが、今は口から言葉を出すのも無理みたい。
力を入れて立ち上がろうとするがそれも無理だ。
「エインッ!」
何かが自分の名前を呼び、抱き抱える。暖かい、そんな想いが頭を満たす。
抱き抱えてきた人物がわたしの背中を腕で守りながら転がる。悪い奴ではないようだ。
その抱擁が解かれると、目の前に目新しい靴が見えた。手には光り輝いている剣を握っている。エクシールと言っていただろうか、あいつは。
「エクシール・ブレイカ!」
頬に風が少し当たる。それも、暖かい。
確か、魔法本を必死に読み漁っていた時書いてあったっけ。伝説の男と、女性が恋というのに堕ちる話。その人が前に立っていてくれるだけで幸せになる。
ね、レイト。アンタを見てると、なんだか暖かくなるの。まぁ、腹が立ってくるって言うのもあるんだけど、なんだかそれ以上に…ね。レイチェル様も、こんな気持ちだったのかな?――これが、あいっていうのだったら良いのかな?あたしは。
◆
「お前!戦えない相手も狙うのか!?」
エインを地面に横たえ、その前に立ち吹いてきた風の突風を粉砕する。
零人が唇を噛みながら叫ぶとリィナは無表情で、「不要物だったからです」と言う。
「ぬかせぇぇぇええええ―――ッ!!!」
怒りで叫ぶとリィナに向かって走りエクシールを真っ直ぐに突き出す。
「怒りに身を任せるとは、愚かです」
一筋の線を描きながらリィナに出された剣先は、鎌によって止められる。
剣を弾いて距離を取ると振り被り横に薙ぐ。白い線が紫色の鎌に傷をつけようと音を立てる。場に刃と刃がぶつかった音が響いた。
「お前みたいに、何にも表情が変わらない奴にはわかんねえよ!」
力を込めて、リィナの鎌を弾くと追い討ちを掛けようとする。だが、体勢を取り直したリィナが鎌を薙ぎ、風を起こしそれを防ぐ。
「男にはなぁ、怒ってでも守らなきゃいけない物があるんだよ!それが、今、エインだって事だ!」
猛攻を続けるが、息が切れていくだけでリィナに致命的な攻撃を与えられない。
力の差が激し過ぎる。
「はは…ここまでだと、逆に笑えて来るな…」
左手を庇う間もなく、リィナの鎌の刃が迫り、今度はそれを受け返すが続いている。力でさえ負けている自分が勝てる隙があるのかと考える。
リィナの武器、紫色の鎌は重さを無視している速度で振るわれている。見切るので精一杯だ。エクシールの刃が鋼になったからってレベルアップした訳ではなさそうだ。自分の体力を頼るしかない。諦めるのは、倒れてからにしよう。
風圧で遂に体が吹き飛んだが、エクシールを地面に叩き付けるように使い、一回回転をして、押し留める。
「エクシール・ブレイカァアアア―――!!!」
追撃に来た爆風を、後ろのエインと華奢を庇う為に弾き飛ばす。
くらっと来たのは、貧血のせいだろうか。左手からの血が止まらない。倒れていないのが自分でも不思議なくらいだ。
「はぁ…はぁ、はぁ…」
避け際に跳んだ石がぶつかったのか、左目が開かなくなっている。どうやら感覚が麻痺してきているみたいだ。
「レイト…くん」
「まだだ!!まだ終わっちゃいない!!」
精一杯の声を絞り出し、叫ぶ。風で舞い起きた砂嵐でリィナの姿は見えないが、息も切らしていないだろう。どうする。力だ、力がなきゃ補えない差がある。
「頑張れ俺…頑張れ俺」
エクシールを構えながら目を閉じ、想像する。
もっとだ。光を、あの鎌に対抗出来るくらいの光を。強さを、形を。創り出せ。時間がない。早く…早くッ!
「これで、終わりで――」
もっとだ。もっと光を。エクシール、形を…刃を…、
ガバッと背中に抱き着かれる衝動。か弱い力で、俺の背中に飛び付いている。
「『鳴り渡れ!我が正義!』」
レイチェルの声と、あの時の光景が頭を過ぎった瞬間、俺は声に出していた。
彼女の輝く剣を、俺にも創れたら良いなと。想像した。
「『エクス・カリバァアアア――――!!!!!』」
リィナが構え、振るった鎌と、エクシールが衝突する。
はっきりと、紫と白の光が交差する。右手が痺れ、エクシールが吹き飛びそうになるが、手を力の限り握り締める。
俺に、守りたい者を守れる光をくれ。
「斬り裂けええぇえええええええええ!!!!」
パリン、と波紋のように広がった効果音は、どんどん広がって行く。
耳に来る音がけたたましく鳴ると、目の前を紫色のガラスの破片のような物が通り過ぎて行く。唖然としたリィナの姿が見えた零人は、エクシールを続けて振り被る。
「終わりだッ!」
リィナの持っていた鎌の持ち手を、半分に切り裂く。光は残像を残しながら、舞い消えた。
「そんな…クランベルスが…消えた…?」
息を切らして剣を支えにしている零人の耳には聞こえない声で呟いている。
華奢はふらつく零人を支えると、舞う光達に手を翳し、笑顔になる。
「大丈夫、この人なら、やってくれるよ」
そう言うと、紫の光と白の光は、回って遊んでいるかのように、空に薄れていった。
零人は意識を手放さないようにエクシールを引き摺りながらリィナの傍に寄る。唖然としたその瞳は、少しだけ人間の色を取り戻していた。
「わたしが…クランベルスが負ける筈がない…消えるなんて事は…」
「あるんだよ、俺が消したの見ただろうが…ッ」
エクシールをリィナの目の前に突き刺すと、最後の力を振り絞って言う。
「俺が、勝ったんだッ!」
遅れて申し訳ありません、テストがありますので。
高校になれるのって大変ですね、はい。