第25ページ::リィナ激戦
「あれは…エインっ!」
倒れている茶髪の女の子に鎌を振り被った女が斬りかかろうとしている。
それを見た途端、零人は一瞬で華奢の隣を走り抜け、桃色の髪の女との間合いを詰める。
「うぉおぉおおおおおおおっ!」
声を上げながら桃色髪の女にエクシールの刃を向ける。
さっとそれを素早く避けると、リィナは無表情な顔で零人を見据えた。
「来ましたか」
「喧しいっ!前にお前にやられて腹が立ってるんだ!武器もなんか変わっていやがるし!」
腰を低くして相手の出方を待つ。レイチェルがやっていた事を見よう見まねで真似しようとしているが、動き辛い。
前に会った時は二つの銃を握っていた手に、今度は半透明紫色の鎌を持っている。まるで死刑執行をしようとしている死刑執行人だ。目に悪いし子供が見たら一発で泣いてしまうだろう。普通にしているが零人の腰は少し引いている。
「そこの少女が…貴方の要ですか」
「んぁ?要?」
剣と構えは動かさずに、視線を華奢に移す。
華奢は、零人の背後で小さくなっていた。そりゃ見た目だけで言えば自分の世界のそこいらに居たギャルより怖いからな。綺麗な顔しているのに鎌を持ってては死神だ。
表情を変えずにリィナが鎌を軽く振ると、少し強い風が吹く。
「………」
まずくないか?どう考えてもあの鎌から出た風だぞ今の。ちょっと振っただけでこれか。
これにやられたのかと視線をエインに向けた瞬間、視線が凍り付いた。
エインの服はリィナが先程した攻撃のせいで、ボロボロになっていた。色々丸見えである。
「…で、出来ればベッドの中で拝みたい…」
男の本音が少し漏れた。
「退屈していた所です。貴方は…わたしの退屈を払ってくれるでしょうか…」
「……あ、あぁ、分かった」
エインにどうしても目がいってしまう。エインの肌は、白く見惚れるほどだ。いつも吊り目で自分を見てくる瞳は閉じられ、まるで御伽の国の眠れる皇女みたいだ。まぁ、きっとそれはベレンスの方が合っているだろう。
とにかく、出来れば恥ずかしがりながらベッドの上でその姿を見たかった…。
「――っ!!!」
不意打ちに対応し、強大な衝撃波をエクシールで受け止める。
前髪が靡き、腕の骨に負担が掛かる。ここは闘技場じゃない。きっと、あんな鎌が当たったらさっぱり持っていかれるだろう。その…下半身から。
「不意打ちは…卑怯じゃないかっ?」
「余所見をしている方が…悪いでしょう」
ぎりぎりと鳴る刃と刃。零人の視線が真正面からリィナにぶつかる。
「なんであんた…こんな事してんだ?耳とか見る限り、俺の知ってるエルフじゃなさそうだけど…っ?」
本などで出て来るエルフ全て耳が長いと思ったが、間違いなのだろうか?
「…貴様に話すことなど何もないッ」
刃が放され、再び突風が巻き起こる。頬に線が走り、血が流れ出る。
間一髪で振り下ろされた鎌を避け前転しながら距離を取る。エインは、この突風で飛ばされたのか距離は遠い。安全地帯というやつだろう。
しかし、エインの心配をしてる余裕がない事を鈍痛で知る。左腕の二の腕が切れている。もはや見るのも怖くなるほどに血が流れている。
「っつ!!」
右腕を力の限り振ると、エクシールの刃の残像が流れ、風を吸収するかのように弾き飛ばす。後ろにいる華奢に危ない目をさせない為だ。
「瀕死状態になるようにしたのですが…力不足ですか」
「うるせぇ!!左手が使えなくても右手があるッ!」
リィナとの距離を縮めると零人のエクシールが振るわれる。
素早い動きでそれを交わされると同時に、零人が地面に伏せる。直感だったが、見事にリィナの鎌が零人の頭上を通り過ぎて行った。疾風が巻き起こるが、リィナの至近距離でその威力はない。
「喰らえッ!」
バシィ。回し蹴りをすると見事に片手で受け止められる。
「まだだ!」
残った脚でリィナの足を払おうと、全力を込めてブンと振るう。だが、その蹴りが蹴ったのは、何もない空間。次の瞬間には背中に何かが叩き込まれ前めりに吹き飛ばされる。
地面に一度当たると、零人の体は重力を無視するように転がり岩にぶつかる。
内臓が全部口から吹き出るような感覚がし、口からはいつの間にか血が出ていた。
「肉弾戦が得意のようですが、力がありません」
ぐっと力を体に込めると上手く開かない右目に気付く。だらんと垂れ下がった左手が痛々しい。
エクシールの羽のような重量が負担に感じて来る。
「レイトくん…!」
途端に倒れそうになるのを華奢が支えてくれる。危なく意識を失いかけた。
「華奢…」
名前を呼ぶと、その子は目に涙を溜めながらそれを流さないように我慢している表情。不思議だ。泣かせたくないと、瀕死の状態で思ってしまう。
「レイトくんを、一人で危ない目になんて合わせない…!」
零人の前に立つと手を広げてリィナに視線を向ける。
「ご要望なら、その要と共に屠って上げましょう…」
「やめろ!華奢ッ!」
思いっ切り目の前に立っている小さい背中を抱き締め、エクシールを前に突き出す。
――気休めなのはわかってる。だけど、力を貸してくれ。エクシール、いや、華奢。君を守る為に、君を守るコトが出来るのは、君が作り出したこの剣だけなんだ。
「力を貸してくれッ!!!」
叫ぶ。目の前の子、そしてエインを守る為に。こんなところで死ねない。レイチェルにも笑ってただいまって言わなきゃならない。だから――、
青く、エクシールの輝きが増す。優しいその光は華奢の青い色の髪と同じ色を放っていた。
体の痛みは治まらない。だけど、レイチェルと闘技場で戦った時と同じ感覚が体を包む。手にはグリップが白く輝いたエクシール。
手を開くと、青く輝いていたエクシールの刃は白く染まった。
握り直し、正面を見据える。リィナの風の鎌はすぐそこまで迫っていた。華奢が振り返ると、零人の顔を見て微笑む。すると華奢は何もかもわかっているかのように、零人の前から走り出し、後ろに回る。
「エクシール・ブレイカァアアアア―――!!!!」
右手だけで、エクシールを振り被り、全力で――下ろした。
遅れを取り戻す!をペースに頑張っているのであります体長!
と、言う訳で待っていた人も待っていたなかった人も25話目でございますッ
本当に間を開けてすみません!
只今細々続きを書いております!
なんだかんだで50の半分ですよ!
あとがきまでよんでくれてる方、有難うございます!
これからも宜しくお願いいたします!