第22ページ::争いは戦争へ
手のグローブに向け魔力を練り上げ、それを目の前の敵に向かって放つ。
しかし、直ぐにそれ以上の魔法が何発も返って来てクレベルディア軍の中心核へと向かってくる。
「守ると…言ったっ!」
炎や氷、その他の魔法を先陣に立って斬り捨てる緑髪の剣士。
体以上の大きさの大剣を軽々と振り回して、魔法を斬り、隙を突いて敵の数を減らして行く。それは、勇敢という心からではないだろう。きっと、表情が見えなくても国を守りたいと思っている、そうに違いない。
レイチェル様が、そうだったんだから。
弓が飛んで、兵士がドンドンと倒れて行く。歩み、剣の振るいを止める兵士はいない。
これが、戦場。ひやりとするほど悲しく、自分を忘れかける戦い。
呪文を小声で紡ぎ、手を大振りして風のカマイタチを創り出す。それは目の前のラインにいたエルフを吹き飛ばし、切り刻んで行く。
「クロス…アルセイド」
静かな声と共に近くで爆風が巻き起こる。ミリスが出した大爆発のような剣が敵を薙いでいた。鋭い疾風が敵を吹き飛ばしながら斬り刻む。
そんな時、戦場下で出る筈の悲鳴が、クレベルディアの軍からしか上がっていない事に気付く。エルフの一人を見ると、目が黒いなんて物ではなく、気味が悪いほどに染まっていた。
「エイン…前……?」
エインに飛んで来た火の弾丸を斬り消しながらミリスも気付いたようだ。
『敵の異様さ』に。切り倒されても悲鳴を上げない。瞳には命の息吹さえないようにも見える。まるで、生気をどこかで吸い取られて来たような感じだった。
「様子…構っている…余裕…ない」
「その通りですね。ディア・ロイン副隊長」
いきなり聞こえた声には、こんな状態にも関わらず笑みも混じっている感じがする。
「カティー…貴方も前線に…いたのですか」
ミリスの表情が呆れたように崩れる。
「ウィエード・ロイスは魔法の専門隊ですから。それに、隊長から率先していかないと、部隊の皆さんの活力が下がってしまいますしね。貴方もそれを考えたのでしょう?」
微笑みながら強力な防御魔法を軍の全体に張り巡らせる女性。魔法で浮かんだアメジストの髪が揺れている。
エインが造作もないように高度な魔法を完成させたカティーを驚いて見ていると、その相手は裏のないような笑顔で笑う。
「ふふ、隊長となれば、これくらいオチャノコサイサイなんですよ」
「魔力…勿体無い」
「っ来ます!」
零人のジャンバーを翻すと片手を目の前に突き出す。
「…喰らいなさい。これが、あたしの、最大火力よ!」
前線に走り駆けて並ぶと最前列へ素早く移動し、赤い波動が効いた左手を一体のエルフの腹部に拳で捻り込む。ドンッと音がし、辺りが焼け野原と化した。味方の軍はカティーと呼ばれた魔導師がシールドを張ってくれている。
エルフ軍は後ろからゾロゾロと湧き出すように現れて来る。
「ハァ…こ、これじゃ…駄目、なの?」
焼け落ちるんじゃないかと思えるほどの激痛を抱えた左手を抑えて後方に飛ぶ。
他の騎士達が槍や剣を手に、エインの魔法を合図のように動き出した。さっきまで同レベルだった交戦が、クレベルディア軍が押し始めたのだ。もう腕の痛みも忘れてしまうほど嬉しかった。
「エイン…大丈夫?」
ミリスがエインの隣に並び、痛む手を擦る。
「こ、この程度、大丈夫…!ミリス!構わず攻めて!」
エインが上司に命令するような形になっていたが、ミリスは無表情で「…了解」と一言言うと、最前線へ大剣を構え突進して行った。
腕を抑えて近場の岩陰駆け寄り、座る。腕が交換したいほど熱くなっている。
「っつぅ…」
涙を抑えて今を見守る。軍の兵士達が、剣でエルフ達を切倒して行く。それが正しいのかはわからない。だけど、今はこの時を生き残るのが最善なのだ。
腕の痛みで気を取られていたからか、わりかし近くになるまでその足音に気付かなかった。
「わわ!大丈夫ですか!?」
声を掛けられても余り気が回らない。流石にさっきのはやり過ぎたと少し後悔している。
「じっとしていて下さい!」痛む腕の方の袖を少女が捲り上げると、少し楽になったような気がした。さっきの魔法の反動は出した分だけ。その言葉の通りだ。反動が自分にも返って来る。きっと、腕は火傷ではすまされないだろう。
パラパラと音がすると火傷の箇所が優しい冷たさに包まれる。
「少し冷やします!ブライデ・アイ・フェレン・アイス・フェイフォン・ディテネキュア!」
素早い詠唱が終わるとすっと痛みが消えた。体中の汗がすうっと引いて行くのがわかる。
しかし―――、
「冷たい!ドを超えてる!もう違う意味で痛いわよ!」
腕を強く振ると掴んでいた手が離れてかろうじで手は利くという感じだった。
手を掴んでいた人物を見ると腕を振った時に転んでしまったのか尻餅をついていた。長いローブを着こんではいるが、転んだせいで黒いストッキングが見えている。そして、服装は魔法学校を着ているエインの格好と同じだった。
目を引くのは首の上だ。燃え上がるようなストレートセミロングの赤髪に、湖を思わせる青く大きい瞳。白いミルクのような肌。そして、赤い髪に付いている飾りのような――可愛い犬耳。
「ま…また直ぐに起きた…あの人とおんなじ…」
「直ぐ起きなきゃ危ないでしょ!? このお耳は飾りなの!?」
近寄って苛立ちを犬耳にぶつける。グーっと上へ伸ばす。「わふーっ!?」
右へ、左へ、回転回転。「や、やめてください〜!」
飾りではない事を確認すると手を離して少し彼女から離れる。
「それに、貴方一般人でしょ?こんな所にいたら危ないわよ」
「へ、へぅ。テイルは迷ってしまいまして…いつの間にかこんな所にきてしまったのです」
つまり迷子なのと聞くのをぐっと堪える。きっとそれを言ったら目の前で半分泣いているこの子は泣くだろう。
「今直ぐ逃げなさい。貴方みたいな人はすぐ死ぬ――」
エインが言い終わる前に自分をテイルと呼んだ子が抱き着いて来て一緒に転ぶ。
何をするのと文句を言う気も出なかった。銃撃音が近くで聞こえるとエインが立っていた場所に雨のように弾丸が降り注いだからだ。
視線を崖の上に上げると「やっぱり…」と言葉を漏らす。
「はわわ!な、なんですか〜あれ!?」
それを察知していた筈のテイルが一番驚いている。
崖の上に立っているのは前に戦った時とは違う服装、白いジャケットを羽織り、大きい黒シャツを着込んだ桃色の髪の女性だった。その瞳は崖からもわかるほど、鋭い紫に輝いていた。
「…オトコは…どうした」
女性は高い崖からなんなく飛び降りるとエインに問い掛けて来た。
「まだ生命は残っている」
「だから何よ。またレイトを狙いにきたの?お生憎様。レイトはここにはいないわ」
エインの足は強気な言葉に反して震えていた。目の前にいる女性の目付きは無表情だが、ミリスのように何かが伝わって来る。
零人がここにいないとわかると女性は明らかにクレベルディア王国の方向へと足を向ける。
その時、女性の横を雷がすり抜けて行った。
「待ちなさい」
こちらの戦意を感じ取ったのか女性の手にはいつの間にか銃が二丁握られていた。
「テイルって言ったっけ?下がってなさい」
手のグローブに埋め込まれている宝玉が輝きを増して行く。
「わたしに勝てると…思っているのか」
「二度も負けると思わないで。あたしは…誰に助けられなくても生きるんだから!あたしには、魔法しかないんだから…絶対に負ける訳にはいかないの!」
さてさてさて、聖○るかなをやりまくりサボっているかもしれない斑鳩です。
えっとペンネームを変更いたしました。
何卒、宜しく、お願いします。
アセ○ア…やってないなぁと思いつつ、CDを聞きながら書いた今回。
いや、嵌っているゲームや音楽で書く感覚も違うんですなこれが。
僕は最近「TAO」に嵌っていまして、これを聴かなきゃやってらんないぜーみたいな感じに…。
まぁまぁ、無駄話は置いておいて、今回もエインが目立っております。
ミリス好き、エイン好きな方にはたまらない今回です。
まぁ、実際問題結構引き伸ばすつもりなんですがね。
いや、最近アイディアが沸くように出てくるんです。
ゲームをするのを減らしつつ小説小説と奮闘の毎日です。
仕事にしてみたいなぁなんて思わなかったり…。
えっと、見てくださった方、これからも宜しくです。
いやぁ〜こんな長い後書きを読んで下さり、有難い限りの斑鳩 エイジでした!