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第19ページ::レクイエム

うわ〜、物凄い久々の投票になってしまった…。

やっと19話目。今回のお話からは、結構シリアスになってしまいます。

張り切って、どうぞ。

「っ!あの女を逃がして…しかもレイトが…」

 この世界では少し珍しい黒髪の少女が握り拳を机に叩き付ける。

「なんて様だ…。くそ、これもわたしが弱いせいだ…!」

 無様だ。たった一人の武者が引き連れた戦闘力のない妖精の戦争軍が、まさかここまでするとは思わなかった。被害は…一言で言えば莫大だ。今攻められたら、きっと負傷者だらけのこの王国は壊滅してしまう。

 そしてもう一つ、武器の攻撃を受けた零人が一週間以上眠り続けている事だ。

 何をしても動かない。食事は…魔法で栄養を取らせるしかなかった。料理を、魔法で直接胃袋に送る。しかし、それには危険が伴った。零人の体は魔法を受け付けず、無理に使おうとすると吐き出してしまう。

 それからは、口に食べ物を直接ゼリー状の物体にして入れるようになった。

 水は、普通に飲めたらしい。そう、らしいだ。魔法がさっぱりな自分には、何も出来ない。

「…はは、何も出来ないとは…辛い物だな…くそ…」

 今回の戦闘で、一番の被害者と言っても良い。ほぼ、いや、植物状態なのだから。

「レイチェル様」

 後ろのドアが開いてローブを羽織った少女が入ってくる。

「エインか…、どうしたのだ…」

「姫様がレイチェル様を診てきてくれと頼まれましたので。それと――」

 急に気まずそうにしていたエインの顔が強張る。じっとレイチェルを見てこう言った。

「…近々、精霊軍はここ、クレベルディアを陥没させに来ます」

 レイチェルは零人の顔を見ながら「そうか」と情けない表情をする。

 エインは寝ている零人に近づいて行く。エインが料理を持って来た事に気付くと、レイチェルは居た堪れなくなって、病室から逃げるように走り出た。

 声を掛ける間もなくレイチェルが開けて出て行ったドアから視線を外し、苦痛に歪んでいるような表情をしている零人の頬に触れる。

「もう…情けない顔、してるんじゃないの、馬鹿レイト。ご飯、食べよっか」

 声は…返って来ない。エインの涙腺から、少しだけ透明の雫が零れ落ちた。雫は、少しだが、料理の中に染み込んでいった。



 ◆

 顔を片手で隠しながら、自分の部屋まで走って行く。

 情けない情けない情けない情けない情けない。助けられなかったばっかりでなく、看病も出来ない。剣しか振れない。なにより、同情しているようなエインの表情が辛かった。

 自室のドアを開け、素早く閉めると、ドアに背中をつける。

「…う…うぅ」

 気が緩まったのか涙が溢れ出て来る。両手で涙を止めようとするが、流れ出てくる涙を止められない。

 もし、レイトの目が覚めなくなったら、きっと自分は騎士の誓いで死ぬだろう。『騎士足る者、全てを守り抜く。それが、出来ない時、それは死ぬ時だ』誰の言葉かも覚えていない記憶の欠片。しかし、その欠片に自分の運命を預けてしまう。

 これは駄目な証拠なのだろうか?自分は何も出来なくてここで少しずつやつれて行くレイトを見守るだけなのだろうか。

「それなら……わたしは…」

 部屋の片隅に置いてある鞘に納まった剣を引き抜き、夕日に染まり始めた太陽に向かって掲げる。鳥が部屋の前を羽ばたいて行く。

「最後まで、わたしは、騎士として…剣士として生きよう。もし、わたしが死ぬ時は…自分の誓いを貫けなかった時だ」

 鞘に剣を収め直し、涙を拭う。

 入って来た扉を開け、レイチェルは歩き始めた。気に入っていた帽子と、零人から受け取ったジャンバーをベットの上に置いて。



 ◆

 その後、エルフの100万大隊に突っ込んで行く人影があったという報告が伝達班から伝わってきた。エインはその報告を受けて大慌てでレイチェルの部屋に向かっていた。帰って来るまでの時間はさほどなかっただろう。

「レイチェル様の部屋に…これが」

 ベレンスの机に置かれたのは、紛れもない親友が嬉しそうに被っていた帽子と、赤い不思議な作りのジャンバー。どちらも、レイチェルの部屋のベットの上にぽつんと寂しそうに置いてあったそうだ。

「…まさか…大隊に向かっていったのは…」

「…心苦しいですが、報告には…一本の剣を腰に据えた者だったと」

「で、でも!それがレイチェルだって事は――」

 ベレンスが言おうとした言葉にエインは首を横に振る。どう考えても、レイチェル以外、そんな事をする者がいるとは考えられない。それに、普通の感情で100万の大隊で向かって行くだろうか。あの出て行った時の反応と照らし合わせれば、もう何も言えなかった。

「だ、だったらレイチェルを救出に!」

「落ち着いて下さい姫様。噂は早朝届きました…。100万の大隊に挑み、無事で居たら…きっと帰還しているでしょう」

 ベレンスはがくりと身を地面に力なく倒してしまう。

「姫様!」

 緊張が張り詰めてしまったベレンスの意識は、すっと、霧がかかるように落ちていった。

眠いので…後書きは今回は抜きで申し訳ありません。

次回では書きますので。

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