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神功柳:楓さんのお祖父さんにしてファンシー☆テイルの創始者です。好々爺です。日給一万円払ってくれます。嬉しいです。超嬉しいです。
暑中見舞いもうしあげます。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。常田です。
今日は記念すべき日です。二つの意味で。
半年前の今日、僕はファンシー☆テイルに入りました。これが一つ目の理由です。そして、今日は彼が組織に帰ってくる日でもあります。それが二つ目。
彼との再会を心待ちにしているのは僕だけじゃありません。僕の隣には楓さんが座っていて、彼の帰還を待っています。
と、ドアが開いて花音さんが出てきました。
「よ、お待っとさん」
楓さんが目を輝かせます。
「それじゃあ!」
「あぁ、ようやく修理完了だ。出てきな、『い』の五番」
花音さんの指パッチンに合わせてドアの向こうから駆動音が聞こえてきます。こんな場面に水をさすのもアレですが、いまさら指パッチンは古いんじゃないでしょうか、花音さん。
「古くない古くない」
やっぱり僕の頭蓋骨の中には何か埋め込まれるみたいです。それが超科学かなんかで僕の思考を花音さんに伝えているんだと思います。前にも言ったけど人権侵害です。科学の前に憲法精神を学んでください。あ、やっぱり止めてください。曲解したうえ悪用しそうです。
それはさておき、ゆっくりした動きが「い」の五番が出てきました。半年前の姿のままです。感動です。超感動です。花音さんってやっぱり凄いんだなぁ。
「久しぶり〜。元気だった、五番?」
楓さんが「い」の五番に話しかけます。「い」シリーズは会話する機能がついていないので五番が返事することはありませんが、前足の一本を上に上げて挨拶を返しました。喋れなくってもコミュニケーションは取れるのです。ちなみに今のは「よう、嬢ちゃん。手前の方こそ元気やったか」って言ってました。
五番と楓さんがしばらくじゃれた後、僕は五番の前に立ちました。途端、場の空気が変わります。本当に変わるわけじゃないのでそんな感じがしただけです。
言いたいことは山ほどあるけど、何を言ったらいいのか分からず、僕はしばらくの間黙りこくっていました。
謝罪?
いや、それは少し違う気がします。だからといって現状報告するのも変ですし、楓さんのように親しい挨拶を交わすような間柄でもありません。
数分悩んだ末、僕はいよいよと心を決めて口を開こうとしました。
その時です。「い」の五番は先ほどと同じように前足の一本を上げて僕の言葉を遮りました。あ、今さらですが「い」シリーズはぼた餅に足を6本付けたようなロボットです。
僕はすぐに彼の言いたいことが判りました。だから、黙ったまま右手を前に出し、握りこぶしから親指を天に向かって立てます。花音さんが「お前こそ古いよ!」って言ってるけどこの際無視します。
「い」の五番はそのまま後ろを振り返って部屋の中に歩いていきました。今の彼は背中で語ってました。漢ですね。ちなみに今のは「はっ、少しは男の顔になったじゃねーか、チキン野郎。手前が俺様にしたことは忘れることはできねぇ。ならお前はこれからどうすりゃいいのか。……もう分かってるよな。へっ、嬢ちゃんのお守りから解放されてせいせいするぜ。十年間だぜ、十年間。ちっせぇおてんば娘ならいざ知らず、こんなに大きくなっちまったら俺様じゃもう面倒見切れねぇよ。チキン野郎……、いや常田の坊主。嬢ちゃんを……頼むぜ」って言ってました。
彼との因縁は話すと長くなるんですが、ぶっちゃけ詳しく説明するのが面倒くさいんで端折ると、僕が五号を蹴り壊したあと楓さんを助けたら柳さんにスカウトされたっていう話です。端折りすぎです。全然意味が分からないと思います。僕も分かりません。
まぁ、半年経ってようやく五号も戻ってきました。ファンシー☆テイルも完全復活です。そろそろまともな活動しましょうよ、本当に。
「実は修理自体は2時間で終ったんだけどね」
花音さんがズボラで怠け者で科学者として以前に人としてダメダメだ、っていうのは周知の事実ですから別に突っ込みませんよ?
またまた続きました。評価・メッセージ随時受付中。