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名前の読み方:そういえばよく聞かれるんですよ、「名前何て読むの?」って。僕がときたせいじ。楓さんがじんぐうかえで、です。普通、一回聞いたら分かると思うんですけどね。謎です。超謎です。
「いよーっす、トキダ!」
「常田です。ト、キ、タ」
今日は高校の登校日です。夏休みも後半に差し掛かってきたので、緩んだ気持ちを引き締め、新学期に休みボケを残させないための行事らしいです。
だったら休み明けの前日に登校させろよと思うかもしれませんが、ところがどっこい。高校生っていうのは不思議なもので、前日に登校させようとしたらサボる癖に十日ほど前に登校日を設けたら文句を言いながらも登校するのです。
「にしても、登校日なんてかったるいよなー。まー、これ終ったら残りの休み中は遊び放題だからいっか!」
あぁ、無情。どっちにしろ休める期間は変わっていないのに、見事なまでに学校の策略に嵌ってますね。
あ、忘れてました。僕と一緒に歩いている彼は荒竹昌良。高校に入ってからできた友達で、登校ルートが一緒なので付き合いは短いながら仲の良い友達の一人です。
短髪、筋肉質、単細胞と三拍子揃った体育会系の身体つきをしていますが、とある理由で高校からは帰宅部になったそうです。予想としては入学早々更衣室の覗きでもやらかして、学校側から部活禁止令されているに一万円。
「そういやさ、常田!」
「何ですか、昌良」
ちなみに、僕が敬称をつけないで名前を呼ぶのは同級生の男子のみです。厳密に言えば、プラス馬鹿。
「実は俺、正義の味方始めたんだ!」
「お前かっ、グレンレッド!!」
し。
しまった!
馬鹿プラスヒーロー、イコールグレンレッドって図式が反射的に閃いたせいで思わず声に出してしまいました。
ヤバイです。超ヤバイです。全身スーツを着てたとはいえ、僕の正体がバレる可能性が高いです。
「常田、お前……」
ほら、怪しげな目付きで見られてます。どうしましょう。手っ取り早く、蹴って殴って壊して埋めようかな。あぁ、それがいいですね。それでは早速。ふふふ、はははははは。
「もしかして、あの時現場にいたのか!? いやー、周りには誰もいないと思ってたんだけど、見てる奴は見てるんだな!」
あれ……、なんだか変ですね。もしかして、もしかすると。
「それにしても、気付かれちゃーしょうがないな。隠していたがバレちゃしょうがねぇ、俺がグレンジャーのグレンレッドだ! へっ、惚れんなよ」
奇跡的に気付かれてないみたいですね。っていうか、正体隠してるんなら街中で叫ぶな。それ以前に、僕に正体明かすなよ!
僕の正体はばれていないみたいなので、とりあえず一安心です。ですが、これからの対処に困るのは事実です。もしグレンジャーと戦うことになった時、さすがに友達と判ってる相手を倒すのには抵抗がありますしねぇ。
え、この前踏み潰したことについてはどうでもいいのか、って?
それはそれ、これはこれ。というか、正直どうでもいいです。
「そうだ! お前も近くで見てたってことは、ファンシー☆テイルの方も見てたのか!?」
突然凄い勢いで昌良が尋ねてきました。はて、僕の正体には気づいていないみたいだけど、なんの意図があって僕にそんな事を聞くんでしょうか。
「い、一応見たけど。それがどうかしたんですか?」
「あのロボットに乗ってた女の子も見たよな!?」
楓さん、のことなんでしょうか?
「まぁ、見ましたけど」
「あの娘、どっかで見たことないか?」
さ。
更にしまった!!
楓さんはただでさえ露出度の高いコスチュームを着ている上に、素顔をさらけ出しているんでした。顔を隠しているものといえば、ちょっとしたアクセサリーくらいです。
馬鹿だと思って油断してたけど、意外と冴えてるなぁ。昌良に対して警戒を強めないと……。
だけど、今さら警戒を強めたところで楓さんの疑惑が無くなったわけじゃありません。できる限りはフォローしないと。
「き、き、気のせいなんじゃないですか?」
「いや、割と頻繁に。しかも近くで見ている気がするんだが」
「そそそ、そうかな? きっと気のせいですよ。気のせいと思いましょう。気のせいなんです!」
駄目だ、動揺しまくって声が震えます。ピンチです。超ピンチです。
「あー。常田くーん、おっはよー!」
楓さん、許してください。初めて楓さんの笑顔に怒りを覚えてしまいました。あ、でも朝から楓さんの顔が見れて嬉しいなぁ。もういっその事、このまま現実逃避したいくらいです。
「お、おぉぉ! 君は!!」
あー、やっぱり馬鹿でも気付きますよねぇ。どうしましょう、本気で涙が出てきます。
「一目見たときから決めていた。好きだ、付き合ってくれ」
は?
「はぁ」
『おおぉぉーーー!!』
周りを歩いている人たちから歓声が上がりました。
あの、神様。僕の視界に写っている楓さん以外の人間をぶっ殺してもいいですか?
なぜか続きました。評価・メッセージ随時受付中。