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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第一話 ~十一人の天才達~
7/32

同時刻、東京。

モニターに十一人の男女が映る。


「……ぷはっ、ははは! 大掛かりなドッキリだなあ、全国民を巻き込むなんてさ! ねえどんな仕掛け見せてくれんの?」


突然発された言葉。

東京では一人の男が腹を抱えて笑いながらモニターに向かってそう叫んでいた。

その男に周囲の人々の視線が集まる。

モニターの向こうにいる、仮面の男がくすりと笑った。


《ほほう、そんなに見たいのかね? ならば第一の仕掛けをお見せしようではないか。"No,3"、プレゼントを用意して差し上げろ》


"No,3"と呼んでいる者に対して何らかの指示を出す。

未だ笑い続ける男の上空にヘリが姿を現した。

プロペラを回す為のモーター音のうるささに人々は顔を上げる。

するとそこからモニターに映っている男と同じ仮面を被った何者かが顔を出し、手を振ってみせた。

右手に持っている何かをこちらに放り投げ、ヘリ内部へと戻っていく。

疑問に思い目を細めてそれを眺める人々。

――ペットボトルのような形をした物だ。

だがその口にはキャップなどなく、代わりに手榴弾の安全ピンのようなものが嵌められている。

落ちた衝撃に、そのピンが弾け飛んだ。

からんっと乾いた音を立てながら転がった、ペットボトルのような物の中には緑色の何かが満たされている。


「……?」


人々はそれを囲んで覗き込む。

男が拾おうと手を伸ばした、その時だった。

パンッ

それは小さい破裂音を辺りに響かせながら弾けた。

プラスチックの破片と同時に中身が勢いよく飛び散る。

男の腕や顔に破片が突き刺さり”中身”も付着した。


「うわっ! 何だこれ、動いてるぞ!」


誰かが緑色の液体を不気味そうに見つめながら言う。

男も気味悪く思い、自分の腕に付いたそれを振り払おうと慌て始めた。

だが、振り払う前にその緑色の液体は皮膚に染み込む様に消えていった。

――びくり。

男の身体が震える。

目が充血していき、口の端からは涎がぼたぼたとこぼれ落ち始めた。

男の異常な様子に気付いた数人は数歩後退する。

頭がおかしくなったのか、恐らくそう思っているのだろう。


「……があああああああああぁぁああ!!!!」


突如、猛獣のような咆吼が辺りを包んだ。

思わず呆気にとられる人々。

と同時に男の身体が地面に伏し、激しい痙攣を起こし始めた。

電気椅子に座らせているのだろうかと思う程に、激しく。


「ひいっ!!」


「なっ、どうしたんだよ!! おい、大丈夫か!?」


人々は恐怖に顔を歪ませ、心配の言葉を投げかけつつも誰も近寄ろうとはしない。

当然の反応と言えば、当然である。

誰も異常なモノには関わりたくないだろうから。

男の喉から、詰まった排水溝が久し振りに水を流した時のような、ごぼっという鈍い音が。


「がぼっ、うぶっ!」


唾液と血液が混じった半透明の液体を吐き出し、激しく咳き込んだ。

びちゃっ、びちゃっ、と水音を立てながら男の周囲が赤く染まっていく。

その血の海の中から何らかの肉塊が顔を覗かせていた。


「ぐああぁあああぁああ!!!! ぎいいぃいいいいい!!!!」


男は己の顔に爪を突き立て、皮膚の下にある何かを抉り出そうと必死に掻きむしる。

顔の肉が削がれる。

血が滴り落ちる。

ぐちゅっ。

自分の指を目に突き刺した。

それでもなお手を止めようとしない。

気が触れてしまったとしか思えない異常な行動に人々は恐れおののく。

いったい何が起きたというのか、男の身体はみるみるうちに崩れていった。


「ぐぼっ、ごっ、があっ!!!!」


男はさらに大きく咳き込むと再び肉塊を吐き出した。

内臓と思われるものが撒き散る。

びちっ、という音と共に皮膚には亀裂が入り、そこから血が噴き出した。

それは弧を描き、徐々に小さくなっていく。


「だ……ずげ、ごぼっ」


目や鼻、耳、口から桃色の何かを零しながら助けを乞う。

だがその言葉を言い終える前に男の生命は絶たれた。

それは人間だったものとは思えない、肉塊と化していた。


「――キャアアアアア!!!!」


「――うわあああああああ!!!!」


男の息が絶えたと同時に、恐怖に震え硬直していた人々はパニックを起こし悲鳴を上げながら逃げていく。

悲鳴が轟く中、仮面の男の声が残酷に響き渡った。


《これが第一の仕掛けだ、殺人バクテリア”FDB109”。これを知る前に彼は死んでしまったようで非常に残念である。このバクテリアはな、体表から侵入し内臓、脳の順に破壊、気が狂う程の痛みを伴いながら、徐々に徐々に死へと誘うものだ。一度触れてしまえばあの通り。只の肉塊となる。つい先程私が言った、0.1秒で即死というのは少し大袈裟だったかな》


仮面の男は、ハハハッと高らかに笑う。

上空を飛び回っているヘリから、バクテリアのアンプルを落とした仮面の男が顔を出した。

その横から現れた、防護服を着込んだ四人の人間が肉塊の傍にロープを垂らす。

地面に降り立つとその人間達は、手に持っている霧吹きで何かを吹きかけ始めた。

肉塊を硝子瓶に詰め血を洗い流す。

そして元の綺麗な状態にし、またヘリの内部へと戻っていった。


《こうなりたくないのならば我々に反抗心を示さないことだ。では後程、また会おう諸君》


ぷつりと途絶えた仮面の男の声はまるで生命の終末を告げる死神のように、凍てついた街に深い痕を残した。



――ゲームオーバーまで二十三時間五十五分。

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