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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第一話 ~十一人の天才達~
4/32

ない――――

何処にも見当たらない――――――


俺は部屋中を探し回った。

タンスの中、ベッドの下、ドレッサーの下――

それでもヒントのような物は何処にも見当たらない。

塵さえ一もつない。

ぱっと見た感じ、大した隠し場所はない筈なのだが――


探し始めて二分半が経過しようとしていた。

徐々に焦燥感が俺を支配していく。

額から汗が滴る。

口はからからに乾き僅かに血の味がする。

電流が流れている有刺鉄線が自分の腕に触れそうなぐらい近い。

これに触れてしまったら死ぬのだと改めて実感し手を進めた。

だがそうは思っても部屋の大部分は既に埋め尽くされてしまっていてもう探せる場所がどこにもない。

……くそっ、何か見落としているのか?

焦りと苛立ちを募らせながらも冷静に考え直してみる。

それでも答えは出てくれない。

半ば諦めかけたその時――


俺の胸ポケットからひらっ、とメモが落ちた。

さっき工具箱から取り出したメモ。

それが裏返って絨毯の上に落ちる。


――!


【赤→NH3

青→CuO

黄→CaCO3

緑→H2S

黒→Fe

白→C2H4】


恐らくこれがドアを開く為の答えなのだろう。

……メモの裏側に書かれていたとは。

こんなことに気付かなかった自分に嫌悪が走る。

だが時間がないという事を知っていた俺は頭の中で瞬時にそれを整理した。


NH3はアンモニア、CuOは酸化銅、CaCO3は炭酸カルシウム、H2Sは硫化水素、Feは鉄、C2H4はエチレン。


何がなんだかさっぱり分からない。

これを混ぜ合わせると…という問題でもないらしい。

これらに何か共通点があるのか?

順番に切れということは数字が関係していそうだが……。


残り一分を切っている。

まずい。

早く答えを出さないとこんな訳の分からない場所で死んでしまう。

こんな所で何故死ななければならない、俺が何故拉致されてきた。

その理由も分からないまま死ぬのだけは勘弁だ。

何としてでも此処を出なければ――

そう思った途端、閃いた。


――――――原子の数!


それなら――

ポケットに入っていたシャーペンを取り出し,その紙に答えを書いていく。


【赤→NH3「4」

青→CuO 「2」

黄→CaCO3 「5」

緑→H2S 「3」

黒→Fe 「1」

白→C2H4 「6」】


この数字通りに切っていけば大丈夫だろう。

急いで工具箱からニッパーを取り出し、ドアに向かった。

数字の順番通りにケーブルを切断していく。

そして全て切断し終えると,ドアからピピッと電子音が鳴り,開いた。

足下には電流の走る有刺鉄線が。

慌てて靴の踵を直すとすぐに其処から脱出した。



「……此処は何処なんだ?」


俺は辺りを見回しながら、一本の廊下を歩いていた。

長く続くコンクリートで固められた灰色の壁に挟まれた床には赤いカーペットが綺麗に敷かれている。

一度も見た事がない場所である事は確実だ。

少し進んだところに男が。

こちらに背中を向けていて顔は分からない。


「ったく、何だってんだ……」


その男はポリポリと頭を掻きながら、面倒臭そうにぶつぶつと何か言っている。


「おい」


俺は男に向かって声を掛けた。

一本の廊下に響いた俺の声は当然男の耳に届き、そいつはこちらに顔だけを向けた。


「……!!ああ?誰だテメェ」


そう言う男の少し驚いた様子を感じ取る。

そして俺は男の容姿に顔を顰めた。

ストレートで顎程まである長い前髪を右目の上に垂らし、片方はピンで上げている。

前髪とは対照的なツンツンの後髪。

キツく鋭い目。

右腕には訳の分からない柄の彫刻。

首からは文字の彫られた十字架のネックレスを提げ、耳には幾つものピアスが蛍光灯の光を反射してきらきらと光っている。

灰色のタンクトップで重ね着風というやつだろうか、襟元からは黒い布が覗いており、左腕には十字に布を巻いている。

黒い布製の手袋をはめベージュのカーゴパンツを履き、その腰には二連のチェーンがじゃらじゃらとついていて喧嘩を売ってきたあの学生を彷彿させた。

俺のあまり関わりたくないタイプである事は確かだ。


「……此処が何処か知っているか?」

「……知らねぇよ」


俺は男の問い掛けには答えず問う。

それに対し男はぶっきらぼうに返事をした。

……さっきから俺の顔をジロジロ見て、何様だこいつ。

俺がそう不快に思っていると、声を掛けられる。


「……まぁとにかくドアあるし,さっさとこっから出んぞ」

「……あぁ」


男は扉を蹴り開け、俺はその後ろに続いた。

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