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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第四話 ~第二の罪 自己保身~
27/32

第四話のタイトルを変えました。すみません。

”あなたが、私の弟、だと”


怜南のその一言を頭の中で反芻する。

するとまたもよく分からない感情が胸に広がった。

恐らく、嬉しい、のだろう。


――怜南、お前は今まで何処に住んでいた? 大学は? 人間関係は? 引き取られた家では?

様々な疑問が浮かんでは、今すぐにでも尋ねてしまいたいと思う。

俺の今までのくだらない生き様なんて知らなくていい。この十一年間の空虚な時間を無かった事にしてこれから新たに姉と、本当に意味のある人生を送りたい。

そうすれば、幼い頃から感じていた周囲との壁もなくせるのかもしれない。俺の態度が原因で喧嘩を売られる事もなくせるのかもしれない。

全て仮定の話だが俺はそう望まざるを得なかった。

夢も希望も無かった俺に与えられた望み。それを実現する為にも”俺達”は必ず、此処を生きて出る。

奴らの思い通りになってたまるか。



開かれた扉の向こうは暗闇だった。部屋の全貌は見えない。

見えるのはこの廊下から差し込む明かりが照らす、入り口付近のみだ。

前の部屋と同じようなコンクリートの無機質な床が照らし出されている。

扉を開けた柊が扉の先にするりと入っていった。


「俺がドア押さえとくわ。やから部屋の探索は任せてええか?」


氷石が後ろから声を掛けてくる。

先程の”問題”の一つとして自分の事件が扱われた事で、ひとり考えたい事があるのだろう。

俺はそう量って振り返り、ああと頷いた。


「ぼぼぼ、ぼく達を閉じこめる気じゃ、な、ないだろうね……?」

「……せえへんよ。そないな事したって何の意味もないやろ」


悠川のあからさまな不信感に、氷石は小さく溜め息を吐いて応えた。

そのやり取りを尻目に掛けながら部屋へと足を踏み入れる。

真っ暗だな、と呟こうとしたその矢先だった。


――ぱっ、と真っ暗な部屋の右奥に一つの青白い光が灯った。

不意に現れたその存在を訝しむように注視する。

学校机だろうか。その天板から天井に向かって光が発せられていた。

富裕民地帯――この国で一定以上の収入を得て富裕民と認可された一部の人間のみが住む事を認められた地帯の事を言う――に所在を設ける学校で使用されているという、天板が液晶になっている物だ。

教科書としては勿論、タブレット式になっている為ノートを取る事も出来るらしい。

平民地帯の中でも底辺にいる俺にとっては全く無縁の物で、聞いた事はあれども実際に目にしたのはこれが初めてだ。


「……何だろう?」


闇野の声が横を通りすぎる。

すると今度はすぐ傍で何かが光を発した。

暗闇に紛れていて全く視認出来なかったが同じタイプの机があったらしい。

その明るさに目を閉じかける。液晶は白く輝くばかりで何も映し出してはいない。

触れれば何かが表示されるかもしれない、そう思い立って手を伸ばす。

指先でその画面に触れると、一枚の写真が液晶いっぱいに表示された。


「……これは」


思わず呟く。いつの間にか机の周りは囲まれており、誰しもが覗き込むように首を伸ばしていた。

中学生だろうか、二人の女子がこちらに向かってピースサインをし、笑顔を浮かべている。

しかし、向かって左に写っている人物の顔には紫色の大きなバツ印が。

その所為で口元以外が見えず、顔は把握出来ない。

右に写っているのは――

――バンッ、誰かが机の上に思いきり手を着いた。

その細い腕は微かに震えている。


「リサの、写真……!!」


机に手を着いたままそう呟いた神之崎に目を向けた。

内気そうな垂れ目に、太めの眉毛、耳より高い位置に結わえられた二つ結び。写真の右に写っている人物のその姿だった。

神之崎に視線が集中し、沈黙が訪れる。

津河井の次は神之崎、という訳か。

そして、恐らくバツ印の書かれている人物が仮面の集団、”R・S”の一味。

星科がしていた腕章には”R・S”と書かれていた。それがどのような意味かは分からないが、集団の組織名に違いない。


痛い程の沈黙を遮るかのように、右隣の机の天板に別の写真が表示された。

その隣、また隣、と順に。そして二列目、三列目、四列目、と。

最終的には縦方向に四台、横方向に四台並べられた計十六台の机にそれぞれ異なる写真が映し出されていた。

ただ、部屋に入った直後光を発した机だけは、部屋の右奥、それも隅の方へと追いやられている。


「何っだ、こりゃあ……」


哀田が机を覗き込みながら奥の方へと進んでいった。

他の液晶一つ一つを覗いていく。

どれもが小学生、中学生時代の楽しそうな表情をした写真だ。

遠足、修学旅行、学校祭……。様々な行事を楽しんでいる至って普通の子供の風景。

神之崎の隣には常に、紫色のバツ印が書かれた人物がいた。この人物と神之崎が相当仲が良かった事が伺える。

だが、四列目の四台の机には全く無関係に思える物が映し出されていた。

その四つとは、表紙に『心腹ノ友 著:神橋 美沙』と書かれた分厚い文庫本、古めかしい紙に繁体字で書かれた漢文、最新の日本地図、一万円札の札束だ。

俺にとってはどれも関連性が無く意味のない物のように見えるが、どうやら神之崎にとってはそうでないらしい。

青白い顔をして涙を零し、何かを否定するかのように首を横に振っている。

そして過呼吸のように不規則な呼吸を繰り返していた。

傍には怜南がいて、神之崎の背中をさすり宥めている。


「この机だけ、落書きされてるね。何か意味があるのかな」


闇野が隅に追いやられている机を覗き込み、言った。

俺もその机へと近付く。

画面には何も映し出されていない。ただの白い画面。

だが、天板には油性マジックや蛍光塗料で「死ね」「生きてる価値無い」「ゴミ」「クズ」などと低俗な言葉が書き連ねてあった。

……どこにでもいるものなのか。

その落書きを見て、自分の小学生、中学生時代を思い出す。

当時の俺の机にもこのような落書きがあった。

俺が特に何かした訳では無かったが、一部の人間にとって何かが気に食わなかったらしい。

落書き以外にも様々な嫌がらせをされたが、一々構ってやるのも面倒だったし、母親の都合上転校が多かった為特に気にする事もなかった。


「あぁ? 何だこれ。ガッコーってこんなんすんのが普通なのかよ」


哀田が短くなった煙草を床に捨て、それを踏み付けながら言った。

意味が分からない、とでも言いたげに顔を歪ませている。


「そんな訳ないでしょ。これは”いじめ”の一種だよ。僕は実際に見た事ないけど、一人の人間に対して、こうやって机に落書きしたり暴力振るったりして精神的肉体的に追い詰める事がいじめ。

それで自殺する人も少なくないね。確か二十年前までは減少傾向にあったけど、近年ではまた増加してるとか」


闇野の説明を哀田は首を傾げ、へえ、いじめねえ、と小さく呟きながら聞いていた。

話が脳みそに入ってこないのか、そんな事をする理由が分からないと思っているのか、ただ単純に興味がないのかは分からない。


「……っていうか、説明しなくたって分かるでしょ。昔からある社会問題だし」

「俺は興味のねぇ事は知らねぇの。それにガッコー行った事ねぇし」

「……瑠那さんも相当訳ありっぽいね」

「……んなのお互い様だろうが」


二人のやり取りを耳にしながらこの机を調べる。

机の中を調べようとした所、普通の学校机とは違う事に気付いた。


「……引き出しが付いている」

「えっ? あ、ほんとだ」


闇野は俺の言葉を聞いて、引き出しに手を掛ける。

だが、施錠されているのか開かないようだった。


「あれ、鍵がいるのかな。鍵穴は無いみたいだけど」


試しに俺もやってみるが、うんともすんとも言わなかった。

何かあると見せかけたダミーだろうか。

こんな事をわざわざする意図が分からないが。


「こんなもん、壊しゃあいいんだよ」


哀田はそう言って、机の引き出しに手を掛けようとする。

その力任せな発想に呆れながら、少し距離を置く。

巻き添えを食らうのは勘弁だからだ。


「――鍵を見つけましたわ」


耳を塞ぎ、騒音に備えようとした時、才條の凜とした声が響いた。

声の方向に身体を向けると、十六あるうちの十台の引き出しが既に開かれているのが目に入る。

扉側から見て縦四列目、横三列目にある机の傍に才條は立っていた。


「”魚座Ⅱ”の鍵ですわね」

「あ、それなら私達が調べた廊下にあったところです」


才條の言葉に怜南が応対する。


「ではそちらに向かいましょう。此処には他に、何も無いのでしょうし」


後ろに首を捻ると、哀田が引き出しに手を掛けたまま不満げな顔をして机を見つめていた。

哀田の事だ、机を破壊しストレス発散でもしようと考えていたのだろう。

残念だったな、と心の中で言葉を投げかける。


「……神之崎」


足を動かし、壁に背を預け座り込んでいる神之崎の前に立った。

恐る恐るといった様子で顔を上げる。


「次に現れる人物は恐らく写真に写っているもう一人の人物だ。特に意味はないが、一応名前を聞いておきたい」


俺がそう言うと、神之崎は再び俯いた。

ウサギのストラップを握り締めている手が小刻みに震えている。


「……これ、リサの、お守り。あの子が、くれたの。でも、で、も、リサ、あの子を裏切って……!!」


質問の答えになっていない、と出かかった言葉を飲み込み、再度尋ねる。


「……名前は?」


神之崎の横に立つ怜南が、心配そうな表情をして俺の顔を見た。


「あ……、愛里美海(あいざと みみ)……」


そう小さく呟いた後、美海、ごめんね許して、と何度も何度も謝罪と許しを請う言葉を繰り返す神之崎。

その対応を怜南に目配せして頼む。

怜南が頷いたのを確認すると、部屋の外へと向かった。

その途中、ふとなんとなしに振り返って部屋を見渡す。

俺と怜南、神之崎以外にまだ残っている人物がいた。

哀田だ。

落書きのある机の前で何やら考え事をしているようだった。

こちらに背を向けているため表情は見えない。


「……おい、哀田。行くぞ」


何か問題を起こされても困るので声を掛けておく。


「……あ、あぁ。先行ってろ、すぐ行くからよ」

「……?」


よく分からないが、大した事ではないのだろうと判断しその場を後にした。

一から修正をかける予定です。説明の足りなかった部分を付け加えようと考えています。申し訳ありません。

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