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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第三話 ~赤い涙〜
22/32

長らくお待たせしてしまい申し訳ないです……。

……


それから数日後、僕は行動を開始した。


「君達、少しいいかな」

「……津河井、くん。何か用?」


僕は普段星科と行動を共にしている四人の生徒に話し掛ける。

案の定、その四人は明らかに怪訝な表情を浮かべて、警戒心剥き出しの目を僕に向けた。

それ程までに嫌われ、信用が無い事はとうに知っている。


「僕とてこのような無駄な時間は過ごしたくはないのだけれどね。いい加減限界なのだよ、あいつの愚痴には」


そう言いながら眼鏡をくい、と押し上げ、あからさまに苛立ちの表情を作った。

奴らに話に興味を持たせる事を狙う為、端から星科の名前は出さずに言葉を並べる。

そしてあいつが誰で、何の話をしているのか、話を遮って問うてくる事は間違いない。

それを考えた上で、たたみかけるように続けた。


「それも全て君達があいつのレベルに合わせた話を……」

「ちょっと、待てよ、何の話? それにあいつ、って?」


……思惑通り。


「君達と常に一緒にいる、星科の事だけれど?」

「なっ、ゆ、ゆっきーが? どういう事だよ」


予想通りの狼狽える様に笑いが込み上げる。

それでいい。そのまま食い付け。


「だから、君達がレベルの低い話をする所為で、星科がそれに対する愚痴を僕に吐き散らしてくる事が迷惑だと言っているのだよ。

君達が僕に近付かない、また、僕が君達と会話しないと理解した上で、あいつはいつも愚痴を零す。

”皆に合わせて、話のレベルを落とさなきゃいけないから疲れる”だの”中学生並の会話しか出来なくてつまらない”だのとね。全く困ったものだ」


そこまで一度に言い切り、大きく溜め息を吐いてみせる。

尻目に四人の様子を窺うと、今の言葉だけでかなり動揺しているようだった。

お互いが顔を見合わせて目を泳がせている。

その行動で、そのように言っていたのを聞いた事があるかどうかを確認しているようだ。


「ゆ、ゆっきーがそんな事言うわけ無いだろ! 嘘を吐くな!」


一人が声を荒げて否定した。どうやらそれ程までに星科を友人として慕っているらしい。

勿論、嘘吐きだと言われ否定される事も想定済み。

だが、少しでも星科に対しての疑惑を植え付けておけば、それは自然と大きく成長するだろうから、この場で僕の言葉を完全に信用させる必要はない。


「ふん、友人だと思っている人間を庇うのは殊勝な心がけだとは思うけれどね。僕には人を貶めるような嘘をわざわざつく必要はない。

一分一秒も無駄に出来ない時間を割いてまで僕がこうしているのは、これからの僕の時間を無駄にしない為だ。

あいつの愚痴は長ったらしいものでね、それをこの先もずっと聞かせられたら膨大な時間を浪費してしまう。

言っておくけれど、君達が見下され陰口を言われているから可哀想だ、だから忠告してあげようなどとは勿論考えてもいないし、それに君達の仲を引き裂いた所で僕には何の利益も無い。

僕は、僕自身の利益の為に行っているのだ。それなのに嘘をつく必要があるかい?」

「…………」


奴らは無言のまま睨み付けてはいるが、その目には既に星科に対する疑念が生じていた。


「……行こう、みんな」


一人がそう言い、僕に背を向け歩き始めると、他の三人もそれに続いていった。

足音が徐々に遠くなり、僕だけが静寂に包まれた教室に取り残される。


「……ははっ」


僕は片手で口元を覆い、口角を吊り上げた。

――全て嘘に決まっているだろう。

馬鹿な奴らだ。あっという間に星科を疑い始めた。

”友達”が行動原理の星科が、陰口という卑劣極まりない行為で人を貶めるような真似をする訳がない。

だからこそこの嘘は効果的だ。

特に星科のような友人を大切にしようとする人間は、この学園では特殊な例だ。

その為尚更奴らからの信頼を得やすかった筈。

しかし、仲が良いと思っていた人間が自分の陰口を言っていたという話が真実だろうが嘘だろうが、一度耳にしてしまえばその二つの間の関係はあっという間に瓦解する。

そこにこの学園の”他人を踏み台にしてトップに立て”という性質をプラスすれば、それはますます容易だ。

四人には”良い友人”というのは表面上で、本当は学年トップという立場から自分達を見下し蹴落とす隙を狙っている、そう思わせ、星科を避けるように仕向ける。

そして孤立させる事、それが第一段階。

一週間も経てば、それが顕著に見られる事だろう。

もし、一週間経て変わっていないようならばすぐさま次に取りかかればいい。

しかし、急いては事を仕損じる。

まだまだ始まったばかりだ、急ぐ必要はない。


教室に差し込んだ夕日に気が付き、僕は肩に鞄を掛け教室を出た。


……


三日後。

休憩時間に現れた保科は目に見えて落ち込んでいた。

目は伏せがちで口数が少なく、いつもの微笑にもぎこちなさが感じられる。

もう始まっているのか、予想より早いな。


「どうかしたのかい?」


心配している風を装って問うた。我ながら白々しい行為だと自嘲する。


「ん、何が?」


星科が目を丸くして問い返した。本当に分からないといった表情だ。

自分の感情が表にありありと出ている事に自覚がないらしい。


「露骨にそのような暗い表情をしていて、何も無かったとでも?」


僕のその言葉を聞き、より目を丸くさせる星科。

そしてばっと顔を覆い、はあと溜め息を吐いた。


「……顔に出てた?」

「ああ、完全にね」

「出してないつもりだったんだけど……」

「それで、何が?」


星科は手を下ろし、首を横に振って笑みを浮かべた。


「大丈夫。自分で解決しなきゃいけない事だから。栄幸君に迷惑掛けたくないし」

「……それなら良いのだけれど」

「うん、心配させちゃってごめん。じゃあ、また」


星科はその”悩み”の話を避けるように足早に立ち去った。

”友達”を一番重要視している星科にとって、友人から避けられるというのは耐え難いものなのだろう、奴が浮かべた笑みには余裕が微塵もなかった。

……それ程までに友人が大切なのか、僕には理解出来ないな。

とにかく、効果は十二分だったようで僕はつい笑みを零す。

順調だ。このまま滞りなく計画が進む事を願う。


さて、次の段階だ。

第二段階は、奴の友人関係を完全に断ち切り孤立させ、僕を最大の友人だと思わせるように仕向ける事。

孤立した奴にとって、僕が一番の存在となる事が出来れば扱いやすくなるし、さらに裏切った際に与える絶望感、精神的ダメージは多大なものになる。

そのようにして追い込めば、”友達”を一番としている星科は絶対に挫ける筈だ。

怪しまれないように慎重に動かなければならない為、この段階には時間が掛かるだろう。

ひと月、ふた月、いや、それ以上に掛かる可能性はあるが、時間を掛ければ掛ける程に計画の成功率は上がる為、何も問題はない。

それに、何事も壊す事は非常に容易いものと相場が決まっている。

……よし、そうと決まれば行動開始だ。

一ミリの疑惑も持たせぬよう、発言、行動に細心の注意を払わなければ。

しかし、そちらにばかり気を回してもいられない。いつでも僕がトップに立てるよう、努力し続ける必要がある。


「……”努力”、か」


ふと、疑問に思い口に出す。

――僕は、一体何の為になる努力をしているのだろう?


……


「……はあ」


僕は頭を抱えていた。

計画が順調に進んでいる事は間違いない。しかし、予想以上にストレスの掛かる事だった。

かれこれ三ヶ月を経て、表面的に星科と親密な間柄になる事には成功した。奴は、事ある毎に僕と行動を共にするようになったのだ。

これは、奴が僕以外の人間から完全に孤立した証明と言っても差し支えないだろう。


”友達”という直接的な言葉はまだ用いず、それとなしに友人としての振る舞いをこなしているうちに奴は僕を信用したらしい。

何とも単純な奴だ。僕の思惑通りではないか。


意図していた通りに事が進むのは有り難い。

しかし、僕は罪悪感に襲われていた。

心にずしりとのしかかる重み。

僕は何て事をしようとしているのだろうかという罪の意識と、もうこれ以上他人を傷付けたくはないという迷い。

……駄目だ、僕は、やはりまだ人間としてありたいと心の何処かで思っている。

空っぽのクズのくせに、人間でありたいだなんて、馬鹿だ。笑えない。

その甘さが原因で計画が破綻、そして僕の立場が奪われたままとなってしまったら、僕の存在意義は本当に無くなってしまうというのに。


……今更だ。今更、僕に優しさは要らない。

だって僕はもう既に引き返せない所まで来ているのだから。


「……僕は、本当に愚かだね。きっと、君もそう思っているのだろう?」


封じ込めた筈の、遙か遠い記憶の中で笑っている親友だった人に向かって小さくそう呟いた。


も、もうちょっと続きます。(想像以上に長くなってびっくりしてます)

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