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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第三話 ~赤い涙〜
17/32

津河井過去編です。

――僕はクズだ。


「栄幸くんすごーい!」


違う。


「尊敬するわー」


尊敬されるような人間ではない。


「お前天才だな」「羨ましい」「お前みたいになりたい」


やめてくれ、僕はそんな良い人間じゃない!!


「……っ、あ、当たり前だろう。だって、僕は君達のような愚鈍な人間とはつくりが違うのだからね」


――そして僕は嘘吐きになった。


……


「おっはよー栄幸!」

「!」


ぽんっ、と肩をたたかれて僕はふり返った。


「あ、おはよう、由都ゆうと


そこには僕の友達がいた。そばかすがある顔をにこにこさせながら、ピースサインを僕に向ける。

僕もそれにこたえて、ピースサインを顔の横に作り、笑った。

由都とは一年生のころに友達になって、今では僕の大切な親友だ。


「今日テストだよテスト!」


さっきの笑顔はどこへやら、うつむいて暗い顔をしながらため息をつく由都。


「四年生だけのやつだよね」

「そーそー、なんで僕達だけ……」


本当にね、という意味をこめて僕も深いため息をついた。


「栄幸は勉強したの?」


由都が僕に問いかける。それに対し僕はちょっとだけ得意げに答えた。


「少しだけねー」


そう言うと、由都が僕の肩をぽかぽかとなぐる。

うらぎり者めー、なんて言ってるその顔を見ると、何ともうらめしそうな表情をしていた。


……


――チャイムが鳴り響く。テストの終わりをつげる音だ。

それと同時に教室内がざわざわとさわがしくなる。みんな、よっぽどいやだったんだろうなあ、と思いながらそれを見ていた。


「てーるーゆーきー!」


その声とともに、ドーンと背中に衝撃が走る。


「わっ!」


ぼんやりしていた僕は、おどろいて机に頭を打ち付けた。


「いてて、なんだよー!」

「ご、ごめんごめん、そんなに思い切りぶつけるって思ってなかった……、ってたんこぶできてる! あれみたい! インドかどっかの……」


由都はそう言いながら眉毛の間をつんつんと触っている。

……なんかにやにやしてるなあ。

そう思ってむーっとほっぺをふくらますと、由都はぷふっと笑った。


「わーらーうーなー!」

「笑ってないー! いたいいたい! ぷっ、あははは!」


僕はおでこを左手でおさえて、今にも笑いだしそうになっている由都の頭を右手でぽかぽかとなぐってやった。

……っていうか、もう笑ってる!!


「笑ってるじゃん!!」

「笑ってないったら笑ってない!」

「栄幸くんと由都くーん? そろそろ帰りの会始めたいんだけどなー?」


先生の声ではっとして、周りを見る。

みんな笑いながら僕達の方を見ていた。

笑われていることがなんだかはずかしくなって、ささっといすに座る。

……由都のせいで、恥かいちゃったよ。とふくらませていたほっぺをよりふくらませる。


「……はい、みんなー、今日はすごいお知らせがあります!」


先生のその一言で教室内がざわめいた。

そういえば、最近男子バレーの大会があったって言ってたっけ。その結果かなあ。

あ、由都も参加してたんだっけ?


「このクラスの由都くんも参加していた男子バレーの大会で、由都くんのチームが優勝しました! みんな由都くんに拍手ー!!」


わああと歓声があがって、拍手喝采が起こる。

……あれ、由都そんなこと言ってなかったのに。

なぜか、友達の成功を真っ先に喜べない僕がいた。なんでだろう、うれしいはずなのに。それがもやもやと胸に残る。


「へっへへ、僕がんばったからねっ!!」


そう言って嬉しそうに笑っている由都。

僕はもやもやを抱えたまま由都に笑いかけて、すごいねと言った。

ちくり、と刺すような胸の痛み。今までになかった感情に僕は首をかしげた。


……


学力テストの結果を返します、そう言われて返された結果に僕は少し落ち込んだ。

少し勉強したにも関わらず、以前と全くと言っていい程変わってない成績。

……僕は何をやってもだめなんだ。

そんなくやしさがあふれて、涙がにじむ。

ちくり、ちくり、と胸が痛んだ。


その暗い思いを抱えたまま帰宅した僕に、父さんと母さんは気付いたみたいだった。

帰って早々部屋にこもって結果を眺めてると、母さんが呼ぶ声がした。

ご飯ができたみたい。

どたどたと階段を降りて、真っ先に僕の席につく。


「やった、カレーだ!」


そう言いながら、目の前に置かれたお皿に手を付けようとした。


「全員そろってからでしょ!」


まだキッチンの方にいる母さんが僕を止める。

ちぇー、と言ってつけっぱなしになっているテレビを見た。


『……結局ねえ、そういう人って居場所を得るためにがんばってるだけなんだよね、ただゆうえつかんを得るためだけなわけ』

『……それに自分自身が気付いたとき、むなしくなってしんじゃうの』


……おじさんたちがまじめな顔で、なんだかよく分からない難しい話をしてる。

興味がなくなって、美味しそうなカレーが盛りつけられているお皿に目をやる。

早く食べたいなあ、なんて思ってると、いつの間にか父さんは席についていて、母さんもキッチンから出てきていた。


「じゃあ、いただきます」

「いただきます!」


がつがつと勢いよくかきこむ僕。

やっぱり母さんが作るカレーは美味しいな、と思いながら食べていると、父さんがふふふと笑った。


「……? どうしたの父さん」

「……テストの結果、あんまり良くなかったんだってな」


……。

さんざんな結果を思い出してうつむく。

なんで今その話をするんだろう。思い出したくないのに。

すると、ぽんぽんと頭を優しく撫でられた。

……?


「だけどな、栄幸はそのまんまで良いんだ。無理して何でも出来るようになんかならなくていい。だからそれっぽっちの事、気にするな」

「そうよ。健康で長生きしてくれれば、それで良いの。だから、周りと自分を比べて落ち込む必要はないのよ」


……父さんと母さんの言葉はとても優しかった。暖かかった。

でも、それはおかしいんじゃないか、僕は疑問に思った。

健康で長生き……? それが将来何になる? 

それだけじゃ生きていけないんじゃないの?

僕にはみんなとくらべて何も能力がない、って遠回しに言ったんだ、きっと。

それなら、何か能力をつけなきゃ。僕に、出来ることで。

……そう、僕に、出来ること。


「……うん」


気付かせてくれてありがとう、と言いたかったけれど、なぜだかその言葉は出てくれなかった。

……それから食べたカレーは、味が無くて、ひどくまずかった。

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