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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第二話 ~第一の罪 歪な心性~
13/32

後々、沢山修正かけると思います……。

「よし、準備が整った。最後の問題も簡単に解いて見せようではないか」


津河井は自信満々の様子で仮面の男に言う。

仮面の男すらも奴の態度に呆れているのではと思う自分がいた。


「その前に一つ確認したい事があります」

「……なんだい」


自分のペースを乱された、奴はムッとしたように声を低くする。


「……栄幸君、そのバッジは首席の記章かな?」

「……? そうだけれど」


津河井は突然変わった男の口調とその内容に驚きを隠せない様子だ。

……もしかして知り合いか? こいつらは。

だとすれば、同級生だろうか。


「……そう」


ぎしり、椅子を傾け考え込むように男は俯いた。

沈黙が訪れる。

嫌な、予感。


「本当は僕が付けているはずだったのに。横取りするなんて酷いよね、栄幸君は」

「……っ!?」


ガタンと弾かれたように立ち上がる津河井。

何か思い出してはいけないものを思い出してしまったかのように血相を変える。

先程までの余裕ぶった表情の面影は微塵も残っていない。


「ユキ、チカ……!?」


津河井の口から出た名前はどこかで聞いたことのあるものだった。

記憶を探る。

……そうだ、あれは三年前の十二月頃の新聞だったか。

記事の内容は日本一優秀な高校と噂される藤神(ふじかみ)高等学園の心理学専攻の生徒が授業を受けている最中に突如錯乱し、生徒数名に軽傷を負わせ現行犯逮捕。

精神鑑定により心神喪失状態にあったことが認められ、閉鎖病棟に隔離させられた、というものだった。

その加害者の名前は星科志慈(ほしな ゆきちか)、当時の年齢は十五歳。

一時は”あの学校の教育の仕方に問題があった”とか”優秀な人材を生み出す為に何かしたに違いない”とか少なからず騒がれていたような気がするが、

新聞の隅に掲載されているような記事に大衆の興味はすぐに失せ、一週間後にはすでにゴミ箱の中に忘れ去られていた。

俺にとってもそれは同じで、それ以外に覚えていることは特にない。


「覚えていたんだ。嬉しいよ」


男が自らの仮面に手を掛ける。

カチリ、と仮面を留める為の接合部が外れる音がした。

津河井の不規則な呼吸音が俺の緊張感を高めていく。


――仮面の向こうから現れた顔は酷く窶れていた。

バサバサに乾燥した長い黒髪が顔を覆っている。

その隙間から覗く伏し目がちの目は黒く濁り、その下には長い間床に就いていないのだろうかと思う程の黒い”くま”が。

すっかり生気の抜け落ちたような青白い肌が閉鎖病棟に隔離されていたことを物語っているように見えた。


「……っ! 何でお前が!」


津河井は動揺を露わにして言葉を発した。


「……?」


事情が分からない氷石らは怪訝な表情を浮かべている。


「大きく報道された事件ではなかったからな。知らなくて当たり前だろう」


そう口にした俺に視線が集まる。

驚いた様子は彼らの顔を見るまでもなく伝わってきた。


「事件って……」

「君は僕の事、知ってるんだ。驚いたな」


星科もまた驚き、目を丸くしている。

それは、そうだろうな。正直、自分自身でさえ何故そんな事を覚えているのかと疑問に思う。


「今は時間もないから、名前だけ紹介させて貰うね」


星科はやせ細って骨張った手をテーブルの上に着き、重たそうに体を持ち上げる。

ふらりとよろめく体が何とも弱々しい。


「僕は星科志慈。栄幸君の、元同級生」


彼はこんな状況でも礼儀正しく、頭を下げた。

その妙な光景に部屋の空気が固まる。

同級生……。津河井もあの学校の生徒という事か。

どういう訳か、恨まれているようだが。


津河井が勢いよく立ち上がる。

その衝撃でパイプ椅子が畳まされ、倒れた。


「……ぼ、僕に復讐……!? いや、違、お前はっ」


津河井が支離滅裂な叫び声に近い声を上げ狼狽える。

表情は見えないが、震えている脚や激しく上下している肩から酷く怯えている事が見て取れた。


「君のおかげで僕はこんな様さ。夢も友人も存在も失って、残ったのは復讐心だけ。全く、空虚な人間だよ」


星科はそう言うと口角を不器用に釣り上げ力なく笑った。


「……ぼ、僕は悪くないだろ!? お前、が、邪魔しようとしたから!!」

「邪魔? 僕が何を邪魔したって?」


憤怒の色に染まった濁った目が津河井に向けられる。

ごくり、と誰かの唾を飲む音が聞こえた。


「自分が行った行為を棚上げして被害者面するんだ? どれだけ性根が腐ってるのか見てみたくなるね」

「そんな、僕は、ちが、違うんだ、そんなんじゃ」


狼狽える津河井に星科は追撃するように捲し立てる。

その内容は、奴らの過去を知らない俺には意味の分からないものだった。


奴らがもめている間に、口を挟んでいいものかと悩む。

これが日常で勃発したのなら関わるべきではない事は確かだ。俺は関係者じゃない。

だが、今は違う。俺の生死に関わる異常な状況。

……こいつの所為で死ぬなんてのは御免だ。


「いい加減にしろ」


意を決して二人の会話に割って入る。

星科と目が合った。津河井は俯いたままだ。


「……お前らに何があったのか知らないが、今重要なのはそんな事じゃない。くだらないクイズだ。とっとと答えて貰いたいところだが、津河井はもう答えられそうにない。解答者交代だ」


……これでいい筈だ。

タイムリミットがある以上大幅なタイムロスは許されない。

用意周到な犯罪集団ならなおさらだ。


星科は黙ってこちらを見つめている。

奴の虚ろな瞳は何を考えているのか読み取れず気味が悪い。

それでもこの意見には賛同するだろうという自信はある。

せざるを得ないのだから。

星科が長い沈黙の後、口を開く。


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