Ⅳ
お久し振りです。今回は短めです。次回長めになると思います。
「……正解です。次で最後の事件となります」
「ふふん、随分と簡単だね。ほら君達、見てご覧よ。僕の活躍を」
星科が正解を告げたのとほぼ同時に、津河井がこちらを振り返り調子の良い言葉を口にする。
わざわざこちらを振り返ってまで言う必要があるのか、そもそもその言葉に必要性があるのか、と呆れ果てた。
全く馬鹿臭くて聞いていられない。
最初の問題からそうだったのだ、こいつは。
こちらに聞こえるように言っているとしか思えない独り言をぶつぶつと、ぶつぶつと。
苛立たしいにも程がある。
手助けを欲しているのか、と思ったがどうにも違うらしい。
途中、御月が手を貸そうと近付いていたが津河井はそれに大きな舌打ちで対応していた。
ようは自分の力を誇示したいだけなのだろう。
「最後は東京ドーム爆破事件ね……。八年前の話か。ん? 容疑者は指名手配中……?」
津河井の頭が左に、僅かに傾いた。
東京ドーム爆破事件……。俺が九歳の時の事件だな。
二万人弱の人間が犠牲になり、その死の原因となる爆発物処理班の爆弾解体ミスが激しく非難されていた事件だ。
……ん? 氷石、響汰……?
「二〇五五年六月二十二日、東京ドームで反政府組織による爆破テロが発生。十個もの爆弾が設置され爆発物処理班が出動したが解体に失敗……」
「なんやて……!?」
事件概要が津河井の口から述べられる中、氷石が叫びに近い声を上げた。
思わず氷石の方に顔を向けると、彼は唇を噛み締め何かを探るような目つきで津河井の背中を睨んでいた。
……一体どうしたというのだろうか。
「ひょ、ひょひょ氷石さん……?」
奇異な視線を向けられてもなお様子を変えない氷石。
突然の異常に気を逸らされながらも、津河井の言葉に耳を傾けるくらいしかすることのない俺は、次の言葉を待つ。
が、暫くの間紙をぺらぺらと捲る音と鉛筆を走らせる音だけが部屋を占めた。
そして考え込んでいるのか、口を閉ざし紙上の文字に集中している。
不意に津河井が嘲笑うかのように鼻をふん、と言わせた。
「テロリストではなく、指示をミスした爆発物処理班の班長を特定……? ……ふうん」
カチャ、と眼鏡を直す音。どうせまたろくでもない事を言うつもりだろう。
「指示のミスとは、随分間抜けだねえ。部隊を率いていた人間のくせに」
「なっ……! あんたなあ!!」
「僕の邪魔をしないでくれるかな、鬱陶しい」
津河井は氷石の怒声を煩わしそうにあしらい、続けた。
「僕は今現在君達を救ってあげているのだよ? それなのに僕の邪魔をして。馬鹿は大人しく、黙って、そこで見ていたまえ」
「……っ!」
津河井のあまりに酷い誹りに、周囲の空気がより悪くなるのを感じる。
闇野が何かを言いかけた口をぎゅっと閉ざした。
ここで津河井の機嫌を損ね自分たちの生存の可能性を下げてしまってはどうしようもないからだろう。
文句を言いたいのはやまやまだが……。
津河井を除く全員のやりきれない思いを全身に浴びつつ、時間は過ぎていった。