Ⅱ
先程の部屋に戻ると既に他のグループは戻ってきていた。
俺達に気付いた柊が駆け寄ってくる。
他は何らかの話し合いをしているようだ。
「何か見つけたのかしら?」
才條が尋ねる。柊はこくりと頷き、
「ああ、一枚だけ鍵の掛かってない扉を見つけたんだ。アタシ達がが探索したあの廊下で」
とやや興奮気味に告げた。
「中は探索したの?」
続けて闇野が質問する。一瞬の間を置いて、それに対しては首を横に振り言った。
「……いや、まだだ。どうせなら全員で向かった方が良いんじゃないかと思って」
「ふーん、じゃあ早速行こうぜ。あいつらも話まとまったみてぇだし」
そう言われて目を向ける。
確かに、話し合いを終えているようだった。
「うん、そうだね」
そう言った闇野を先頭にその部屋があるという廊下へ向かう。
俺も向かうか、と歩を進めようとした。すると、
「柊って、胸でけぇよな」
哀田が顎に手を添え言った。
思わぬ言葉に口がぽかんと開く。
「お前もそう思うだろ?」
哀田はニヤニヤとしながら同意を求め、肩に手を乗せてきた。
こんな状況でよくそんなことが考えられるな、と苛立って鳩尾に拳を入れてやる。
これで目も覚めるだろう。
ぐふっと言って倒れる哀田を後にし、闇野達の元へと向かった。
「ここか……」
この廊下は俺達が探索したところとは違い幾つかの扉が見受けられた。
だが柊によるとこの扉以外は開かなかったらしい。
全て見て回ったところ、鍵穴らしきものは何処にもなかった。
入る必要がない、ということなのだろうか。それならそれで良いのだが、少し気になるな。
「あ、ここの扉にもマークがあるね」
闇野が指を指し言った。
指の先を見ると、俺達が見つけた扉と同様に星座の記号が記されていた。
ただ、記号は全く別の物でありローマ数字も書かれていないようだ。
この記号はアルファベットの”v”と”p”のようなものが連なって並んでいる。
「これは山羊座のマークだよ。占星術でのキーワードは”私は利用する”だったな」
稲垣が喜々として答えた。
星座にキーワードなどというものがあったのかと感心すると同時に、占星術に詳しいことに意外性を感じる。
「闇野くん、ここにもってことは君達が探索したところにもあったのかい」
「うん、あったよ。こんな形のやつ」
闇野はそう言って指で空中にあの記号を描いた。
「ああ、それは……」
「どうでもいいことは後にしてくれたまえよ。今はこの部屋の調査が最優先だろう?」
津河井が口を挟む。
「あ、ああ、すまない」
稲垣がしゅんとして申し訳なさそうに言った。
それを尻目に掛け、眼鏡を押し上げる津河井。
闇野が眉間に皺を寄せた。
その様子から津河井に対する嫌悪感がひしひしと伝わってくる。
「と、とにかく、た、たた探索しよう、じじじ時間、なくなる」
悠川が険悪なムードになるのを恐れてか、話を元に戻しノブに手を掛けた。
賢明な判断に胸を撫で下ろした。
ノブが捻られ、扉が開けられる。
徐々に露わになっていく未知の部屋。
一縷の望みを抱きつつ開かれた扉の向こうを覗き込んだ。
「なんだ、ここは……」
俺が目にしたのは四方をコンクリートの壁に囲まれた、刑務所や拘置所に存在する面会室のような部屋だった。
妙に小綺麗で、面会者と囚人の阻みとなるアクリル板の仕切りはまるでそこに存在していないかのように透き通っている。
通常は声を通す為の穴があるものだが、この板にはその代わりに三十センチ四方の穴が開いている。
パイプ椅子が双方に備えられ、それらもまた一度も使われていないという潔白を露わにしていた。
「面会室……?」
氷石がぼそりと呟く。
「早く入れよ。時間ねえんだぞ」
入り口で立ち止まっていた俺達を柊が急かした。
実際に足を踏み入れてみると、小さく見えた部屋は意外にも大きく広かった。
十一人を収容するスペースはありそうだ。もしかしたらそれ以上かもしれない。
「向こうにも扉があるね。こっちからは行けないみたいだけど」
闇野が板の向こう側に目を向けながら言った。
ああ、そうだなと返事をしようとした、その時――
――カチャリ
「な、何ですか……!?」
俺達が入ってきた扉から施錠音が。
突然の事に驚いたようで御月が声を上げる。
最も後方にいた、才條がノブを捻ってみせた。
「……開きませんわ」
「閉じ込め、られたの……?」
「なな、な、な、なんだって!! どどどどうして!!」
閉じ込められてしまった、と分かった事で先程まで静寂に満ちていた部屋が喧騒に満たされる。
”どうする”だの”何が起きるんだ”だのと質問ばかりが投げかけられるも返らない回答。
それが彼らの苛立ちを募らせ、次第に責任の押し付け合いに変化していった。
”外に待機させないから”だの”お前が急かすから”だのと。
……まずいな、パニックになってしまっている。
俺はその喧騒を横目で見ながらそう思った。
稲垣と氷石が何とかその場を収めようとしているが、パニックになっている数人は聞く耳を持たない。
どうにかして落ち着かせられないか、と考えを巡らせようとした時だった。