Desire that doesn't change ~pray for japan~
『ずっと一緒にいよう』
そう約束していたのに。
君がずっと寂しい思いを抱えて、ずっと耐えてきていたことにも気付いてやれなかった。
口下手で、言葉にするのが本当にヘタで…でも君だけは俺の事を分かってくれてるって思い込んでいた。
君には『きちんと言ってくれないと分からない』なんて偉そうに言っていたくせにな。
梨緒の気配が部屋から消えて、彼女の優しい香りも消えつつあるこの部屋。
同じ会社で働いている彼女は、最近では俺とスケジュールをあわせないようにしてるかのようだ。
勤務体制をうまく使って、フレックスタイムを用いている。
社内で時折見かけることはあるが、梨緒の傍にはいつもガードするかのように誰かしらが控えている。
君の傍には既に誰かがいて、君はその人の傍で笑っているのだろうか…。
俺だけがここに立ち止まったままでいるんだろうか。
君への想いが変わらずに俺のすべてとなっていて、一人きりの食事は味気なくて…ただただ仕事に打ち込むしかなかった。
一度だけ俺を心配して、同僚の山口が梨緒に会ってきたと言っていた。
でも彼女は何も答えずに、ただ一瞬だけ切なそうな目で山口を見て黙って俯いてたと言っていた。
もしもう一度、君に会うことが出来るなら…もしもう一度、君の傍にいることを許されるなら…。
俺はここで、君だけを今でも変わらずに想っている…。
梨緒と会わなくなって、俺はアメリカへ移動になった。
任期は2年、ただ黙々と仕事をこなす毎日で、それなりに業績も上げてきたと自負している。
でも仕事が終わると1人で暮らす部屋に戻り、グラスを片手に窓の外をただ見つめることが増えた。
それでもこの2年、1日たりとも忘れたことはなかった。
近々帰国をする予定だが、ほんの少しでもいい…たった一度でもいい、彼女と言葉をかわせたらと思う。
帰国は今月末、最終便での到着予定だ。
空港では、仕事を終えた山口や同僚たちが出迎えてくれた。
日本を離れて2年、前にも増して無口になった俺を見て山口が苦笑いを浮かべる。
同僚たちに囲まれてまっすぐ歩き続けていた時に、ふとの前方が目に入った。
そこには…懐かしい、会いたくて仕方なかった人の姿があった。
「…梨緒…?」
ゆっくりとまっすぐに俺の方に歩いてくる君は、長かった髪をあごの辺りで短く切りそろえている。
「…どうして…?」
『山口君が電話をくれて…。このままで後悔しないかって…』
2年ぶりに聞く君の声…もう一度だけでもと望んだ君の視線の中…。
俺は思わず…腕の中に彼女を抱き寄せた。
「梨緒…今までごめんな…。やっぱりもう遅いのかな…。俺は出来るならもう一度…」
彼女は一瞬と惑うような表情を見せたが、視線をそらすことなく俺を見上げた。
「もう一度、君と歩きたい…」
彼女は俺を見てはいたが、なんと答えていいのか迷っているようだった。
「この2年一度も…君を忘れたことはない。ずっと君だけを想っていた」
『…祐希』
「…返事は…今じゃなくてもいい。でも俺の気持ちだけは伝えておきたかった…。考えておいて欲しいんだ…」
本音は今すぐにでも連れて帰りたいけど、無理にそんなことをすれば君の心はもっと遠くへ離れていくだろう。
断られるより、その方が俺には辛い…。
「今日は来てくれてありがとう…。送っていく…」
山口の車で利緒を自宅まで送り届けると、2年ぶりの自分のマンションに向かった。
帰国して数日…梨緒からの返事はまだない。
そんなに簡単に出せる答えなはずもない…ゆっくり彼女のペースで考えてもらえればいい。
俺の気持ちが、この先変わることはないから…。
『祐希…』
背後から不意に声をかけられ、振り返るとそこには梨緒が立っていた。
「梨緒…」
『あたし…自分から出て行ったのに…。祐希を悲しませるようなことをしたのに…。』
「…」
『それでまた戻ってもうまくやっていけるのかな…そう考えるとどうしていいのか分からなくなるの…』
「…お互いの失敗が分かってるんだから、同じ事を繰り返すことはないと思ってる。だから俺は…もう一度君と歩きたい。」
『…』
「帰ってきてくれないか…梨緒」
『祐希…』
彼女の目に、大粒の涙が浮かんで零れ落ちた。
数週間後、俺のマンションには梨緒の姿があった。
もう一度やり直すことを決めた俺たちは、再び一緒に暮らし始めた。
今度は以前のような過ちは犯さないつもりだ。
梨緒が傍にいてくれること、それだけが俺の幸せの形だから。
もう二度と、離さない…今度こそずっと一緒にいよう…。
~pray for japan~
被災地の皆様の不安や疲労、ご苦労、ご心痛・・・・・折原には思い描くことしか出来ません。
それでも、それらを少しでも癒せることを願って。