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第1章:マルタプラの湿った地での出会い

#純愛小説 #切ない話 #長野県 #インドネシア #泣ける話 #なろう

あの年、マルタプラの空気はいつもより湿り気を帯びていた。夕立のあとの濡れた土の香りは、いつも祖母の抱擁を思い出させる。10歳の時、僕を置いて旅行に出かけた父と母が事故で亡くなってから、僕には祖母しかいなかった。あの日、熱を出して家に残ったことは、僕をこの世に繋ぎ止めた呪いであり、同時に祝福でもあった。


僕は市場で祖母の手伝いをしながら、懸命に働いて育った。そんなある日、国際ボランティアのプログラムで、日本の大学生グループが環境プロジェクトのために南カリマンタンへやってきた。


そこで、僕は彼女に出会った。古びた木造の桟橋の喧騒の中で。


麦わら帽子を被り、照りつける太陽の熱で少し頬を赤らめた少女。けれど、マルタプラ川の広がりを見つめる彼女の瞳は、キラキラと輝いていた。彼女の名前は、あかり。


「すみません……。水上市場へ行く道は、ここで合っていますか?」たどたどしいインドネシア語だったけれど、その声は僕の耳にとても優しく響いた。


僕は釘付けになった。川沿いで育ったただの孤児である僕にとって、彼女の存在は遠い世界から差し込んだ一筋の光のようだった。僕は彼女の荷物を運ぶのを手伝い、クロトック(木造のモーターボート)に乗せて川を案内した。


茶色く濁った水の上、ボルネオの広い空の下で、僕たちはたくさんのことを話した。僕は外の世界を見てみたいという夢を語り、彼女は雪山に囲まれた長野のことを話してくれた。


「エドさん、いつか絶対に雪を見てほしいな。綿あめみたいに真っ白で、綺麗なんだよ」彼女は愛らしく微笑みながらそう言った。


僕は小さく笑った。「ここには雨と暑さしかないからね、あかりさん。雪なんて、僕にはまるでおとぎ話みたいだ」


その夏の間、僕たちは片時も離れなかった。彼女はシナモンの香りとマルタプラのダイヤモンドを愛し、僕は彼女の口からこぼれる言葉のひとつひとつを愛し始めた。彼女は祖母以外で、僕が孤児であることを同情の目で見なかった初めての人だった。彼女にとって、僕はただのエド――ウリンの木のように高い志を持った一人の青年だった。


その日の夕方、マルタプラの太陽が沈み始め、川面にオレンジ色の光が反射していた。僕はあかりを桟橋のそばにある簡素な木造の食堂へ連れて行った。清潔で整った環境に慣れている日本の女の子が、こんな場所での食事を楽しめるだろうか、と僕は少し不安だった。


「エドさん! これは何? すごくいい匂い!」あかりは楽しそうに声を上げた。彼女のENFPらしい性格が溢れ出していた。他の人には当たり前な小さなことの中に、彼女はいつも幸せを見つける。


「これはソト・バンジャールだよ、あかりさん。この土地で一番特別な料理なんだ」僕は静かに答えた。INTPの僕は、話す前にいつも考えすぎてしまうけれど、あかりの前では不思議と言葉がスムーズに出てきた。


彼女が透き通ったスープにリム・クイト(地元のライム)を絞る姿を、僕はじっと見つめていた。彼女はとても真剣な表情で、そして――ズズッ――最初の一口を味わった。


「ええっ! 美味しい(Oishii)!」彼女の目はまん丸になり、椅子から飛び上がらんばかりだった。「スパイスが……口の中でパーティーをしてるみたい! エドさん、もっとたくさん食べなきゃダメだよ。痩せすぎちゃうから!」


彼女は大声で笑った。そのあまりに純粋な笑い声に、食堂の周りにいた人たちまでつられて微笑んだ。僕にとって、あかりは一種の「アノマリー(例外)」だった。計算と過去のトラウマに縛られた僕の人生の中で、彼女は予測不可能な変数――灰色の世界に現れた、鮮やかな色彩の爆発だった。


「どうしていつも笑っているの、あかりさん? ここはこんなに暑いのに」僕は不思議に思って尋ねた。


彼女はスプーンを置き、深い輝きを湛えた瞳で僕を見つめた。「だって、幸せでいないには人生は短すぎるよ、エドさん。それに、私が笑えば、私が見た人たちもきっと幸せな気持ちになれるでしょ? あなたも含めてね」


僕は絶句した。僕の論理は普段ならそういう情緒的な言葉を否定するけれど、その時は、僕の心が同意していた。僕は心の中で誓った。この笑顔を、一生守り続けようと。

「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」

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