第二十四話 怨讐星域
その日の朝、エンジェルステーションの空気が震えた。
「おい、クラーク! 空を見ろ!!」
「まさか! ……待て、これは……グラヴシップだ!」
灰色の雲を突き抜け降下して来た、巨大な船。
全長五十メートルを超える巨大な輸送艇『グラヴシップ』。
重力に逆らう巨大なエンジンを噴射させながら、拠点の目と鼻の先の荒野へ、強引に「着陸」したのだ。
ズズズゥゥゥゥン!!
凄まじい地響きと共に、着陸脚が凍土を粉砕する。
ハッチが開き、中から吐き出されたのは、白銀の装甲に身を包んだ異様な集団だった。
その数、およそ30名。
「……あれは強化スーツ部隊だ! こちらの武器では歯が立たないぞ!」
クラークが叫ぶ。
ナノテク全盛のアヴァロンでは時代遅れの代物だが、この地上においては歩く戦車に等しい。
身長2メートルほどの白銀の部隊、整然と隊列を組み、エンジェルステーションへと進軍を開始する。
『通告する。アヴァロン管理法に基づき、盗難された重要生体パーツ、識別名『天使』の回収を行う』
先頭に立つ隊長のスピーカーから、無機質な声が響いた。
『抵抗する者はテロリストとみなし、即時鎮圧する。……繰り返す、生体部品を引き渡せ』
「生体部品、だと……?」
ギーグスたちのこめかみに青筋が浮かんだ。
昨日生まれた赤ん坊を愛おしそうに見つめていたマリアの顔が脳裏をよぎる。
あの子はパーツじゃない。人間であり、大事な家族だ。
「ふざけるなぁっ! 野郎ども、客人の歓迎をしてやれ!」
ファルケンバーグの号令と共に、ギーグスたちが一斉に攻撃を開始した。
改造クロスボウが唸りを上げ、鋼鉄のボルトが隊長の頭部を狙う。
カァンッ!
だが、ボルトは強化プラスチックのバイザーに弾かれ、無惨に地面へ落ちた。
「なっ……弾かれただと!?」
『脅威レベル、低。鎮圧を開始する』
白銀の巨人たちが加速した。
鈍重な見た目に反し、アクチュエータの補助によってその速度は常人を遥かに凌駕する。
ガガガガッ! バキィッ!
彼らが振るうのは、巨大な『ブリーチアックス(破壊斧)』。
ギーグスたちが築き上げたスクラップの壁やバリケード、いつもなら外敵を寄せ付けない自慢の罠も、紙細工のように切り裂かれ、破壊されていく。
「くそっ、止まれぇ!」
いち早く飛び掛かっていくのは、ライオネル率いるネイバーたち。
しかし、彼らの振るうハンマーやこん棒は、パワードスーツの腕一本で受け止められる。
逆に兵士が振るった『スタンバトン』が、紫色の不吉な電光を放った。
バチチチチッ!
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
高電圧を浴び、ライオネルが白目を剥いて倒れ込む。
ただ淡々と、障害物を排除するようにギーグスたちを無力化していく。
クロスボウも、鈍器も、火炎瓶さえも、彼らの装甲の前には無力だった。
「マンシー! みんなを助けて!」
悲鳴のようなマリアの声に応え、拠点の奥から巨獣が躍り出た。
多脚戦車マンシー。その巨体と大鎌ならば、パワードスーツとも渡り合えるはずだ。
『ヴォォォォン!!』
マンシーの大鎌が兵士の一人を吹き飛ばす。
ギャリギャリ! と凄まじい音をたて、強化スーツが切り裂かれる。
さすがの強化スーツ部隊も、マンシーの登場には面食らったようで、前進を止め距離を取り始める。
さらにもう一人を弾き飛ばすマンシー。
一瞬、ギーグスたちに希望が見えたかに思えた。だが――。
『重機動兵器を確認。対機械戦術へ移行』
隊長が冷徹に指示を下す。
兵士の1人が手りゅう弾を投げた。
カッ!!
閃光と共に、強力なEMP(電磁パルス)が炸裂する。
マンシーの複眼が明滅し、その巨体がガクンと膝をついた。
『ガ、ガガ……』
『拘束しろ』
動きの止まったマンシーに対し、四方から『ワイヤーネット』が射出される。
高張力繊維の網が幾重にも絡みつき、最強の守護神は瞬く間にがんじがらめにされてしまった。
「マンシー!!」
「嘘だろ……あんなにもあっさり制圧されてしまうとは……」
ファルケンバーグが膝をつく。
破壊された外壁。次々とスタンバトンで痙攣し、転がされていく仲間たち。
圧倒的な技術と物量の差。
クラークとアロウェイも、隅で震えることしかできない。
唯一戦いになっているのは、天使形態のマリアだけ。
だがそのマリアの力も以前のような絶対的な効果が出ていない。
グラヴシップから発せられてるジャマーが、マリアのナノマシンの出力を抑えているのだ。
兵士たちが包囲網を縮め、マリアへと歩み寄る。
『対象を発見。確保する』
「やめろ……! あの子に触るな……!」
アレンが這いつくばりながらバールを伸ばすが、兵士の一蹴りで弾き飛ばされる。
万事休す。
誰もが絶望し、マリアが連れ去られる光景を想像した、その時だった。
ワアアアアアアアアアアアア!
壊れた外壁の外側から、大気を震わせる雄たけびが響いてきた。
それは数百の暴徒の咆哮。
「あぁん? なんだあの白い案山子どもは」
「何でもいい! とにかく壊せ! 奪え!」
「どでかい船だ! 乗り込め! 壊せ! 燃やせ!」
粗悪な薬で正気を失った暴力集団『ウルトラヴァイオレンス』が突っ込んできた。
――
最悪のタイミングで現れた最凶の援軍(?)が、白銀の装甲兵へと突っ込んだ。
興奮した暴徒たちは、倒れて動けなくなったものに目もくれず、目立つものに突進していく。
白銀の装甲兵は、自身に向かってくる暴徒など歯牙にもかけなかったが、グラヴシップに向かって行く複数の人型重機を無視することは出来なかった。
『クソッ蛮族どもめ! A班は天使の回収! B班、C班は防衛に戻れ!』
この時、司令官はミスを犯した。実戦が無い以上は仕方の無い事だったかもしれない。
マンシーは一時的にEMPよるダウン状態となり、動けなかっただけで、ワイヤーネットなど何の意味もなしていなかったのだ。
再起動を果たしたマンシーが暴れだす。次はEMP手りゅう弾なぞ喰らうつもりはない。
戦場は混沌の様相を呈した。
ギーグス、ネイバー、強化スーツ部隊、ウルトラヴァイオレンス、人型重機、マンシーが暴れている。
すでに統率も何もそこには無かった。
だが、じわりじわりと、侵攻は進み、ついにマリアと強化スーツ部隊の指揮官が対面した。
マリアの背後には、赤ちゃんとその母親たちが避難しているシェルタールーム。
周りに、いつもいてくれたパパたちの姿はない、自分が何とかするしか無い。
『天使、言葉が通じるなら投降せよ。そうすれば我々は引き返す』
「……私がついていけば、皆には手を出さない?」
『そうだ、賢い選択をせよ。これ以上、住民を傷つけたくないだろう?』
俯く、マリアに「さあ」と指揮官の手が伸ばされたとき、場に似つかわしくない冷ややかな声が響いた。
「相変わらず、裏口は不用心だね」




