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第1部 第4章 謁見

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 エルキア公国大公殿下の妹であるアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァは、大日本帝国首都東京府東京市にある、エルキア公国大使館に身を寄せていた。


「殿下。天皇陛下が、殿下の謁見の申し入れに対して、喜んでお受けするとの事です」


 エルキア大使館の長である伯爵の言葉に、アナスタシアは頷いた。


「急な申し入れにもかかわらず、謁見のご許可をいただき感謝します。と、伝えて下さい」


 アナスタシアは、立ち上がった。


「日本共和区への入国許可は・・・?」


「はい、そちらも日本共和区にお住まいの親王殿下が、謁見の申し入れを快諾してくださいました」


「ソ連との交渉は、上手くいっていません・・・戦争になれば、我が国は間違いなく、滅びます。大日本帝国と日本共和区との軍事同盟はもちろんの事、彼らに手を貸している勢力の力も必要です」


「ですが・・・」


 伯爵は、心配事を口にした。


「現在は、我が国は、原油資源等の地下資源を大日本帝国、日本共和区に輸出していますが、それ以上の見返りを求められたら、どうしましょう・・・?」


「我が国が提供出来るのは、国土にある豊富な地下資源だけです・・・それを狙ってソ連やアメリカは、我が国への侵略を考えています・・・先日、アメリカにある、我が国の大使館から連絡がありました。大日本帝国への石油の輸出を続けるのであれば、国交を断絶し、ソ連と共にアメリカ合衆国陸海軍及び海兵隊が、エルキア公国の国土に踏み込む事もあり得ると・・・」


「ソ連だけでは無く、アメリカとの戦争ですか・・・!?そのような事態になれば、とても我が国は戦えません!」


「恐らくアメリカが攻撃を仕掛けるのは、最近、原油資源が見つかった。ロヴァラフ島でしょう・・・アメリカとの国交が断絶した段階で私は、ロヴァラフ島総督府に連絡し、傘下の陸海軍及び増援に派遣される親衛隊に厳戒態勢を指示するよう大公殿下に進言しました」


「ですが、正規軍及び義勇軍、親衛隊を合わせても兵力は5万程度です・・・アメリカ陸軍及び海兵隊だったら、15万程度の兵力を投入するでしょう・・・とても敵いません・・・」


「郷土防衛隊を合わせれば10万規模にはなります。簡単に島が陥落するとは思いません・・・アメリカ陸軍及び海兵隊は、大日本帝国に占領されたハワイ諸島の奪還に、神経を集中しています。それだけでは無く、インド洋及び南太平洋と北太平洋の防衛・警備態勢を強化しています。ロヴァラフ島に投入できる兵力は限られています。それに、彼らは私たちの国を侮っています」


「ロシア帝国時代・・・大日本帝国陸海軍に敗北した帝政ロシア軍が主力であるため、アメリカ軍の足元にも及ばない・・・ですか」


「そうです・・・正直に言えば、ロシア軍は大日本帝国陸海軍には負けていません」


「ですが、旅順艦隊及びバルチック艦隊が大日本帝国海軍聯合艦隊に敗北しています・・・それに陸軍のクロパトキン将軍が率いた満州軍も、大日本帝国陸軍満州軍に敗北していますが・・・」


「あくまでも戦術的に・・・です。正確に言えば局地的な戦いでは帝政ロシア軍は、大日本帝国陸海軍に敗北していますが、戦略的には敗北していません。帝政ロシアが手を引いたのは、国内で革命運動が激化し、対外戦争どころでは無かったからです。大日本帝国陸海軍は戦争1年目で、戦える余力を失っていました。革命運動が激化せず、あのまま戦争を続けていたら、負けていたのは大日本帝国の方です」


「・・・・・・」



 大使館の前では、大使館が用意した外交官車両が停車していた。


「アナスタシア殿下。宮城(皇居)までの行き帰り、私たちが警護します」


 日本共和区統合省保安局警察総監部菊水総隊陽炎団警備部警護課警護第3係に所属する警護警察官と、大日本帝国公安省特別高等警察局東京局警備部警護課国賓警護係の警護特別高等警察官吏たちが、挙手の敬礼をした。


 アナスタシアが女性であるため、陽炎団警備部警護課警護第3係の警護警察官は、半数以上が女性である。


 特に彼女の身辺に配置されている4人は、女性の警護警察官である。


 声をかけたのは、陽炎団警備部警護課警護第3係から出動した班・班長である警部補である女性警護警察官である。


「女性の警護責任者というのは珍しいので、どうか私の車に乗ってくださいますか・・・?」


 通常、警護警察官は、国賓が搭乗する外交官車両には搭乗しない。


 主に、国賓が搭乗する外交官車両の前後の警護車に搭乗し、警護する。


「わかりました。失礼します」


 女性警護警察官の警部補は、一礼した。


 アナスタシアは、外交官車両の後部座席に乗り込む。


 女性警護警察官である警部補も、続く。


 アナスタシアは、日本共和区統合省厚生労働局管轄で販売されている煙草の箱を、取り出した。


 物珍しさから、つい購入した物だ。


 彼女が持っている煙草は、日本共和区に国籍を持つ日本人で、特に女性に人気な煙草である。


 煙草に含まれる有害物質を出来る限り低くし、煙草の臭みが発生せず、甘い香りが出るように作られた煙草である。


「1本、いかが?」


「ありがとうございます、私は煙草を吸いませんので、申し訳ありませんが遠慮させていただきます」


「そう・・・日本共和区の日本人は、煙草を吸う人が本当に少ないのですね」


「煙草を吸う日本人は、成人年齢全体の3割程ですが、その中で、煙草を吸う女性は、成人年齢に達した女性の1割弱程度です」


「それなのに・・・煙草はとても美味しい・・・おかしな話ですね」


 アナスタシアは、煙草を咥えて、火をつける。


「エルキア公国では、男女を問わず国民の半数以上が煙草を吸っています。仕事の疲れ、家事の疲れ、子育ての疲れ等、女性たちは、一時の楽しみの為に煙草を楽しみます」


「ですが・・・その煙草の箱にも書かれていますように、煙草は健康を害し、肺癌や肺疾患の病の発生率を高めます」


「日本共和区に籍を置く日本人の外交官とも話しましたが、それに関しては医学的根拠が無いと言っていましたが・・・」


「は?」


「日本共和区統合省厚生労働局傘下の医師会での研究論文では、日本人の煙草を吸っている人は少なくなったが、肺疾患及び肺癌の患者は増加していると・・・」


「確かに、そのような事を言っている医療関係者も存在しますが、煙草が身体に害を与えるのは紛れも無い事実です。特に子供や老人には危険であり、将来的に肺疾患又は肺癌の危険性を高めます」


「私たちの国では、妊娠中の女性も煙草を吸いますし、その配偶者や親族も煙草を吸います。ですが、子供に悪影響を与えるという話は聞いた事がありません」


「それは、まだ専門的に研究する人がいないからです。エルキア公国でも子供の死亡率は低くありません。煙草が原因である可能性も高いです・・・もちろん、飢餓やそれ以外の可能性もありますが・・・」


 煙草に関しての談義は、残念ながら平行線のようだ。





「少し前まで、反体制派の人々が暴れまわっていたのに、首都圏の治安は、悪くありません・・・私たちの国では、共産主義者たちが治安の悪化に一役買っていますのに・・・」


 アナスタシアは、東京市内の様子を眺めながら、つぶやく。


「貴女は警護官ですが・・・警察官でもあります。警察の目から見て、我が国と、この国のどこに違いがあるのでしょうか・・・?」


「違いは、あまり無いと思います・・・我が国でも共産主義者や社会主義者等の反体制派が存在しています。彼らは、地下に潜り、しかるべき日に備えて準備しているのでしょう」


「随分と慎重な物言いですね・・・」


「私は警護課ですが、その上位機関は警備部です。国内の事情に関しては、ある程度には把握しています」


「嵐の前の静けさ・・・という事でしょうか・・・?」


「恐らくそうだと思います・・・ソ連による大日本帝国本土侵攻の可能性も高まっています。ソ連の工作員が、潜水艦や偽装船等で、不法に上陸したり、不法入国を行っています。彼らが国内で、大規模な暴動若しくは、テロを実行する可能性もあります」


「私たちの国でも警察、国家憲兵隊、自警団が反体制派の取り締まりを行っています。その件に関しては外国の警察の目から見たら、どうでしょう・・・?」


「エルキア公国については、警察総監部警備本部から提出された情報程度の把握ですが、警察、国家憲兵が反体制派の監視を行っているのは理解出来ますが、自警団にまでにも、その任務を与えているのは、危険かと思います」


「それは、どうして・・・?」


「自警団と言うのは、言わばボランティア団体です。アメリカの保安官制度ならいいですが、自警団は異なります。あくまでも自警団は、ボランティア団体の警察組織として使うべきです。大日本帝国でも自治体警察と国家地方警察に分けていますが、どちらも警察官吏です」


「そうですか・・・」


「話は戻しますが、我が国で治安がいいのは、デモ活動の規制を行っていない事です。もちろん、デモ活動には届け出が必要ですが、厳しい規制を行っていません。それに、小規模又は大規模暴動に発展しにくいデモ活動に関しては、陽炎団警備部第10機動隊が担当します」


 陽炎団警備部警備第1課が管理している10個機動隊の中にある第10機動隊は、婦人警察官で編成された常設の婦人機動隊である。


 6個中隊で編成され、通常の機動隊任務を行う部隊だけでは無く、銃器対策部隊、爆発物処理部隊、水難救助部隊、山岳救助部隊等の専門部隊も設置されている。


 これは男性禁制の場所でのテロ活動又は救助活動を行うために設置されたものである。


 因みに陽炎団警備部災害対策課傘下に婦人警察官のみで構成された婦人特殊救助隊が設置されている。


「親衛隊には、女性親衛隊員もいますが、日本共和区の警察機関のように第1線部隊に女性隊員を配置している例はありません。女性でも男性に匹敵する任務を遂行出来るのですか・・・?」


「女性には男性並みの力はありませんが、男性では気付く事が出来ない事案に対応したり、男性では出来ない事も数多くあります。女性のみにしか出来ない事案も数多くあり、その点では男性に匹敵する力も持っています」





 宮城に到着すると、陽炎団警備部警護課警護第3係に所属する警護警察官と大日本帝国公安省特別高等警察局東京局警備部警護課国賓警護係の警護特別高等警察官吏たちは、宮城内にある控室に移動した。


 ここから先は統合省保安局警察総監部付属皇宮警察部に所属する皇宮護衛官が、アナスタシアの警護を行う。


 こちらの皇宮護衛官も女性である。


 アナスタシアを出迎えたのは、大日本帝国の元首である天皇陛下であった。


「寒い中、ご苦労様です」


 陛下は、一礼する。


「お気遣い感謝します。陛下」


 アナスタシアが、一礼する。


「しかし、意外でした。陛下自らによるお出迎えを受けるとは・・・」


「いえ、殿下とは個別に話したいと思っておりまして・・・謁見の間では、腹を割って話せません」


「そうですか・・・私のような立場の者に対して、そのような特別な対応をなさっていただくとは、恐縮です」


「では、こちらへ」


 陛下は、宮城内にある応接室に、案内した。


 案内された応接室は、中庭を眺める事が出来る、落ち着いた室内である。


 茶菓子として、カステラと緑茶が用意された。


「私は、ロシア帝国はもちろんの事、ソビエト連邦に対してもいい印象がありません。私が産まれた時、我が国は、ロシア帝国に対して戦争の準備をしていました。私の祖父は、ロシア帝国との戦争回避のために、さまざまな政策を行っていました」


「存じております。私の父は、国政についても外交についても、家族には何も語ってくれませんでした。私の知っている父は、ただ家族思いの父であり夫だったと思います」


「私も、スヴァボーダ連合委員会に加盟するロシア連邦と、日本共和区中央図書館に保管されているロシア帝国の資料を拝見して、ロシア帝国の事を理解しました。宮内省及び皇室の歴史に記載されているロシア帝国とは、少し違うものでした」


「日本共和区の中央図書館の資料は問題ありませんが、スヴァボーダ連合委員会に加盟するロシア連邦の資料には疑いがあります。彼らは私の父や家族、従属たちを処刑した人々の子孫ですから・・・」


「確かに、殿下にとっては、そう簡単に信用は出来ないでしょう・・・ですが、他国人の私から見れば、スヴァボーダ連合委員会に加盟するロシア連邦は、正しい事は正しい、間違っている事は間違っていると、正しく判断出来るロシア人です。殿下がたは、スヴァボーダ連合委員会に加盟するロシア連邦では無く、その傘下である朝鮮民主主義人民共和国と対話し、軍を派遣してもらっているようですが・・・?」


「陛下にとっては、同じロシア人と思うかもしれませんが・・・私たちにとっては同じでは無いのです。ロシア連邦のロシア人も、ソビエト連邦のロシア人もまったく異なるロシア人なのです。陛下は、日本共和区の日本人たちを同じ人種と考えているようですが、私から見れば、どちらの日本人も同じには見えません」


「彼らは未来から来た日本人とはいえ、同じ日本人です。確かに大日本帝国人ではありませんが、それは思想の違いというだけです」


「そこなのです」


「そことは・・・?」


「思想の違い、言論の違い、信教の違いだけでも同じ人種では無いのです。確かに、革命を経験していない人々から見れば理解出来ないかもしれませんが・・・同じ人種では無いのです」


「革命と言いますが、私たちも幕末を経験しています」


「そうでしたね・・・」


 それまで国家を支配していた政権が変わるというのは、その前後で、どんな形であれ混乱を生む。


 それは、どんな王朝、どんな主義であれ避けては通れない。

 第1部 第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月8日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
アナスタシアからすれば、ロマノフ家の一族を殺し尽くした、憎きソビエト連邦の末裔たるスヴァボーダ連合は、同じロシア人として見ないのは、納得ですね。 彼女の絶対零度の氷晶の心を溶かせるかね、スヴァボーダ…
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