第1部 第1章 仲間
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
ステファ町に置かれている郷土防衛隊屯所では、ソフィアは、自分が所属する班に、挨拶に回っていた。
「アウロウです。よろしくお願いします」
「よろしくアウロウ。僕はキリル・ベーチンだ。君が所属する班の班長を務めているよ」
ベーチンが、立ち上がった。
「他の仲間を、紹介するよ」
ベーチンが、物資の検品を行っている自分よりも1つか2つ程年下の女性を、指差した。
「彼女は、副班長のアーシャ・ポロ―シン」
「ん?どうしたの?キリル?」
「今日から配属された新人に、仲間を紹介しているんだ」
「アウロウです。よろしくお願いします」
「アーシャ・ポロ―シンよ。屯所近くのサンドイッチ屋で働いているの。私の作ったサンドイッチを置いているから、好きな時に食べてね」
「あの!2つ3つくらい食べてもいいですか!?」
「え?ええ。いっぱい作ってあるから・・・それぐらいなら、いいよ」
「やったー!」
「あはははは・・・」
ベーチンが、苦笑する。
「次は、君の観測手を務める。フィリップ・アヴェリン」
「やあ、君が噂の狙撃手か?」
「はい!どのような噂かは知りませんが、私が狙撃手です」
「後のメンバーは仕事をしているから、追々紹介するとして、君の腕を見たい」
ベーチンが告げる。
「新人の狙撃手の腕が、どのくらいのものか。それを知っとく必要があるな」
アヴェリンが、立ち上がる。
「じゃあ、武器庫に案内する」
アヴェリンが、武器庫にソフィアを伴って行く。
「君の狙撃銃は・・・」
アヴェリンが、木箱からライフルを取り出す。
「ソ連製のコピー品であるモシン・ナガンM1891/30だ。狙撃銃仕様だから狙撃には問題無い」
ソフィアは、M1891/30を受け取ると素早く確認する。
「これ、かなりの間、保管されていたようですね・・・」
「ああ、ここは国境の町だから、武器に関しては充実しているんだ。君が持っている狙撃銃は、他の狙撃手が選ばなかった・・・アメリカ製や大日本帝国製等が入っているから、他の奴らは、そっちを選んだんだ」
ソフィアは、ボルトを引いた。
そのまま彼女は、引き金を引く。
カチッという音が響く。
「拳銃も余りものだが、こいつだ」
アヴェリンが、リボルバーを渡した。
「M1917ですか・・・」
「おっ!詳しいね・・・拳銃に関してもドイツ製、アメリカ製、大日本帝国製等が、いれ混じっているが、使えなくは無い」
「貴方の小銃は・・・?」
「俺は、こいつだ」
アヴェリンが、イタリア製の小銃であるM1891を見せた。
郷土防衛隊だけでは無く正規軍及び義勇軍では、戦車等の車輛及び航空機や兵士の個人携行火器である小銃や拳銃の種類はバラバラであり、ステファ町に配備されている正規軍の戦車中隊は、アメリカ製のM2で、偵察・斥候にはCⅤ33である。
さらにステファ町の郷土防衛隊に配備されている戦車として、大日本帝国製の八九式中戦車が2輌ある。
他にもソ連製の軽戦車や、ドイツ製の中戦車も存在する。
特に小銃は酷い有様であり、さまざまな国の小銃をコピーし、実戦部隊に配備している。
主にアメリカ製、大日本帝国製、ドイツ製、イタリア製、ソ連製等がある。
中にはロシア帝国時代に父祖が鹵獲した小銃を、実戦に使っている兵士もいる。
ソフィアの同僚の中にも、日露戦争時代に祖父が大日本帝国兵から鹵獲した村田小銃や三十年式手動装填式小銃を使っている者もいる。
屯所に隣接する広場の一角に、射撃場が置かれていた。
「おいおい、一般人が銃を持っているぜ」
ソフィアたちが射撃場に姿に現すと、小馬鹿にした声が響いた。
「雛鳥たちは、お家にお帰り」
「狙撃銃なんて・・・一般人の嬢ちゃんが持つには、荷が重すぎるぜ」
「皆、隠れろ。弾が何処に飛ぶか、わからないぞ!」
「「「はっはっはっ!!」」」
町に駐屯する正規軍の兵士たちが、ゲラゲラと笑いながら郷土防衛隊に所属する彼女たちを小馬鹿にした。
「あいつらの事は気にするな。いつもの事だから・・・」
アヴェリンが、耳打ちするように囁く。
「気にしていません」
ソフィアも、小さな声で答える。
「弾の費用も馬鹿にならないから、試し撃ちは3発までだ。本番撃ちも5発だけだ」
「わかりました」
ソフィアは、早速匍匐姿勢をとる。
「おいおい、嬢ちゃんが、一丁前に伏せ撃ちの姿勢をとっているぜ」
「あんなの、ガキでも出来る」
ソフィアは、正規兵の言葉に耳を傾けず、M1891/30を構える。
彼女は、ボルトを引き、弾を薬室内に装填する。
スコープを覗き、十字線を的の中心に合わせる。
息を吸い・・・止める。
彼女は、引き金を引く。
銃口が火を噴き、弾丸が発射される。
発射された弾丸が、的の中心に命中する。
「マジか・・・」
アヴェリンが、驚く。
「試し撃ちで・・・それも1発目で、的の中心に当てた・・・」
「へ~・・・嬢ちゃんにしては、腕はいいな・・・」
「偶然だよ。偶然。あんなの12歳のガキでも、よくあることだ」
「間違いない」
「「「はっはっはっ!!」」」
正規兵たちの、馬鹿にした笑い声が響く。
それを無視してソフィアは、ボルトを引き、空薬莢を排出する。
そのまま1発目と同じく姿勢を正して、息を吸い、止める。
十字線が的の中心に停止すると、引き金を引く。
銃口が火を噴き、弾丸が発射される。
発射された弾丸は、再び的の中心に命中する。
「まぐれでは無いな・・・」
アヴェリンが、つぶやく。
「お前、何者だ?本当に正規兵の採用試験に落ちたのか?」
「私は頭が足りなかっただけ・・・銃の腕は、正規兵の標準レベルを上回る程って、言われました」
「間違いないな。次で最後にしよう」
「まだ、試し撃ちですが・・・?」
「お前には必要ない。試し撃ちで・・・それも2発で的の中心に命中させているからな。本撃ちの必要はない」
「わかりました」
ソフィアは、3発目も発射する。
3発目も、的の中心に命中させた。
「やはり、お前はすごいや!郷土防衛力が比較的に向上する」
「どうも」
ソフィアはボルトを引き、空薬莢を排出する。
M1891/30を素早く点検し、立ち上がった。
「何だ、何だ。もう終わりか?」
「やはり凡人は、凡人だな」
「あの程度、俺にも出来る」
「「「はっはっはっ!!」」」
「そうか、それならお前たちの腕を見せてくれ」
突如、女性の声が響いた。
「げっ!?」
「小隊長!?」
「俺たちは・・・別に・・・」
将校の勤務服を着た女性が、仁王立ちしていた。
「あの娘の腕は本物だ。お前たちも正規兵なら、彼女以上の射撃レベルがなければならん!なのに、何だ!今、お前たちがしている事は?」
「はっ!射撃訓練の合間の小休止です」
「そ、そうです!」
「俺たちは、別にサボっていた訳では・・・」
兵士たちが、狼狽える。
「そうか、そうか・・・では、その小休止は何時間だ?」
「そ、それは・・・」
「今からやります!」
「やります!」
「ならば!さっさとやれ!」
「「「はっ!」」」
兵士たちは、姿勢を正した。
女性将校に叱責されて、兵士たちはVz24を持って、駆け出した。
「まったく!馬鹿者どもめ・・・他者を馬鹿にする前に、自分の腕を磨け」
女性将校が、愚痴る。
「・・・・・・」
ソフィアは、横目でM1891/30を点検する。
女性将校が、ゆっくりとソフィアの側に近付いて来た。
「すまない」
女性将校が、ソフィアに謝罪した。
「え?」
彼女は、驚いた。
「あいつ等も、配給される食糧が少ないのと、日々の退屈さにイライラしているんだ。だから、貴女の腕を馬鹿にした」
「いえいえ、気にしていませんから・・・」
ソフィアは、手を振る。
「部下たちには、きつく言っておく。今後は貴女の腕を馬鹿にはさせない」
「いえいえ、この町を守ってくれている・・・それだけでも、ありがたい事ですから、正規兵たちの言葉等気にしませんから・・・」
「国民を守るのが、軍人として当然の勤めだ。最近の正規軍に所属する兵卒たちは、それを理解していない。それを指導する下士官も、その行為を黙認する始末だ・・・将校として、誠に申し訳ない」
「少尉様もご多忙なのに、このような事案に対処していただいて、ありがとうございます」
ソフィアが、礼を言った。
「ナディアだ。ナディア・ウリツキー」
「ナディア・・・私の妹と同じ名前・・・」
「君の妹と同じ名前か・・・?そうか、それは奇遇だな。これも、神のお導きかな」
「そうかもしれません」
「少し銃を、見せてくれないか?」
「あっ、はい、どうぞ」
ソフィアは、M1891/30をウリツキーに渡した。
「ソ連製のコピー品か・・・なかなか、精度が高いな・・・職人による製造だな・・・なるほど」
ウリツキーは、ソフィアにM1891/30を返した。
「その銃は、工場等の流れ作業で製造された銃では無い。職人によって製造された物だ。この町には職人がいるのか?」
「ええ。いますよ。うちの郷土防衛隊に、モシン・ナガンを納品する銃の職人がいるため、うちでは、それを配備しています」
アヴェリンが、答える。
「なるほど・・・その銃は工場等の流れ作業で製造された銃では無いため、癖が強い。それを見ただけで、銃の癖を見抜き、的の中心部に命中させるのは・・・君の腕は名人級を上回る。何故、正規兵にならなかった?郷土防衛隊よりも給与はいいはず・・・だが?」
ウリツキーが、首を傾げる。
「本当は、正規兵になりたかったのですが・・・頭が足りなかったのです。私、下級学校卒ですが、町の中級学校の入学試験にも落ちたのです・・・」
「そうか・・・私でよければ推薦状を書いてやるが・・・正規軍将校からの推薦状があれば、正規兵への入隊試験は免除される。郷土防衛隊であれば、戦時下になった場合、義勇軍に徴兵されるが、君には正規兵の道がある。どうだろうか・・・?」
「そうして下さるのでしたら、ありがたいのですが・・・正規兵になったら、家にもなかなか帰れないし、家族にも心配をかけます。私の家は裕福ではありませんが、それなりに蓄えがあります。生活には困っていないですので、せっかくのお誘いですが、正規兵になるつもりはありません」
「そうか・・・残念だ。だが、気が変わる事もある。私の小隊は、しばらく、ここに駐屯するから、正規兵に志願する事を決めたら、私に声をかけてくれ」
「わかりました」
「そうだ。君と、もう少し話をしたい。どこかで食事は、どうだろうか?」
「将校様の奢りでしたら!是非、行きたいです!」
「そ、そうか・・・将校は高給だから、遠慮せず食べてくれ」
ウリツキーが、ややドン引く。
町にある飲食店に、ソフィアとウリツキーが来店した。
「いらっしゃいませ!」
店で勤務する10代後半の少女が、元気よく挨拶した。
「あっ!ナディアさん。また来て下さったのですね!ありがとうございます」
「ああ、うちの部下たちや、他の正規兵たちが迷惑をかけていないか?」
「大丈夫です。最初はどうなる事か思っていたのですが・・・?ナディアさんのおかげで、正規軍の方たちは規律を第一に考えて、行動してくれています」
10代の娘が、ソフィアに顔を向ける。
「お連れの方は・・・ソフィア!?訓練から帰って来たのね!?」
「久しぶり、ダリア」
ダリアはソフィアの幼馴染であり、子供の頃は一緒に遊んだ仲だ。
「ほぅ~君たちは知り合いか・・・そうだろうな。この町の郷土防衛隊だから・・・」
ウリツキーが、つぶやく。
ソフィアが、店内を見回す。
正規兵の兵士たちが、昼間なのにウォッカを飲んでいる。
「・・・まったく」
ウリツキーが、呆れる。
「ソ連軍が侵攻して来るかも知れないというのに・・・こんな時間に、アルコールを飲むとは・・・」
「それもそうですが・・・ソ連軍の侵攻なんて、本当にあるのでしょうか・・・?」
ダリアが聞く。
「ある!ソ連軍は必ず侵攻して来る」
ウリツキーが、断言する。
「おや、将校様~?将校様も、こちらで飲んで行きましょうよ~ソ連軍の侵攻なんて、ありもしないですぜぇ~」
「「「ガハハハ!」」」
酒に酔っている図体のデカい正規兵が叫ぶと、取り巻きたちは大笑いする。
「私はいい。今は勤務中だ」
「律儀な人だ~」
「そうですぜぇ~将校様。休める時に休んでおかないと、もしも死んだ時は、後悔しますぜぇ~」
「「「そうだ~そうだ~」」」
図体のデカい正規兵の言葉に、取り巻きたちが賛同する。
「お前たちだけで楽しむといい。私は奥にいる」
「では、こちらにどうぞ」
ダリアが、席に案内する。
「では、注文を伺います」
彼女が、ペンとメモ用紙を出す。
「では、ビーフストロガノフとシチー、ヴィネグレットを頼む。それと黒パン」
「私は!ビーフストロガノフで、ライス添えとシャシリク、フォルシュマーク、シチー、ヴィネグレット、レピョーシカを、お願いします!」
「ソフィア・・・相変わらず、よく食べるわね」
「そ、そんなに、食べるのか?」
「はい」
相変わらずな顔をするダリアと、引き気味なウリツキーであった。
しばらくすると、給仕の娘たちが料理を運んで来た。
「日々の食事に感謝」
「平穏な日常が続きますように」
ソフィアとウリツキーが、用意された食事の前で、感謝の言葉と願いを告げた。
ソフィアは、ナイフとフォークを持つと、料理を口に運んだ。
そんな光景を見ながら、ウリツキーが引く。
それもそのはず、大量にあった料理が、あっという間に無くなった。
「少尉様。おかわりいいですか?」
「あ、ああ・・・」
綺麗になった皿を見ながら、口に出来たのはそれだけだった。
(よ、よく食うな・・・)
ウリツキーの感想は、それだった。
ソフィアは、再び同じメニューを注文して、再びあっという間に完食するのであった。
2人だけで食事しに来たのに、ウリツキーに請求された額は、5人前に相当した。
第1部 第1章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は10月18日を予定しています。




