第1部 終章 3 北の狸と東の狸 後編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
男は、簡潔に現在の北アフリカ・ヨーロッパの情勢に付いて説明をする。
ドイツ第3帝国・イタリア王国の大攻勢により地中海の制海権を含む北アフリカ・ヨーロッパ、特に東ヨーロッパ方面は、枢軸国が優勢となりつつある。
ソビエト連邦軍もその勢いを抑えようと、防衛戦を展開するものの、最早モスクワ陥落は、時間の問題という状態であった。
そんな状況の中、ソビエト連邦の最高指導者であるヨシフ・ヴィッサリオノヴィッチ・スターリンは、モスクワから忽然と姿を消した。
スターリンの行方に付いては、モスクワに潜入させたスヴァボーダ連合の諜報員ですら、掴めていない。
「・・・それにしても・・・ロシアご自慢の諜報機関ですら所在を掴めないとはね・・・まるで、こちらの行動を読まれているような・・・」
女史と呼称された人物は、「ふぅむ」と、考え込むような素振りを見せた。
「でも・・・情報によれば、連合国アメリカ合衆国とは、密に連絡が取れているような・・・大日本帝国本土に対する連合国との同時侵攻作戦には、ヨッシーが一枚嚙んでいるよね。でなきゃ、東ヨーロッパ戦線で手一杯のソ連が、極東にまで軍を動員出来ない」
「そこなのです。スターリンは、モスクワに潜伏している。これは確実でしょう。ですが、我々の情報網をもってしても、スターリンの尻尾すら掴めていない」
男は、困り果てたという表情を浮かべている。
「う~ん・・・ところで、肝心のスヴァボーダ連合軍は、どう考えているのです?」
「どう・・・とは?」
「ヨッシーの暗殺ですよ。そんな回りくどいやり口は、彼らは好まないと思いますが・・・」
「軍事作戦によって、正面からソ連軍を粉砕する気満々ですね」
「やっぱり、脳筋・・・ロシア人らしいというか、何というか・・・」
大きく「ハァ~・・・」とため息を付いて、女史は両手を広げる。
「お言葉ですが、女史。思慮深いロシア人も、大勢いますよ」
「知っているよ。でも、今回に限ればスヴァボーダ連合軍の上層部の脳筋さんたちを支持するかな。貴方がたとしては、自分たちの祖父や父親と争う事は極力避けたいというのが本音でしょう?確かに、ヨッシーを暗殺すれば、こちらの人的被害も、あちらの人的被害も最低限に出来るし、何よりお手軽だしね。でも、求心力のある存在がいなくなれば、ソ連軍の軍組織そのものがバラバラになって、無秩序な反抗作戦を誘発する事になるでしょう。その結果、割を喰うのは民衆ですよ。そして、民衆は卑怯な暗殺という手段で国を乗っ取った存在を決して認めない。民衆の憎悪ほど恐ろしいものはない。結果、テロやら暴動やらで、その鎮圧の過程で民衆に被害が出る。そして、その憎悪の炎にさらに油が注がれる・・・その無限ループに陥る事になりますね」
「我々も、その可能性に付いては重々承知しています。我々としては、暗殺はあくまでも最終手段で、スターリンを保護という形で拘束したいのです。貴女がたが、マッカーサーやハート、ケソン大統領を拘束したように・・・」
「でも、あれは1つの手段としては、アリだけど・・・あまり、おススメは出来ないかな。自衛隊も新世界連合軍も、その後は、けっこう苦労しているからね。まあ、軍部と話し合って折り合いをつけるにしても・・・最優先としては、ヨッシーの居所だよね~・・・う~ん・・・」
女史は、珍しく真面に考え込んでいたが・・・急に、ハタと手を打った。
「そうだ。不法侵入の件を不問にしてくれる代わりと言っちゃなんだけど、ウチから凄腕を派遣しましょうか?こちらとしても、ヨッシーの居所を探るついでに、モスクワの現況も確認したいし・・・どうかな?」
「凄腕とは?」
「東鬼イトさん!彼女、モスクワに行ってみたいって言っていたし・・・でも、何でか入国ビザを、何回申請しても許可が出ないって、昔ボヤいていたんだよね~」
「・・・・・・」
男は、息を呑んだ。
「あれ?何か問題?」
「・・・彼女に入国ビザが下りないのは、昔、ソ連がアフガニスタンに侵攻した折に、アフガンゲリラと一緒に、ソ連軍を撃退したからです」
「あ~・・・何か察し・・・そうなんだ。そういえば、昔、ご主人と夫婦水入らずで、シルクロードを旅行していた時に、偶然、ソ連のアフガン侵攻に巻き込まれて、10年くらい帰国出来なかったって、言っていたな~・・・」
「・・・ソ連側の非公式の報告では、その夫婦に率いられたアフガンゲリラによって、ソ連軍の重要拠点の補給物資集積所が次々と襲われ、膨大な量の糧食が奪われた・・・と。それが、意味する事は説明しなくても、貴女にはお判りでしょう?そんな危険人物を入国させる訳にはいきませんから・・・」
「イトさんと、泰三さんらしいなぁ・・・でも、いいの?その2人・・・というより、2人の先祖に、それを教えたのは私だよ。もっと、正確に言えば、私のご先祖様が、それをよく使っていたけどね・・・」
ケラケラと笑いながら、女史はそう告げた。
「まぁ、それはそれとして・・・ソ連のエルキア公国侵攻作戦の防衛戦に、イトさんを派遣するというのはどうでしょうか?おそらく、正規軍だけでは対応は不可能でしょうから、当然、義勇軍を編成するでしょう。その義勇軍の教育係として、彼女は適任だと思います」
「なる程・・・1人の人物に、ソ連軍は2度にわたって地獄を見せられると・・・」
「そうそう。言って聞かせてもわからない、お馬鹿さんたちには、身を持って教育する事も大事だよぉ~」
ケッケッケッ・・・という、少々下品な笑い声を上げる女史に、男は頷いた。
「そうですね・・・ところで、何度言って聞かせても、各国の軍施設や重要施設に不法侵入を繰り返す人物には、どのような教育をするのがよろしいのでしょうかね?」
「げっ!?」
「スヴァボーダ連合として女史には、シノギ夫人のエルキア公国への派遣と、ソ連の軍事作戦時のエルキア公国への後方支援。特に、避難民への食糧、医薬品等の提供。その2点を要請します」
「・・・もしかして、それが本命?」
「さて、どうですかね・・・」
北の狸と、東の狸・・・今回は、北の狸が一枚上手だったようである。
第1部 終章1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿予定は、2026年の春又は夏を予定しています。




