第1部 終章 2 北の狸と東の狸 前編
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
「間もなく、浮上ポイントです」
オホーツク海を潜航する日本共和区統合省保安局総監部陽炎団警察国家治安維持局防衛部外局外部0班に所属する、[シエラ]級攻撃型原子力潜水艦[キート]の艦橋で、航海士が告げる。
「わかった」
[キート]艦長である、アレクセイ・マクシム・ザハロフは、浮上準備に入るように指示を出す。
「しかし・・・スヴァボーダ連合から、外務局を通さずに極秘での個人会談の要請とは・・・いったい何でしょうね?」
ザハロフは、艦長席の横に立っている、黒いスーツを身に纏った少年のように見える、小柄な人物を振り返った。
「さぁてね。スヴァボーダ連合には、迷惑をかけた覚えは無いから・・・叱られるような事は、無いんだけどねぇ~・・・ワカンナ~イ」
「・・・・・・」
惚けたように答える人物に、ザハロフは呆れたように、ため息を付いた。
この人物の事だ。
何かをやらかしている可能性は、十分にある。
「2人程、護衛を付けますか?私が言うのは何ですが、ロシア人は、信用しないほうがいい」
「ロシア人の艦長が、それを言う?」
「私たちは、国に捨てられた人間ですからね」
「・・・・・・」
無表情であり、声音にも感情が籠っていないが、それだけに複雑な思いが籠っている。
一瞬だけ、かける言葉を失った人物だが、すぐに表情を切り替えた。
「それで・・・何かあったら、私が2人を護衛すると?」
「当然です!」
ザハロフは、断言する。
この人物の個人戦闘能力は、常人を遥かに凌駕している。
本来なら、護衛を付ける必要さえない。
それでも、形式的に護衛の人員を配置する必要はある・・・あくまでも、形式的に・・・では、ある。
「護衛のイミ!?」
人物が、突っ込みを入れる。
指定された合流ポイントの海域には、スヴァボーダ連合軍海軍所属の駆逐艦が1隻、機関を停止した状態で待機していた。
乗艦した人物は、すぐに士官室に通された。
出された紅茶を楽しむ事、暫し。
ノックの音と共に入室してきたのは、スーツの下にセーターという、軽装の男だった。
おそらくは、素性を隠すためだろうと思われるが、その人物には、男が軍人ではなく政府関係者・・・保安局あたりに所属しているであろう事は、すぐにわかった。
まあ、そんな事は男の方も百も承知だろう。
「急な呼びだしに、快く応じて下さった事に感謝します。女史」
「快く・・・では、ないかな。もしかして、この間のスヴァボーダ連合軍の基地に、こっそり遊びに行った件(不法侵入)で・・・かな?」
「・・・?そんな話は、軍関係者から一切聞いていませんが・・・?」
「・・・しまった。また、お兄様に叱られちゃう!」
自分から、とんでもない事をカミングアウトしてしまった事に、人物は少し青くなっている。
「・・・まあ、いいでしょう。この話は、聞かなかった事にしておきます」
「助かる~」
咳払いをして、男は本題に入った。
「貴女を個人的に呼び出したのは、貴女の腕を見込んで、仕事を依頼したいと思ったからです」
「ヨッシーの暗殺なら、ヤダよ」
随分と可愛らしい愛称だが、それに該当する人物には見当が付く。
「・・・まだ、何も言っていませんが・・・何故、そう思ったのです?」
演技なのか、素なのか、男は目をパチクリさせて驚いている。
「この時期に、私個人を名指しで呼び出すのですから、そのくらい察しは付きますよ。でも、断る前提でも話くらいは聞きますよ」
「断る前提ですか・・・まあ、そうでしょうね」
男は、特に不快な表情は浮かべなかった。
「では、断られる事前提でも、話を聞いて助言くらいは頂けますかね?それでしたら、今回の不法侵入の件は、私の胸の内に留めておくようにいたしましょう」
「う~ん・・・そのくらいならね。でも、役に立たなかったからって、前言撤回は無しですよ」
「もちろんです」
お互い、そういった世界に住む者同士の、地味な駆け引きである。
第1部 終章2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




