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特別

作者: 豆苗4
掲載日:2025/05/20

 「誰でも良かった」という表現を私はよく使い、架空の人々をしばしば呆れさせる。しかし、それは一般的に了解されることとは少し異なる視点でものを言っているのだということを釈明させていただきたい。気迷い人形の戯言として。私が一般的でないということではなく、私の言説が一般的である可能性も少しはあるわけだが、ただ単に同じような主張する人が少ないという意味での「一般的」ではないというニュアンスで述べている。確かに誤解を招くような言説をあえて持ち出し、なおかつ懇切丁寧に説明する義務を怠っているのは間違いない。しかし、人の使っている「特殊な」概念を自分の勝手な、いわば都合の良い解釈で咀嚼しようと試みることもせず右から左に受け流すように流用する姿勢に是とは言い難いものを感じているのは分かるだろうか。自由気ままな解釈をするのは構わないが、よく分からないままに刃物を持ち歩いてぶんぶん振り回し、他者だけでなく自らの身に危害を加えるようなことは避けて欲しいという声の小さな提言を付け加えたい。どの口が言うと突っ込まれそうではあるが。差異は破滅をもたらすのだろうか。基本的に言説は刃物となりうるが、私が主に対象としているのは重たいレードルだけで個人を攻撃する意図は全くといって良いほどない。


 冒頭で述べたフレーズは巷でよく言われる「誰でも良かった」とは全く異なる意味で使っている。これはそちら側、つまり一般的な言葉の使い方からすれば、Aでも良いし、別にBでもCでも良かったというニュアンスで使っていると感じているだろう。しかし、そうではない。私がそのように主張したいのならば、おそらく注釈を加えてそのようであるときちんと説明するであろう。どの選択肢を選んでもこれっぽっちも変わりがないことを。だが、ここで言いたいのはそうではない。むしろ、文面そのままというよりかはそちら側で言う、「誰でもでは良くなかった」と言うことを主張する文言に近しいだろう。はぁ? 誰でも良くないことを主張したいが為に「誰でも良かった」と発言する? 冗談でしょ? もちろん、言葉足らずであることは重々承知しているが、面と向かって事を荒立てるような不遜な振る舞いはあまり趣味ではないのだ。


 逆に考えてみて欲しい。「誰でも良くなかった」という言説にはいつも仄暗い後ろめたさが付き纏う。心のどこかではそうでない事を予見しているかのように。本当はわかっているのだろう。理性的にであれ、直感的にであれ、「特別」などどこにも存在しない事を。そもそも「特別」であるのならば、他を必要としないだろう。自己完結しているから特別なのであり、それこそがそうである所以なのだ。しかし、絶対的な特別は空想上のものであり、地面に散らばっているのは相対的な特別だ。相対的な特別に果たして何の意味があろう! 


「他のものと違って特別だなんてそんなの『当たり前』だろう」

「嘘だ嘘だ嘘だ。道端を歩いている女の人も、しゃがんでいる男の子も、河原の石も、モナリザの額縁も、アンパンマンのかけらでさえもそうだって言うのか」

「そうだ」

「……うそだ。嘘だと言ってくれ。冗談でもいいから、嘘でもいいから」

「いや、残念ながら」

「……」

「だから何度も言っているじゃないか。特別に『特別』な意味なんて何らありやしないのだと。投影されているのは自身の空虚な願望に過ぎないのだ。自分のしっぽをむしゃむしゃと平らげても痛いだけで美味しくないぞ。シュークリームなんかどうだ? 甘くて口の中でとろけて最高だぞ」

「……」

「そもそも特別なんて言えるはずないじゃないか。特別であるなら特別を必要としないし、特別でないなら何が特別かなんて分かりっこない。それとも……」

「……もういい、もういいよ。やめにしよう」

「ひょっとして……距離の近さを特別と勘違いしているだけなんじゃないか? 距離は特別とは無関係だぞ。特別感は得られるかもしれないが、それが特別だとは」

「………………」

「あぁ……すまない。そういう意味で言ったんじゃないんだ。もう何を言っても無駄かもしれないが……」

「………………」

「誰でも良かったはずがないし、なんでも良かった訳がない。そんなことは……自明じゃなかったのか? 『特別』は……」


 だから何度でも奮起するのだ。ベッタリと張り付いた重たい重たい虚構を剥がす為に。腹落ちするまで嘘くささを呑み込むことを躊躇する為に。ありふれたロールケーキのほっぺが落ちるような美味しさを表現せんが為に。そうではなかった、いや、そうではないことを()()する為に! これはもう悲しきエンドロールではないのだ。

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