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ショートショート系短編

第二王子が氷の伯爵令嬢を笑わせたいと思っていたら、思わぬところで致命傷を受ける話

作者: 白澤 睡蓮

「今日も笑ってはくれなかったな」


 そう呟いた第二王子アゼリオは、王宮のバルコニーで物憂げに夜空を見つめた。


 アゼリオが思い出すのは、今日あった婚約者とのお茶会だ。アゼリオの婚約者である伯爵令嬢カロナは、アゼリオとのお茶会ではいつも表情を凍り付かせている。アゼリオはカロナを笑わせたくて毎回頑張るのだが、結局上手くいかずに終わってばかりだ。


 涼やかな美貌と相まって、カロナは氷の伯爵令嬢と呼ぶに相応しい相手だと、アゼリオは常々思っていた。


 アゼリオの手にあるワインは、一口飲んだ以後全く減っていない。アゼリオはワインを、ただなんとなく用意しただけだった。憂いた状態で一人飲んでいると、だんだん侘しくもなってくる。


「君も一緒にどうだ?」


 アゼリオは傍らに控えた寡黙な従者トアに声をかけた。


「何か粗相をしてしまうやもしれません。遠慮させていただきます」


 真面目でつれない返事をされて、アゼリオの闘争心に火が付いた。ああだ、こうだと尤もらしい理由をいくつもつけて、アゼリオはトアの説得にかかった。


「だからたまには良いだろう?」

「分かりました。ご相伴に預からせていただきます」


 最終的に根負けしたトアは、アゼリオから差し出されたグラスを受け取った。



「殿下! 飲んでるっす? 飲んでるっす? もっと飲むっす! うぇ~い!」

「一杯でこれか~」


 アゼリオはトアの豹変ぶりに度肝を抜かれていた。出来上がっていると言うべきか、壊れたと言うべきか。


 口数少ない普段の反動なのか、酒にのまれたトアはやたらに饒舌だ。この怖いほどの豹変ぶりは、もしかしたら日頃のストレスが原因かもしれない。トアへの無茶振りは程々にしようと、アゼリオは心に決めた。


 アゼリオの目の前で、トアが二杯目のワインをグラスに注いでいく。


「殿下は今何杯目っす?」


 トアが注ぎ終えたグラスには、ワインがなみなみと注がれている。マナーもなにもあったものではない。


「なあどうすればカロナは笑ってくれると思う?」


 トアにこれ以上飲ませてはまずいと、アゼリオはトアのグラスをすり替えた。ついでに話もすり替えた。


「殿下は彼女の社交界でのあだ名をご存じっす?」


 グラスがすり替えられたことには何も言わずに、トアは質問に質問を返してきた。おそらくは話の流れ的に、必要な質問なのだろう。


 何を当たり前のことをと、トアの質問にアゼリオは答えた。


「氷の伯爵令嬢だろう」


 どうやらグラスがすり替えられていることに全く気付いていないらしく、トアはテンション高く水が入ったグラスを煽った。色が全く違うのに気づかないとは、大丈夫だろうか?


「氷の伯爵令嬢っす? 全然違うっす! 笑える森の美女っす」

「笑えない冗談はよしてくれないか」


 トアが盛大に酔っぱらっているにしたって、アゼリオが知るカロナには似つかわしくないあだ名だ。


「冗談ではないっす。彼女の尋常ではない笑い上戸ぶりは、国内で広く知れ渡ってるっす。そしてこうも言われてるっす。彼女が笑わなかった時は本当にやっべえええ! うぇ~い!」


 けたけたと笑うトアに、嘘を言っている様子は見られない。トアが真実を言っているとすると、アゼリオはある事実に気付かされた。


「もしかして……俺はずっと滑っていたのか?」

「はいっす!! 場を和ませようとした小粋なジョークも、全力で笑いを取りに行った一発芸も、隙あらばねじ込んだギャグもダジャレも、その他何もかも。殿下に笑いのセンスは一切ないっす!!」


 とても元気に肯定された。悪気無く肯定された。


 アゼリオは両手で顔を覆うしかなかった。


「申し訳なさと、恥ずかしさしかない」


 いつもカロナの表情が凍り付いていたのは、全部自分の所為だった。今日の出オチの仮装も駄目だったのかと、アゼリオはさらに落ち込んだ。


「なぜはっきり言って止めてくれなかったのだ?」


 アゼリオは恨みがましくトアの方を見た。


「面と向かって否定しろとか、無茶なこと言わないでほしいっす」


 アゼリオが思い返せば、トアに意見を求めた時、トアは無言を貫いていることが多かった。あれは無言の肯定ではなく、無言の抵抗だった。


 相変わらず水をワインだと思ったままのトアは、意味もなくうぇいうぇい言っている。はっきり言ってやかましい。


 トアに酒を飲ませたのは、間違いだったのだろうか。だがおかげでトアの本音が聞けたのは事実だ。トアに酒を飲ませたのは決して間違いではなかったと、アゼリオは思い込むことにした。


「次にどういう顔をしてカロナに会えば良いか、分からないのだが……」


 独り言のようにアゼリオが呟く。


「おっす! 今日も正々堂々滑りに来たっす! の顔で良いと思うっす!」


 良い笑顔でトアが言う。完全にアゼリオが滑る前提だった。


 アゼリオは泣いた。



 翌日トアは前日のことを全く覚えていなかったので、そのまま忘れておくようにとアゼリオはトアに釘を刺した。



 さらに後日、今まで面白く無くて本当に申し訳なかったと、アゼリオはカロナに謝り倒した。

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