#4 悪の組織も敵じゃない
矛盾を感じたら長い後書きを読んでいただけると幸いです。
ギウ、シンの2名の活躍により、突如として現れた強盗、もとい襲撃者の制圧に成功する。
「これが魔法か、じゃねえよ!!結局被害を出す寸前だったんだぞ!!」
「そこはほら、ギウを『信頼』したんだよ。僕より強い君ならなんとかしてくれるだろうってね。で、一体何をしたんだい?」
「……誰が言うか。大体今日初めて会ったのに信頼もクソもあるか」
(魔法の天才で人を信じやすい、俺とは真逆の存在……鬱陶しいな。これから俺がすることにも、口を出すんだろうな)
「さて、と……」
「——!?何してるんだギウ!!殺す気か!!」
突如として、気を失っている男に剣を突き立てる少年。
「逃げられたら困る」
「だからって殺すことないだろ!それに騒ぎを聞きつけてもうすぐ騎士団が到着する!僕の雷でそれまでは気を失っているだろう。あとは騎士団に任せよう」
「もしもがあったらどうする気だ?」
「もしも……?」
「もしもこいつがここで逃げおおせたら、もしもこいつが騎士団を振り払えたら、そうなったら次に真っ先に狙われるのは俺らだろう。そしてもしかしたら、次は勝てないかも、最悪殺されるかもしれない」
「そんな実力は……!」
(いや、分かってる……ギウがしたいのはそういう話じゃない……これは……この先の……)
「お前、どうして魔法使いになりたい」
「……僕は、この才を、人のために……誰かを、守りたくて……」
「守るっていうのは、勝つことと同義じゃない。今この瞬間に必要なのは殺す覚悟なんかじゃなく、誰かを守れないかもしれない可能性を、手段を問わず潰す覚悟だ」
(本当に同じ歳の人間なのだろうかと思わされる。僕と彼とでは、あまりに見えているものが違いすぎる。彼のずっと後ろを僕は歩いてる……。
そう気付かされてしまった今、どうしようもなく近づきたい……)
「分かった、僕も覚悟を決めるよ」
(ただし……)
「ただし……」
[深雷]
「おいおい、無慈悲な追撃だな」
「僕の覚悟は、この先二度と僕達に歯向かいたいだなんて思わせない覚悟だ。そのためなら、この程度の鬼畜の所業は屁でもない」
(君の隣を、並んで歩くために……!!)
「…………まだ随分甘っちょろいが、今回は尊重してやる。精々貫けよ」
「ああ」
「すまない!遅れてしまった!」
少し周りの状況を見渡すと、遅れて到着した騎士は現状を理解したようだった。
「ああ……やはり君たちで解決できたんだね。元の現場に駆けつけた時に『学生が二人いた』という発言を何度も耳にしてね、こうなるかもとは思っていたが……名実ともに天才みたいだね君たちは」
「……これはただの強盗として処理されるのか?」
「いや、どちらかといえば通り魔だろうね。こいつは実際には何も盗ってなかったらしいんだ。
なんでも妙なことを口走ったと思ったらいきなり刃物を突きつけられて、気が動転してそう叫んでいたらしい」
「——!!そうか……」
「??」
——数刻が経ち、ギウたちは報告を終えIクラスにて——
「…殿下、ご無事でしたか」
「言うほど心配してないだろ」
「殿下のお身体だけでしたら、そうそう傷つくことはないだろうと自負しています。ですが今回は街中での戦闘と伺ったので…」
「ん……まあ、なんとかな……」
「ギウ、さっきから歯切れが悪いね。何か思うところでも?」
「いや、奴の発言……ん?なんでいるんだお前」
「やだなあ!僕らもう友達だろ!」
「そんなもんになった覚えはない」
「ギウとシンはいるか!お、なんだ集まってるじゃないか。ついでだキール、貴様も来い」
(……やはり面倒なことになりそうだ)
「やあ、さっきぶりだね。実はね……先ほどの通り魔事件なんだけど、ただの事件としては処理できなくなりそうでね……」
「え?一体どうして?」
「さっき捕まえた犯人だが、ある組織の一員であると豪語していてね。そこで、二人にもし思い当たる節があるなら教えて欲しいんだ。ただの妄言ならそれでいいんだけど」
ギウの脳裏には、先程からこびりついて離れないある言葉があった。
『賢者様の思し召しだ……!!!』
「賢者……」ボソッ
「あちゃー」
「ビンゴ、だな」
「な、何事ですか……??」
「つまり、そう名乗ってるんでしょう?」
「その通りだよ。彼はこう名乗っていた
『我々は、賢者の意志である』と」
「そうなると、これから調査に踏み込む必要があると」
「そうなんだけどね〜、いかんせん “組織” となると、その規模がわからない限りは今後も似たような事が多発するかもしれないわけで……」
「人手が足りないと」
「そこでだ、丁度よく貴様らがいるじゃないかということだ」
「???」
「恥ずかしい話だが貴様らが三人揃えばそこら辺の騎士よりは余裕で強いのでな。お前たちを街のパトロールに回せば、調査分の人数ぐらいは浮く」
(……やはり面倒なことになった……)
「明日からいくつかの授業は免除することにする。三人寄ればなんとやらだ。是非とも気張ってくれたまえ」
——翌日——
「許されていいのかこんなことが」
「まあまあ、ギウは授業を受けなくても充分強いじゃないか」
「………」
「そういうことを言ってるんじゃない。だからってその代わりに労働を押し付けられていいのかって話だ」
「何事もなければ授業よりは楽だよきっと」
「………」
「まあ、唯一の救いはキールがいることだな。大抵のことは丸投げできる」
「……ところでギウ?そのキール君なんだが……一人黙ってずっと先の方を歩いているんだけれど……」
「ああいうスタイルなんだ」
「いやいやいや……おーいキール君!」
「…はい」
「呼んどいてごめんだけどその距離のまま話そうとしないでくれ!」
「…何か御用ですか?」
「いや、用というか……このままだと危うく見失ってしまうんじゃないかと思うほど君の姿が小さくなってしまってたから呼び戻したんだ」
「なるほど…異常なしです」
「安心してくれ、定時連絡を求めているわけじゃないんだ」
「そいつはあんまり協調性ないぞ」
(君が言うのかギウ……!!)
「好きにやらせておけばいい。そいつはそれで充分だ」
「…………」
「…承知致しました」
「…………随分信用してるじゃないか」
「実力だけなら、疑うよりそれがまともに発揮されるかを心配してた方が効率がいい。そのレベルだあいつは」
「へー、そんなにすごい人なのか彼は」
「………………」ソロ……
ゆっくり……ゆっくり近づく……
……
……
……
——今!!
ヒュッ——
「あぇ?」ドサッ
「?!な、なんだ!?急に人が倒れたぞ!?」
「狙われてたな……後ろからぶすっと刺そうとしてたわけだ」
「それがどうしていきなり倒れるわけになるんだ!?」
「…私が対処させていただきました」
「うぉお!!いつの間にいたんだキール君!!」
「…それよりも、そろそろ準備なさった方がよろしいかと」
「え?準備?」
「気づいてないのか?」
「何に?」
「囲まれてるぞ」
屋根の上、壁の陰、ぞろぞろと湧いて出てくる怪しい人影。噂の賢者の意志と見て間違いないだろう。
「この状況……何か言い逃れはあるか?」
「…少々面倒でしたので」
「な、なんの話だ……?」
「本人に聞け」
「…いえ、何ということはございません…。ただ本当に、下手クソな尾行だとか、消しきれていない殺気だとか、迂闊な間合いだとか………そういうものに少しばかりの煩わしさを感じてしまって…まとめて相手をした方が楽かなと、敢えてこういう状況におきやすい路地に誘い込まれてやろうかなだなんて考えていたら、案の定馬鹿正直にあちらこちらから姿を現せたと、そういうわけでございます」
「…………彼は結構言葉がキツいんだね?」
「声は小さいのにな」
「だ、誰もそこまでは言ってないだろ!!」
どれだけこちらの話が盛り上がっていようと、相手は待ってくれないのは当たり前。あっという間に三人を取り囲むは逃げられる筈もなかろう鉄の小さな牙。一人分で俄雨と見紛うそれが、これだけの人数が同じ技を使えばその数計り知れず。
そんなことは重々承知の上で、この余裕。末恐ろしい太々しさの天才どもである。
「また雷で壊すかい?」
「やめとけ、この量壊そうと思ったら街ごといくぞ。黙ってキールに任せとけ」
「やっぱり信用してるじゃないか」
「…………まさか」チャキ……
「——来るぞ!!」
[牙剥く鉄蝸牛]!!!
「——は?」
数十人による、数万はあっただろう鉄の牙。
大きさを抑え数に専念した辺り、数の利を最大限活かそうという戦術的な心得を覗かせる。
だが今、それは圧倒的な “個” によって、その全てが地に伏す結果になっているということを、脳が処理するのに遅れる。
それほどまでに瞬殺!!
これが、王子と同じ齢でありながら、その剣術の指南役を命ぜられた男、生まれながらの『天才体現者』!
その名をキール・ソードマスター。国で唯一人認められた者のみが名乗れる、ソードマスターの姓を持つ者である。
「呆気なかったな……。キール君が強すぎるのか、組織だってる割にはこんな程度だったのか……」
「…恐らく末端の寄せ集めです。全員に同じ技を覚えさせるというのは、替えを利かせようという魂胆が丸見えです」
「それでも人に魔法を仕込むのは簡単じゃない。主導者が強大か、組織の規模が壮大か、あるいはそのどちらもか……」
〜〜〜♪♪
———!!キィィィィン
ヒュ〜〜♪♪
「やるなああいつ!この距離からの狙撃に反応するかあ!結構遠いと思ったんだけどなあ!
それに……あの剣……金色の剣……こりゃあ、ボスに報告かなあ?」
「だ、大丈夫かギウ!?何があったんだ!?いきなり音が……」
「……喧嘩を売られたんだよ」
(敵の影は見えねえ……それほど遠くから……。
くそっ、使わなくていいモン使わされた……!!)
「ムカつく野郎だ…………」
(死角+意識の外側からのあの不意打ちを捌き切って平然と……ギウの絶えない疑心の為せる技か……)
「…………」
その後、ギウたち一行を襲う者は一人も現れず、無事にその日の任務を終えることとなった。
——帰路——
「…………」
(最後の攻撃……わざわざ自分の身を危険に晒す必要はなかったはず……俺が誰か気付いてる……?あるいはただの戦闘狂なら、関わらなければいいだけだが……集団で動くってことは共通の目的があるはず……!それが知れれば対応できる……果報を寝て待つか、こちらから動くべきか……)
「なあ、ギウ」
「?」
「なんて言ったか……たしか、ラピルス、奴らのことだが……いっそのこと潰さないか?」
「……は??急に何言い出してんだ?まさかずっとそれ考えてたのか?」
「ギウ、僕は君の強さを信じている。それと同じくらい、僕には自信がある。そして今日、キール君の強さも充分信用に値すると知った。
ギウ、正直に言って……この面子なら例の組織解体させるくらいわけないんじゃないか?」
ふざけているわけでもなければ、気が狂ったわけでもない。至って真剣にこの結論に思い至っているのが、シンという少年の恐ろしさである。
(突拍子もないが、いやに核心はついてる。
俺たちには、明確な不利が二つある。
それは防衛と情報……!!
街や人を守りながらの戦いを強いられれば制限がつきもの、さらにどんだけ戦っても相手の規模が見えないから緊張が途切れない。
その二つを最も簡単に解決出来るのが “カチコミ” 、つまりこちらから相手のホームに突撃すること……!!無論相手に地の利を差し出す諸刃の剣……いくらこの面子でもハイリスク・ハイリターンのギャンブル……。
だが……確かにこれ以上は面倒臭え)
「二人……あと二人、俺らと同じレベルのやつを集められたなら……可能性はある」
「あと二人も!?ギウ……流石にそれは欲張りすぎじゃないかぁ……?」
「当たり前だ!相手は街中で魔法ぶっ放すイカレた連中だぞ!?ならこちらにもイカレた戦力が必要だ」
「だけど二人か〜〜……見つかるかな〜〜……」
「一人だけ、心当たりがある」
「ホントか!!」
「ただ問題が……いや、無理矢理解決してみるか」
「……?不穏な感じか?」
「時と場合による」
「え」(一体何する気なんだ……)
ーーー
「——というわけでね。らしくもないが仲間集めて突撃という結論に至った」
「どうして律儀に教師に報告したんだ?それを教師陣が快く許すとでも?」
「次期国王の命令だ。それに、どう止めようとしてもあらゆる手を使って黙らせる。もう決めたことだからな」
「何故そこまで……」
「結果を求めれば過程が伴う。どんな事象も過程には不確定要素が付き纏う。俺はめんどくさがりじゃなくて、この不確定要素が嫌いなんだ。
奴らへの対応策の中で、最も過程が少ないのが『バケモノどもを連れて突っ込む』だ。安心しろよ……守ってやるのさ……この国を」
「…………はあ……わかった……。で?何を教えて欲しいんだ」
「今んとこバケモノが足りてなくてね、一人、その素質があるやつに心当たりがある。そいつの居場所が知りたい」
「一体誰だ?」
「リューレル……リューレル・タイマという女生徒についてだ」
次回 『此処から出ない』
知ってましたか?最も歯の数が多い動物はカタツムリなんです。
4話目、読んでいただきありがとうございます。ここまで読んでいただいた方々は、「こいつ疑心暗鬼とか言ってたのに仲間集めし出しちゃってんじゃん!!」などと思われるかもしれません。全くもってその通りなのですが、一応言い訳します。
ギウの疑心暗鬼とは、将棋で例えるとわかりやすいです。例えば自分の駒がいきなり後ろを向いて裏切るかも、みたいなことよりも、相手が王将をすり替えるかもとか、いきなり飛車角を持ち駒に追加するかもとか、挙句の果てに盤面をひっくり返して殴りかかってくるかもとか、そういうことを考えているわけです。
そしてもし殴り合いになったら一番強いのがギウです。つまり味方の裏切り=殴り合い開始ですから、あくまで将棋のルールとして駒を揃えるけど、それはそれとして自分一人でもどうにかなるようにはしとくってスタンスです。……わかりづらい……っすね。
今後も、なんとかギウがいかに人間不信かを伝えられるよう努力します。よろしくお願いします。