#3 初対面とは相容れない
ものすご〜く長〜い魔法についての説明が入ります。まあ飛ばしても大丈夫なようにしたいとは思いますが、読んどいてもらえると助かります。お好きに楽しんでいただければ幸いです。
「長閑だ……」
授業をサボって寝転がりながら眺める空は。
(このままあの青色に溶けてしまいたい……。それほどまでに眠い……)
「ギウ君」
「……あれ、ウィップ先生じゃないっスか」
ウィップとは、ギウ及びその学年の入学テスト魔術師試験官を務めた女性である。そして今年度よりIクラスで教鞭を執るよう配属された。
「授業が始まりますよ」
「もうそんな時間ですか、行けたら行きます」
「はぁ……教師の目の前で堂々とサボり宣言ですか?」
「でも俺入学するとき勝ちましたよね?」
「むっ……それを言われると弱りますが……あくまで私が教えるのは私が受け継いだ『先人の知恵』です。多少私の価値観で脚色は入りますが、そういうものを継いでいくのが大事なのでは?」
「先人の、ねえ…………。
それにこちとら王子なもんで、そういう教育は百遍は聞いてるんですわ」
「百遍聞いたからといって、百一遍目を疎かにしていい理由にはなりませんよ。百遍聞いたと百遍は言えるようになって初めて、万遍なく修めたと言えるのでは?」
「……成程。まあまあ納得できたんで、今日のところは授業に出ますよ」
「ええ、宜しくお願いします」
スタ…スタ…
(さて、一番の懸念点か)
ガラッ
!!……ザワザワ……
「ま、注目はされるわな」ボソッ
(良い噂半分、悪い噂半分ってとこか)
ガララ
「皆さん、授業を始めますよ。今日は魔法の基礎についてです」
「すみません先生、その前に一つ、質問してもよろしいでしょうか」
「構いませんよ」
「単刀直入に聞きます。先生に魔法を教わって本当に強くなれるんですか?」
(そりゃそうなるよな、入学テストで負けたとあっちゃ。その自分を負かした相手をわざわざ呼びに来るだなんて、とんでもない胆力してんな……)
「……私は魔術師です。魔術師というのは、“魔”法の“術”を教える“師”足り得るという称号です。ただ、その一方で私はまだ未熟者で、群を抜いた実力者がいるというのも事実です。私は私を頼って大丈夫ですと自信を持って言えますが、その上でどうするかはあなたたち次第です」
教室はシンとしていた。それは緊張感の表れとも言えるだろう。
(……俺には授業に出ろと言ったくせに……。ま、今回ぐらいは、生徒に気合を入れ直すためのダシに使われてやるか)
「それでは授業を再開します。まず皆さんに知っておいて欲しいのは、魔法は〈才能〉と〈努力〉です。
まず〈努力〉の話からしましょう。魔法の発動には三つの要素があります。言葉、行為、道具です。
言葉は『詩句』とも呼ばれ、詠唱や技名などの声に依るものをまとめて指します。
行為は『技巧』と呼ばれ、古くは舞踊・儀式、それが現代に至るまでに変容して、特定の体の動きから魔法陣など三つの中で最もバリエーションに富んだ広い範囲を指す言葉です。
道具は『媒体』、より強い魔法を使おうと思えば、例えば純度の高い宝石、思い入れのある、その魔法に馴染みの深いものなど、より高位とされる媒体が必要になります。
以上三つの修練を重なることによって、より強くより速い魔法を目指します。とくに現代は、いかに迅速に発動するかに重きが置かれているので、これらを簡略化しようという動きが活発です。
ですが、いかにこれらを究めようと〈才能〉がなければ徒労に終わることすらあります。
その要因となるのが『適性』と魔法の『ランク』です。
『適性』とは、四大元素である{火 , 水 , 風 , 土}に対する得手不得手のパラメータのようなものだと考えて下さい。適性がプラスであればあるほど、成長も早く使う魔法も強くなります。逆に適性がマイナスであると、魔力の効率も悪く威力がガタ落ちします。これの厄介な点は+1を+9にはできますが、適性が0以下の属性は伸ばすことが叶いません。ですから自分に合った属性を選ぶというのは非常に大切です。
『ランク』はIからVまであります。魔法の威力、またその規模などから総合的に判断される危険度と言い換えてもいいでしょう。ランクIIIからは人智を超えた破壊力になります。そしてこのランクの壁を突き破れるのは “運” のみです。それは天賦の才能であったり、起死回生の底力であったり。とくにランクVは、その観測すら稀、扱えることのできた人間は例外なく伝説となるような代物です。
以上の〈才能〉と〈努力〉の要素を持ってして魔法は完成します。ふぅ、長々と喋りすぎましたね。何か質問はありますか?」
「先生、僕は騎士の志望ですが魔法を学ぶ必要があるんですか?」
「勿論です。剣は鍛錬で振りますが、先ほども言った通り魔法は才能さえあれば凶器にも兵器にもなります。ふとしたきっかけで目覚めた凶悪犯の方が普通の犯罪よりも多いです。相対するのが魔法使いなのですから、魔法は学んでおいて損はないですよ」
「さて、座学はここまでにして早速実践訓練に入りましょう」
ーーー
「やっと来たかお前ら!!長話に退屈したことだろう!!安心しろ!!ここからは存分に身体を動かせるぞ!!たとえその身体が悲鳴を上げようともな!!」
「ちょっとアッカ先生、私の授業を退屈だなんて……」
「早速だが呼ばれたものは前に出ろ!!」
(聞いてない!?)ガーン
「キール、ギウ、それから……シン!!」
(俺とキールは分かるが……シン?聞いたことない名だな)
「まずキール!!貴様は他の連中と延々組み手をしていろ。各々の実力を測って……多少鍛えるぐらいはできるな?」
「…はい」
「よし。だが相変わらず声が小さいな!!」
「…すみません」
「では早速だが取り掛かってくれ。そしてギウ、シン、貴様らは実践訓練だ」
「うおおお!こんなにすぐ!?」
(こいつがシン……見かけはただの学生、ふつうの15歳って感じだがな)
「……シン、噂に聞いたところでは、どうやら貴様ランクIVが使えるらしいな?」
「!?」(マジか……)
「あぁ……僕そういうのよく分からないんですよねぇ……魔法についてはさっき初めて学んだくらいですし」
(感性と潜在能力だけでランクIVを……どうやらこいつ、とんだ天才らしい)
「まあギウの方は言わずもがな……おっと、敬語を使った方が良かったですかな?」
「敬いたいのでしたらお好きに」
「ははっ!!ここでは私が教官だからな……王子だろうが手加減なしで行かせてもらう!!」
(王子……?)
『実践訓練は至極単純!!実際に市街地に出て担当教官を捕まえろ!!実力行使で構わんぞ。出来るのならな』
「って言われたけど、どこにいるんだろうなぁ」
「多少目立つ行動は取るだろ」
「なあ君、ギウっていうんだろ?王子ってなんだ?」
「……お前、自分の国の王子の名前知らないのか?俺の名はギウ・ジルアークだ」
「ジルアーク……ジルアーク王国……もしかして本当に王子だったのか!?」
「呆れたな……じゃああっちは知ってるんじゃないか?『信不全の王子』の噂なら」
「??……そっちも知らないが……心臓の病気なのか?」
「そうじゃねえ……どうしようもない疑心暗鬼の王子の話さ」
「君が?まさか!現に君は今、僕に親切に教えてくれてるじゃないか!」
「随分と人を信じやすいお前に一つ教えといてやる。疑っているからといって、それを全部行動に起こすわけじゃねえんだよ……。それよりお前の魔法につい——
キャーー!!ワーー!!
て、って……露骨に騒がしいな」
「行ってみようか」
(仮にも王国の騎士がこんな目立ち方するか?)
「!!——危ねえ!!」ドンッ!
少年たちの間を強引に通ろうとした男とぶつかりかける。男の手には刃物、只事ではなさそうだ。
「痛つつ……何事だ!?」
「動くなよそこのお前!」
(通り魔かよ……とんだ犯罪都市だなぁおい)
そ、そいつ強盗だー!気をつけろー!
「また盗人か!縁があんだかないんだか……!」
「これは本物ってことだよな、ギウ?」
「だろうな……」
「なら、ここで終わらす……!!」
凄まじい魔力が周りの者を圧迫する……!
伊達に “天才” と呼ばれてはいない。相対しただけでこれから放たれる魔法の激しさが伝わる……!
「——!!?馬鹿かお前!!」
少年は蹴り飛ばす。突如現れた本物の犯罪者ではなく、シン、今しがた魔法を放とうとしていた少年を。
「——!?な、何するんだギウ!!あ、逃げられたぞ!!」
「何してんだはこっちのセリフだ!!お前、詩句も技巧も媒体もなしに魔力だけぶつける気だったのか!?今の魔力…ランクIIIはあったぞ!!」
「僕には魔法発動に必要なものはない!!無詠唱でもランクIVは撃てる!!」
「だからなんだ!!それなら往来のど真ん中でデケェ魔法ぶっ放していいのか!?何人巻き込まれると思ってる!!」
「——!!」
「……いいか、詩句やランクは魔法を区切るためにある。ちゃんと定量化されてる方が効率がいいからだ……!それもサボって自分の魔法の及ぼす効果を想像できないのなら、お前は邪魔だ!!
クソッ……!最初から帰らせておけば良かった……!」
「……そんな…………僕は…………っ!」ダッ——
「な、おいどこ行く気だ!!」
(さっきのを追う気か……!?何も学んでないのか……ここまで役立たずだとはな……)
ーーー
「はあ…はあ…ここまで逃げればなんとか……!」
「よお、こんな路地裏を散歩かい?」
「——!?」
「さっきは随分とご挨拶だったなぁ?」
(あいつが来る前に俺がこいつを片しちまうのが一番手っ取り早い)
「っ……クソォ!!」
「んなやぶれかぶれのナイフが当たるかよ!!」
〔銀細剣〕
キンッ
「ああ……!う、うらぁっ……!」
「——?(またナイフ……?どっから出した……)
何度やっても無駄だ……!!」
ニヤリ
男がナイフを突き刺す。それはまるで錯覚のように、ナイフがダブって見える。重なる影は増えていく。二重が三重、三重が四重、いつの間にやら数え切れぬナイフがその手の周りに浮遊する。
「死ねぇっ!!」
「んなこったろうと思ったよ」キンッ
「——!?」
「もういいか?コソ泥にいつまでも付き合ってられないんだ。特に、ナイフ使いってのが気に食わない」
「く、クソ!!クソ!!」ダッ
「逃げても無駄だってのがわかんねえの——か……」
男は大通りへ逃げた。いや、その表現では少し足りない。大通りへ逃げ、大通りを人質に取ったのだ。空に浮かぶ無数の刃によって。男は上を指している、不敵な笑みを浮かべながら、まるで勝ち誇ったように。
(どうする…彼方ノ星は通りに向かって撃つには危な過ぎる…剣を変えるか?…いや、動きを見せれば反応される…クソ…何か決め手が欲しいな……)
「あはははははは、皆んな死ねぇっ……!!
賢者様の思し召しだ…………!!!」
「——?!」
ただ眺むことしかできない青天に、霹靂現る。
「あれは……っ!!」
(シン……?!また考えなしに魔法を撃とうとしてるのか……?!やっぱり何も分かってねえ……!!)
否。シンは直感的に理解していた。魔法を区切るランクという概念を。そして、このギウという少年が、自分より遥かに強いということを。
『……そんな…………僕は…………っ!』
(……そんなこと考えたこともなかった……!!僕はなんて愚かで弱かったんだ……!!そして……)
(自分の最大値と最小値から中央値を概算……感覚はそこから2…いや3個下、あのナイフ全てに通電させられる限界……そこまで来たら被害は度外視……なぜなら……)
「あいつ……まさか……!!」
(……そして、ギウ……君という男は……)
「どれほど強いんだ!!」
雷系 rank.II
[深雷]!!
「うわああああああ!!!」
雷は鉄を屑にし悪へと墜ちた。
(危なかった……銀細剣を避雷針にしてなんとか威力を分散させられた……。
しかし、魔法の発動要素をあれだけ簡略化したランクIIであの威力……潜在能力は間違いなく一級品……!)
「……はあっ……はあっ…ははっ、これが魔法か……!!」
それは紛れもなく、天才の産声だった。
次回 『悪の組織も敵じゃない』
恒例、名付けの由来シリーズ!
アッカ先生=扱くの「扱」の字から
シン=信じるの「信」、要はギウの対極
ぼくの “魔法” の概念は女神転生(特にV,VVengeance)をもろパク——もとい参考にさせていただいているので、よく分かんなかったという人はプレイしてください。そのまんまでイメージしてもらって大丈夫なんで。