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#2 実力は隠せない

いきなり剣とか魔法とか魔導とかがいっぱい出てきますが、ふんわりやんわり捉えてもらって大丈夫です。一応[]で囲まれてるのは技名です。技名叫ぶタイプです。

ザワザワザワ

「あれが()の、この国唯一の王子……?」


「……数奇の目で見られてらぁ」

(まっったく……どうしてあの人はこう物事を急展開でしか運べないんだ……!!)


 ヒソヒソとあることないこと囁かれているこの少年こそは、二日前夜盗(よとう)に襲われた王城を守り抜いた王子、ギウ・ジルダークその人である。

 彼はその実力を買われ、かつ彼自身が望んだことで、次期国王として動き出したのだが——。




———前日、王城———

「今なんて?」

「おや?知らなかったかい?まあ無理もないね。なんせ君は、()()()昔から大人顔負けの優秀さで、学業に関しては全ての課程をスキップしてるからね〜。いやしかし惜しかったな〜、長女シルキがいなかったら前代未聞の出来事だったんだけどね」


「そこは正直どうでもいいんです。それより——

「いいだろう!教え育てるのも父親の役目!

 では “学都がくと” について教えてしんぜ」

「ですから!!どうして急に俺がそこに行くという話になるんです!!」


始め其処には、唯学舎(まなびや)があるのみだった。

学舎には人が集まり、やがて学びの園と呼ばれるようになった。

幾星霜を経ただろう。いつしか其処は、未知への好奇と解明の足跡入り乱れる、千姿万態種々雑多な学びの都と為っていた。

俗に[学都]。この国の学びの中枢にして末端の総て。全知と全能を司る街である。

——国史書より一部抜粋


「ギウ、人とは学び続ける生き物だ。ましてや王。民の上に立つものならいくら学んでも学び足りないんだよ。あそこなら、君を王にしてくれるよ」




———そして現在、学都———

(学都の仕組みは単純明快。年齢としで区切って五つのクラスに分ける。

 さて……どこに入るか……)


 学都は決して来る者を拒まない。幼かろうが意欲がなかろうが「入る」と言えば誰であろうと入学できる。そのため、最初にして最大の難題が『どのクラスに入るか』である。


(最も標準的スタンダードなのは IIIサードクラス……特定の学問に拘らず教養から芸術まで幅広く学ぶクラス。

 あるいはエリートの IIセカンド か専門家の IVフォース ……。

 国の維持に関わるような中枢の仕事に就く為の高水準教育 IIセカンド 、王になるなら無視していい場所ではないが……、エリート意識からくる他クラスの見下しを防止するため「そんな暇与えなければいい」という暴論の下、鬼のような量の課題を課せられることでも有名なんだよな……。そんな英才教育を受けても王城であの仕事量じごくを見るハメになるんだからいたたまれない。

 IVフォース もなぁ……。専門分野を決めてただひたすら研究しまくる、一芸に秀でて秀でて突破して、一周まわって一芸のみ極めるみたいなクラスだから、こだわりとクセの強いやつが多いって聞くしなぁ……。

 あと、トキワ(引きこもり)姉さんの出なんだよなー IVフォースは。それでいくと IIセカンドシルキ(暴虐)姉さんの出なんだよなー)


「よし、無難に普通の IIIサードにしよう。

 どうせ規定通りなら三年で卒業だ」

※ギウの年齢(15歳)での入学の場合


「…殿下…!!」

「ん?あ……キールか、なんだ?」


 今しがた王子に声をかけたキールという少年は、その王子と歳を同じくして王子の剣術指南役を務めた天才である。


「…なんだじゃありません……どうしてこんなとこに居るんですか……!!」

「どうしてって……入学の手続きしに来てるんだよ。キールはもう入学してたっけ?なら分かるだろ。一応入りたいクラスのテストを受けないといけないんだろ?」

「…そうではなく……受けるとしたら Iファーストでしょう?!」


 —— Iファーストクラス。

 存在する五クラスの中で最も異質。唯一入学に制限が設けられているクラス。その制限とは「強さ」。学びの都に似つかわしくない “戦闘訓練機関” を便宜上 Iファーストクラスと呼んでいるのである。


「え〜〜。なんでわざわざ自ら進んで戦わなきゃならないんだよぉ。こちとら王子だぜ?それこそ、そういうのはお前の仕事だろ」

「…殿下は自分の才を自覚すべきです。それは然るべく発揮されるべきです」

「才能って……俺は魔法得意じゃないんだけどな」

「…またそんな謙遜を……殿下をおいて他に誰を得意と言えばいいのですか」

「……それにわざわざ入ってまで、今さら教わるようなこともないだろう!」

「…はあ……とにかくテストは始まろうとしています。急いで来てくださ——

「キール……さんですか?」

 

 珍しい髪色の少女だった。白と黒が疎らに入り交じっているように見えるのに、そのどちらもがまるで混ざり合いたくないかのようにはっきりと境を主張する短髪の、美少女と言って差し支えないだろう。

 しかして、少年が目を惹かれたのは——。


「…はい、わたくしがキールです」

「あの……そろそろテストが……キールさんの番が近づいてるみたいです」

「…伝えていただきありがとうございます、承知しました。ではわたくしはこれで」

「おう」

「…殿下、必ず来てくださいね」

「早よ行けーー。ったくうるせー奴」

「あの……」

「あれ?俺にも何か用?」

「さっきの……よくあんなこと言えますね」

「さっきの?」

「ええ……まるで Iファーストクラスなんて、()()()()()()()()()()()()()みたいに言ってたじゃないですか。


『……それにわざわざ入ってまで……』


 あそこは戦闘力が基準だから、とんでもない難関なのに」

「……皮肉?」

「いえまさか……ただ……ものすごい()()()()()なんだなって」

「当たり前のことを言うのに、楽観的もクソもねえよ」

「え?」

「名前、まだ聞いてないよな」

「……リューレルです」

「俺はギウ。お前が俺をどう評価してるんだか知らないが、俺は我儘わがままなんでね。自分が疑われるのは嫌いなんだ。だから、目に焼き付けときな」


「…………」(行ってしまった……)




ーーー

「…殿下!良かった来ないかと……!!」

「少々癇に障る女がいたんでな。荒らしに来た」

「…荒らしにって……ああ、説明があるみたいですよ」


「おーしお前らよく聞け〜〜?ヒック、人が増えてきたからもっぺん話すぞ〜〜。Iファーストクラスのテストは単純明快! “戦闘テスト” だ!ヒック

 受けたいやつはまず騎士ナイト魔術師ウィザードを選べ〜〜、それがお前らの配属先であり、対戦相手になる」


「なるほど。お前はどっちで?キール」

「…剣以外ありませんよわたくしには。分かってて聞かないでください」

「ところで〜〜、おれは飲んだくれだ!」

(((知ってる……)))

「そんなおれでも、一戦交えたくれぇでお前たち審査するぐらいはわけねぇ。そういうとこ、よ〜く頭に入れて戦えよ〜〜」

(……緊張感が跳ね上がった……。ただの酔っ払いじゃあなかったな)

「どちらを選ぶんです?」

「うおい!吃驚びっくりするから急に話しかけるんじゃねえよ!」

「あ、すみませんギウさん。それとさっきの……」

「良いタイミングで来たなリューレル。お望み通り、今から実力の証明戦だ」

「あ、えっとじゃあ……どっちを選ぶんです?」

「『どっち』?それはどっちを倒すのか聞いてるのか?」

「た、倒すって……善戦するのだってとんでもない難題ですよ?何せ相手は王城の騎士です。王様が直々に選んだ精鋭中の精鋭ですよ?」

「へー、そうだったのか。あんまり見覚え無いけどなぁ」

「…殿下、それは誤魔化してるんですか?それとも馬鹿にしてるんですか?…あの騎士を。あなたが身近に置かれる者を忘れるわけ」

「まあ、それはともかくとしてだ。なんだっけ?『どっち』だったよな?質問。

 俺は——」

「え……」


「ん〜〜?次はお前か坊主?」

「ギウだ。おっさん」

「けっ、礼儀のなってねえガキだぜ〜〜。で?お前はどっちを選ぶ。騎士ナイトか、魔術師ウィザードか」

「俺は()()()()

 二人いっぺんに倒してやるよ……!!」

「どっちも……?おめえそりゃ、意味分かって言ってんのか……?」

「分かってねえのはそっちだ。俺は『お前ら程度なら楽勝だ』っつってんだよ」

「覚悟が伴わなきゃ虚勢……実力が伴わなきゃ妄言……なんにせよ、そこまで言ったからには “勝つ” 以外じゃ入学は認めらんないぜ?」

「優しいな。確約してくれたのか?」

「……ブハハハハッッ!!バカは嫌いじゃねえ……!!

 おいウィップ!!俺は受けるぜこの二対一しあい!!」

 

 奥で一人静かに座っていた女性に男は呼びかける。

 女性は妖艶な強者の雰囲気を漂わせながら近づく。


「シドー、あんた馬鹿なの?不意打ちもできなければ罠なんか張る準備時間もない。開けた場所でよーいどんなのよ?

 つまり、純粋に私たち二人より強くなきゃいけない……あり得る?」

「そーいう天才が稀に現れる。それが学都ここだろ」

「……ハァ……そうね。もしそれをやってのけれるなら、私もぜひお目にかかりたいわ」

「よしきた!話はまとまったぜ坊主。いつでもかかってきな……剣一本でわからせてやるよ……!!」

「ほんじゃまあ、失礼して」

「「…………??」」

「おい坊主、そいつはなんだ?()()()()に見えるが……」

「……貴金の柄(レアメタル・ヒルト)

「……は、ははは、そうだよな。

 もう始まってるんだったなぁ……!!」


 わざわざ自分から手の内を晒す奴はいない。

 なぜならここは既に戦場だから。

 それを再確認、と同時にスイッチを入れ意識のギアを上げたシドーという男は、目の前の現実を受け入れられずにいた。

 目と鼻の先まで迫る剣の切っ先という事実を。


(……?なにが起きている。これは “攻撃” だ。そんな素振りがあったか?俺に油断はなかった。いやそんなことじゃない。まずはこの眉間を捉えて離さないような攻撃を——


避……………………)キィィィィンン!!!


「へえ、よく 『はじく』まで思考できたな」

「…………!!」

(危なかった!!俺がギリギリまで反応もできなかった攻撃!!もし俺が避けていたら()()()のウィップを貫いていた!!)

「えげつないなぁ……()()()!!」


銀細剣シルバ・レイピア

「それがこの剣の名。そしてさっきの “伸びる高速刺突” が[彼方ノ星(ステラ)]だ」

「どうしたぁ?急に饒舌じゃないか」

「戦闘で後手に回った奴は “想像” しないといけない。攻撃への対処法と次の一手を。

 そして俺から助言が二つ。

 一つは相手が開示した情報は疑うべし。

 そしてもう一つ、お前の相棒が悪手を打ったぞ」

「へっ、それすら疑うべきなんじゃ——……!!」


 突如影が長く伸びる。光源はシドーの真後ろ。


集中炮火(ファイアファイア)]!!


大砲おおづつのような火炎を複数一斉に……。シンプルだがデケぇ。そんでもっておっさんは、あれを避けながら正面からの俺の攻撃を浴びることになる)

「前門の剣後門の大火だな、おっさん」

「捌いてみせるさぁ……それが仕事なんでね……!!」


彼方ノ星(ステラ)]!!


ギキギキギキンッッッ!!!


「マジか……!

(本気であの大炮を避けながら受け切りやがった!!)

 危ねえのは俺だけかよ……!」

(渾身の一撃——

彼方ノ一等星(ステラ・プリマ)]!!


(あの剣……!!私の魔法に風穴を空けた……!?

 さっきからシドーが警戒してるのはそれか……)

「しっかしやるなおっさ——

はや——懐に入られてる……?!)

 会話ぐらい楽しめよぉ」

(余裕そうな表情カオしやがって……だがお前の剣と俺との間にお前の体が入るように詰めた。最短距離では刺しにこれない…!)


グンッグンッッ


(これは……!ボールが跳ね返るみてえに……高速刺突が『直角に曲がった』?!)

「いい線行ってたぜ」

星ヲ繋イデ(コンステレイティオ)

「死角なし、か……」ヒュッ……

(曲がる分スピードは落ちるみてえだな、簡単に避けられた。問題はまだ一太刀も浴びせられてねえってとこか……大問題だな)

「おいおい、休憩はなしか!!?」

「!!!」(ウィップか!)

集中炮火(ファイアファイア)

(さっきと質が違う……!火炎が小さくて、()()()()()()!?)

「真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら避けられる……!!」

()()ならね……!」グイッッ!!

(これは……!!)

追尾弾ホーミング!?」


風ノ古巣(ウィンドホーム)]!!


(炎と風を同時に……!!)

「よお……」

「!!!」(騎士と挟み撃ちに!)

「前門の剣後門の烈火だぜ……坊主!!」

「…………全てをあらう」


白金刀(はっきんとう)〕[流水之様(ストリーム)

ス〜〜〜〜〜〜〜〜ーッ


(無駄がない……っ、こいつ、俺と同じレベルで技を受け流せるのか?!……だが今のは……)

(また私の魔法が打ち消された……!でもどうして……?まさか……)


「「!!……()()()か!!」」


「だが、やることは変わらない!!」

ダッ…!

「!!…行ったぞウィップ!!」

「何それ……魔術師は接近戦に弱いとでも思った?

 魔法は自由なの……弱いとこがあるなら、補う魔法を創ればいい……!!

 あんまり魔法、舐めないでよね」


炎鞭風撻ファイアウィップストーム]!!!


 魔術師ウィップの足元から、まるで巨大な蛸足のような炎が現る。その見た目とは裏腹にその技は、高熱の炎で形成した鞭を、暴風によって加速させる。何かに当たればたちまち爆撃の嵐と化す、ウィップにとって最恐の技。


「これでおしまいよ!!!」ドォゴォン!!


 爆煙と爆風が辺りを隠す……。


「やりすぎだ……!!」(だがこれならどうだ……?!)


スッ——……


「!!……いる」

(あれをかわしたのか……!!

 だが、次の不意打ちを受けきれば必ず返せる……!!)


次が、決め手…………


来た——!!


「お前、受け流すの得意だろ?」

「!?」

「だからシンプルに、パワーで殴る」

(なんだこいつ……剣はどうした……いつからそんなのしてた……岩の、籠手……??)


巌篭之様(ガントレット)]!!!


「ぐっ……は……」

「!!」(シドーがやられてる!!)

「確かに接近戦に強い魔法だが、お前自信が “なってない” 。自分から目眩しを展開するようじゃ……そんなだから、単純な魔法の知識も引き出せなくなる」


 魔法使いなら、まして魔導士なら、魔力を “込める” と同時に “溜める” のは常識。そうしておけば、ほんの小さな行為で、幾許いくばくかの魔法を遠隔で発動できる。

 例えば、指を鳴らすだけで、ウィップの頭上高くから地上を真っ直ぐ向いている剣が、“伸びる高速刺突” を発動することも。


パチンッ


彼方ノ星(ステラ)]!!!


「あ…………」


 1cm未満。羽虫の入る隙もない不発。

 だが、鼻先を掠めるそれは、見るものが見れば明らかに生かされただけ。やろうと思えばいつでも頭蓋を貫けたのは明瞭。


「あれってもしかして……」「勝ったってことか…?」「や、やりやがった……」「本当に二対一を制して合格しちまいやがった!!」「偉業だろ?!これ!!」「一体誰なんだあいつ!!」


スタ……スタ……

「…大丈夫ですか?」

「意外に手強かった……」

「…当たり前です…王城の所属ですよ」

「ああ、最低限相応しくはあった」

「…それにしても…目立ちたくなかったのでは?殿下」

「俺はシャイじゃなくて人見知りなんだよ」

「…随分良く言いましたね」

「おい」


 伝説の現場に居合わせ、沸き立つ者、気にも留めない者、そして、


「すごい……!!本当に成し遂げちゃった……!!わたしも……わたしもあんなふうに…………!!!」


 夢見る少女。

 なんにせよこれで、ギウ・ジルアークのIファーストクラス入学が決定する!!





次回 『初対面とは相容れない』

お久しぶりです。あるいは初めまして。二話目にして戦闘描写が難解になりつつあります。伸びしろですね。

ちなみになんでギウがあんなにムキになったかって、疑われるのが嫌なんじゃなくて、魔法の腕に関してだけは、少し自尊心があるからです。思春期ですね。

さて、恒例のキャラ名解説です。

キール→斬る(間の棒は一閃ともとれる)

リューレル→流れる(音読み)

シドー&ウィップ(試験官ズ)→ご指導ご鞭撻

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