*楽しい王家の家族模様
逃げ切れない(笑)
王妃は焼けた鉄の棒をまた暖炉に突っ込んで、
「つれていけ」
と、命じた。
長男だった男が、顔を焼かれ、その後舌を抜かれ、喉を潰され、膝の皿を砕かれて、ただ書類を整理する奴隷として執務室で飼われることになった。
「なぜこんな。書類の整理だけは上手だったのになぁ」
と、残念そうに王が言った。
「王太子にするという宣言が早すぎだのかもしれませんね。それはさておき、三人産んでよかった。姫を呼べ」
「王女殿下は」
侍従が言葉を止めた。
その後、ゆっくりと、時間稼ぎに、言葉を吐き出す。
「逃げられ まして」
「よっし。わが子らしいさすがの保身力。捕まえてくる」
王妃が部屋を飛び出していった。
城、玄関口。
姫「急いで。急いで。貴方、早くっ」
婿「何が起きてるのっ」
夫婦はそれぞれ子を抱えて、馬車に乗り込もうとしていた。
姫「いやだいやだいやだ。戦時に王様になんかなりたくなーいっ。三人産んだら、女公爵だって、約束だったのにっ(あと一人足りてない)」
婿「落ち着きな、よ。あ、無理だった。逃げられない」
玄関から馬車に乗り、動き出したが、門の前で女王、いや王妃が満面の笑みを閃かせ、ひらひらっと手を振っていた。
姫「いやだもーんっっっ」
母「子供と夫を捨てて走って逃げれば、捕まらなかったかもなー。その甘さ、たいへんけっこう」
姫「御者の人、母様轢いて逃げよう」
御者「それは無茶にございます。一族郎党消されてしまいます」
第一王女一家は馬車から引きずり降ろされ、立太の書類にサインさせられた。
婿「公爵家に婿入りなのは了承してましたけれど、王配予定はないんですが?」
姫「そうだ、そうだ。私も公爵になる予定だったはず」
母「公爵家は私と王が退位して切り盛りするから、新年には玉座座れ。私と王だって、女公爵と婿予定だったよ。そういう運命なんだ」
父「兄上が死ななきゃねぇ。まあそんなわけで、私たちが戦争行くから、若い者は国の政頼んだよ」
母「やはり乱世は保守派に政治してもらいたい」
姫「やだ。絶対、父上、母上、こっちの備蓄と兵站力無視して、文句がんがん言いながら戦争してくつもりだから。やだ。貴方方は城に封じられてるほうがいいんですよ」
母「だらだら戦争すると、孫子の代まで引きずることになるから、今、叩くんだよ」
戦中に育って、戦争を終わらせた世代は、容赦がない。
姫「本音は?」
母「久々に騎馬兵と駆け回ったら、楽しくなって、な」
姫「そんな理由っっ」
「姉上が継ぐのか。よし、逃げ切った」
東にいる第二王子は、その報告を受けて、こぶしをぎゅっと握って、ぴょんと跳ねた。
晴れ晴れした顔をして。
黒百合伯「王位を継ぐのは嫌なんですか」
「現在の王と王妃の武勇伝知っていれば、その後継になるのはプレッシャーだよ。母上もあれだけれど、父上は父上で、海賊の首魁たちとさしで飲み合って義兄弟の杯交わしていたり。兄上ぐらい、なんていうのか、ポジティブだと気にしないみたいだったけれど」
黒百合伯「あそこまで頭が悪いと困ります。あとは、そういう客観性のある方が玉座にあるのを臣民は望みます」
「姉上は私以上だよ。兄上だけ、なんでああなったのかわからないが」
黒百合伯「あ」
「思い当たる節が?」
黒百合伯「第一王子がお生まれになったあとしばらく、戦時下でした。その後も終戦停戦の条約などもなく、緊迫していましたので。現国王陛下、妃殿下は忙しく。あの方を育てたのが前王妃殿下でした。姫は戦地で生まれましたから、戦後のきなくさい空気を存分に吸ってお育ちに」
だから、まずいと思ったら王女は全力で逃げるが、速度で王妃に負けたのだ。一人なら逃げ切れたのに。