昨今の物語に、よくある話?
実母が死んで一年後、贅沢したいという義母と、お姉様ドレスちょうだいという義妹ができたんだけれども、巷に聞くのとなんか違う。
ピクシブにも掲載
完結確約
母と王都で暮らしていたのを、母の死をきっかけに、そこから馬車で三日かかる領地に引っ越しすることになって、それから一年後。
私は喪服を先週脱いだばかり。暑くなってきたから、脱げるのはうれしい。黒は暑い。
忙しくしていて、しょっちゅう飛び地の領地に出かけてしまう伯爵当主のお父様が、
「ただいま、ジュナ。新しいお母様と、いきなりだが妹だ。仲良くしてくれ」
と、突然、なんの事前連絡もなく女性と女の子を連れてきた。
え。
と、私は固まった。
場所は玄関。
執事に、お出迎えをと促されて、大階段を降りたところで待っていたら。
玄関を(従僕が)開けて、入ってきたお父様が、ほんとうにいきなり。
「旦那様、贅沢して良いんですよね」
「いいともっ」
ノリ、おかしい。
お父様、こんな軽快に返答する人じゃなかったよねっ。
「ミーちゃんも、お洋服いっぱい?」
「いいともっ。だけど、まあ、ジュナの着なくなった服が余っているはずだから、それでちょっとお試ししてみなさい」
真新しいけれど、服屋で既製品を買って、とりあえず身に合わせた、母と娘が二人。
母親は20代半ばぐらい?
娘は10歳にはなっていなさそう。
大きなお出かけ用の帽子をかぶっていて、顔も髪の色も、目の色もすぐにはわからない。
「というわけで、執事、侍女長、その補佐までは、家令のライリーと摺り合わせして。明日には私は出かけてしばらく帰ってこれないからね。若い娘一人、長く屋敷に一人にしておけないから、急遽結婚しちゃったけれど、わかってくれるね、ジュナ」
「え、全然わかりませんよ」
お父様は私の手をぎゅっと握って。
「新しいお母様の言うことをよく聞いて。実権は全部、新しいお母さんに渡しておくから」
「乱暴ですよ、強引すぎます。っていうか、母と妹の名前をまず教えてくださいよっ」
「ああ、そうだね。新しいお母様はマーサさんだ」
「正確にはマーシャリーですが、マーサでもいいです」
「で、妹になるミーちゃん」
「ミーシャ、8歳ですっ・・・あ、9歳ですっ」
私と3歳違いですね。
お父様新しい妻子の名前覚えてなくないですか。
あわただしく翌日、家令ライリーを伴って、お父様は出て行き、それから3年近く帰ってこなかったのです。
軽く自分のことを説明しますと、私は黒百合三つをあしらった家紋の伯爵家の一人娘。正式な名前は長くなるのと、花を卸している兼ね合いで、黒百合伯爵、でとおります。
母譲りの茶色い髪と父方の祖母似のグレーっぽい青の瞳で、やはり祖母に似た古風美人な顔をしています。父親よりちょい上の人に受けの良い顔です。
まだ12歳の、後半ですが。少し上に見られます。
我が家は王都に屋敷と、近郊に300人ぐらいの領民がいる花畑中心の農地があり(王都での大きな夜会や式典に花を売ります)、東の方に二カ所、主に麦を栽培している領地があって、こっちは領民がそれぞれに1万人近くいるので、そちらがメイン領地ですね。
お父様が忙しいのは、三カ所の領地を見て回るのと、王都であれこれ(花と麦の売り込み)しているからですね。
都暮らしだったわりに、学がなかったので、こちらに来てからすごく詰め込まれて、一年掛けて、とりあえず令嬢としてなんとかなったかな、と思った矢先に、あのありさまで。
母と暮らしていて、父が家庭教師を差し向けてくれたんですけれども、母が『伯爵家の跡継ぎ娘に男爵程度の連中が勉強を教える必要はない』と、教師を毛嫌いして、ほとんど学ばなかったんですよねぇ。
だからって、お母様が勉強を見ることはなくて。
まあでも、夜会に忙しかったので、ほったらかされる間に、乳母(父の部下の妻)が読み書きと簡単な詩文は覚えさせてくれたのですが。騎士の妻で、農家系の男爵の出なのもあって、話し言葉やマナーが・・・。
母の死、ですか?
いつもの夜会に出て、悪酔いしたらしくて、その日は早めに帰ると、馬車にのって帰宅途中で、冷たくなってた、らしいです。
直接ではないですが、家令と執事の会話をちょっと耳にした感じでは。
吐きそう? だったのを我慢してたら、馬車の揺れとあわせて、それが、喉の気管に詰まったらしくて。
侍女でも一緒に乗っていれば気が付いて、助かったかもしれないけれど。
一人だったので。
なんかもう、ちょっと。
人様に言いにくい死因。
だから、
「ご病気だったのかもしれません」
と、私の乳母からは言葉濁されて説明されました。聞こえてたけれどもねっ。
とにかく、アレな母が死亡して、唐突に新しい、またアレな気配を漂わせる母と妹が出来たわけですよ。
身内に恵まれない・・・。